群馬大学(群大)は、米国立衛生研究所(NIH)との共同研究により、皮膚にキズができるとタンパク質「MFG-E8」がキズの中の「肉芽組織」に多く分泌されることや、MFG-E8が血管量を増やすことによってキズを治すのに重要な役割を果たすこと、さらに「難治性皮膚潰瘍」ではMFG-E8が低下していることも明らかにし、皮膚創傷治癒の新たな機序を解明したと発表した。

成果は、群大大学院 医学系研究科皮膚科学の石川治教授、茂木精一郎講師、内山明彦大学院生、NIH 皮膚科学のMark C. Udey博士らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月19日付けで国際雑誌「American Journal of Pathology」にオンライン掲載された。

「難治性皮膚潰瘍(なかなか治らないキズ)」や「褥瘡(床ずれ)」によって多くの患者が苦しんでおり、治りにくいキズを早く治すことができる新たな治療法が切望されている。そうした背景を受け、研究チームがまず進めたのが、マウスの背部皮膚を用いた創傷治癒モデルの確立だ。

その観察の結果、MFG-E8は皮膚にキズを作って4日目から発現が増加し、特に7日目で多く発現が見られたという。肉芽組織に全体に発現が見られたが、中でも血管周囲に多く発現が見られた。さらに、MFG-E8が欠損したマウスを用いて創傷治癒の検討も実施され、MFG-E8を欠損したマウスでは、皮膚のキズの治りが遅くなり、血管数も低下していることが確認されたのである。これらの結果より、MFG-E8は皮膚にキズができると多く分泌されて、血管数を増やして創傷治癒を促すことが明らかにされた。

また研究チームは、ヒトの創傷部(褥瘡部)におけるMFG-E8の役割についての検討も実施。その結果、血管を豊富に含む肉芽組織では、MFG-E8の発現は血管の周囲に多いことが確認された。一方、なかなか治らない褥瘡の不良肉芽組織ではMFG-E8の発現が低下していることが判明。これらの結果から、ヒトにおいてもMFG-E8が血管新生を介して創傷治癒を促す可能性が考えられるとしている。

今回の成果は、難治性潰瘍における新たな病態の解明につながり、将来、難治性潰瘍や難治性褥瘡に対する新しい治療法、医薬品の開発、臨床応用に大きく貢献できることが予想される。今後は、糖尿病や循環障害によって治りにくいキズにおけるMFG-E8の役割を解明したいとした。