東京工業大学(東工大)は6月18日、機能性フィルムの簡便な表面歪み計測法を開発したと発表した。

同成果は、同大 資源化学研究所の宍戸厚准教授、赤松範久大学院生、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の竹谷純一教授、九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の藤川茂紀准教授らによるもの。詳細は、英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載された。

材料の表面歪みは、力学特性に関わる基本的かつ重要な情報であるため、数多くの計測法が提案され利用されてきた。しかし、いずれも硬い材料の歪みを対象としており、近年、急速に開発が進むウェアラブル端末やフレキシブルディスプレイの素材となる柔軟な材料の変形歪みを計測できる手法が強く望まれていた。

研究グループは、大きく曲がるフィルムの表面歪みを簡便に定量計測できる手法「表面ラベルグレーティング法」を開発した。同手法では、対象となるフィルムの表層だけに回折格子と呼ばれる数マイクロメートル周期の構造をラベル化する。ラベル化されたフィルムはレーザ光を入射すると、回折格子の周期に応じて光が回折する。このフィルムを曲げながら、回折角を計測するとフィルムの表面歪みだけを精度よく計測できる。同手法は、表面が滑らかであれば、原理的に対象物を問わない。例えば、プラスチックだけでなく、ガラスや金属のフィルムに加え、異種物質からなる積層フィルムの表面歪みも計測可能な汎用性の高い手法であるとしている。

同手法によって、柔軟なエラストマーフィルムの曲げに伴う表面歪みを測定したところ、硬い材料を取り扱う従来の固体力学では説明できない特異的な変形挙動が明らかとなった。また、光応答性を有するフィルムの曲げでは、内面と外面の両面が収縮する曲げ変形が観測された。さらに、硬さの異なるシリコーンゴムが積層されたフィルムでは、単層フィルムに比べて表面膨張が増大あるいは減少することが発見された。これらの結果は、柔らかい材料の力学(ソフトメカニクス)が硬い材料を扱う従来の固体力学とは異なることを示している。

今回の表面歪みの簡便な定量解析により、勘と経験に頼った素材開発から脱却し、定量的な材料設計が可能になることによって、ウェアラブル端末やフレキシブルディスプレイの開発に弾みがつくことが期待されるとコメントしている。

フィルムの曲げ変形に伴う表面の膨張と収縮。同じフィルムでも異なる外部刺激によって表層の歪みは全く異なる。柔らかい材料特有の力学が存在することを明らかにした