計測機器大手Agilent Technologiesの日本法人であるアジレント・テクノロジーは5月8日、高性能ポータブルオシロスコープとして、最大8GHz帯域に対応した「Infiniium Sシリーズ」および最大6GHz帯域に対応した「InfiniiVision 6000Xシリーズ」を発表した。

「Infiniium Sシリーズ」は、最大40GSpsを実現した10ビットA/Dコンバータ(ADC)を搭載したオシロスコープで、2チャネル利用時に各チャネル20Gspsで動作が可能なほか、従来の8ビットADC搭載機に比べ、垂直軸分解能を4倍向上している。

「Infiniium Sシリーズ」の概要

また、新開発の低ノイズフロントエンドの採用により、雑音を従来機比50%に低減することに成功しており、1GHzで90μVrms、8GHzでも260μVrms@1mV/div,50Ωを実現しているとする。

新開発の40GSpsを実現できる10ビットADCや低ノイズフロントエンドなどの採用により、これまでにない性能を実現できるようになった

アナログ帯域として500MHz/1GHz/2GHz/2.5GHz/4GHz/6GHz/8GHzの7機種が用意されており、デジタル16チャネルを備えたモデルもラインアップ。いずれの機種も8GHz帯域までアップグレードが可能なほか、キャリブレーションなども8GHzベースで実施されているという。また、1チャネルあたり50Mポイント、インターリーブ時で100Mポイントのメモリが搭載されている。

競合各社の同クラスのオシロスコープと比べても低ノイズであるという

ハードウェアとしては、Intel Core i5プロセッサに8GBのDRAM、250GBの着脱可能なSSD、ギガビットLAN、USB3.0などを標準搭載しているほか、15型の静電容量方式を採用したタッチパネルも採用しており、2フィンガー操作によるピンチ、スワイプ、ズームなどの操作も可能となっている。

アナログのディスプレイ出力のほか、DisplayPortも搭載しているため、マルチディスプレイ環境での利用も可能

会見場にてデモ展示されていた「Infiniium Sシリーズ」の最上位機種「MSO-S 804A」。背面の機能は片側に集約されている

「Infiniium Sシリーズ」の発売に合わせる形で8GHz帯域前後に対応するプローブも拡充された。同プローブには新技術として、磁力によるプローブヘッドの脱着システムが採用されており、これまでの抜き差しといった作業に比べて、かなり楽に脱着できるようになったという。また、磁力ということで、ノイズなどの影響はないのか、という疑問が出てくるが、この点に関しては、多くのユーザーからも質問が出てくる項目になるはずなので、きっちりとした回答を用意しておく、とのことであった

一方の「InfiniiVision 6000Xシリーズ」は、価格性能比を意識したモデルで、帯域幅は1GHz/2.5GHz/4GHz/6GHzで、2チャネル品と4チャネル品が用意されており、最大6GHz帯域幅に対応したモデルであっても価格は約350万円(税別)から、と低価格を実現している。

「InfiniiVision 6000Xシリーズ」の概要

12.1型の静電容量方式のマルチタッチパネルを採用しているほか、毎秒45万回の波形更新速度を実現しており、ハードウェアで実装されているInfiniiScan Zoneタッチトリガ機能を活用することで、タッチパネルを用いて簡単に異常信号の観測、切り分けを行うことが可能だ。また、カラーグレード表示により、周波数、振幅、発生頻度などを簡単に見ることが可能なほか、自動で周波数のピークを検知してマーカーを最大11カ所まで配置することも可能となっている。

操作感の向上とカラー化などにより、詳細に波形を見ることが可能

さらに、両手がふさがっている状態での操作を可能とすることを目的にNuance Communicationsの音声認識技術を導入。これにより、音声による操作を行うことも可能となっている。対応言語は英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、韓国語、中国語、日本語など14カ国語で、20個のコマンドに対応している。

ちなみに同シリーズは、オシロスコープの機能のほか、ミクスドシグナル・ロジックアナライザ(MSO)、シリアル・プロトコルアナライザ、2チャネルの任意波形発生器、3桁のデジタル電圧計(DVM)、10桁デジタルカウンタの合計6つの機能を統合しており、1台で複数の役割を担うことが可能だ。

オシロスコープのほかに5つの機能(合計6つ)を搭載したほか、音声入力機能にも対応している

また、奥行き15.4cm、重量6.8kgと軽量、薄型化を実現。これについて同社は、フロントエンドを「Infiniium Sシリーズ」と同じものを採用し、電源などの各部のコンポーネントも徹底的に省電力のものを採用することでヒートシンクなどを極力削減することで実現したとするほか、高性能ながらほとんど廃熱を伴わないInfiniiVision4000Xシリーズと同じASIC「MegaZoom4」を採用することで、コストの低減も両立できたと説明する。

アジレント・テクノロジーの代表取締役社長である梅島正明氏

なお、同社代表取締役社長の梅島正明氏は今回の2シリーズの発売に際し、日本のオシロスコープの市場は100億円で、すでにサンプリング、広帯域の市場でトップシェアを獲得しているほか、エコノミーカテゴリでも首位とまではいかないまでも首位に肉薄できているところまで来たとみているとし、今回の2シリーズをきっかけに、汎用・ミドルクラスにおいても、「計画通り販売できれば1位の座もをとれるのではないかと考えている」とトップシェアをうかがうところまで行けるのではないかとの期待を示した。

また、同社は2014年8月1日付でキーサイト・テクノロジーとして新たな出発となるが、「今後は、電子計測機器事業の利益のすべてを計測機器の開発にそそぐことができるようになる。今回の10ビットADCなどを惜しむことなく内製できるようになり、市場での成長していくための戦略に集中することができるようになる」との見方を披露。そうした開発力の強化により、今後も新しい製品を投入していくことでユーザーの期待に応えていきたいとし、キーサイトに注目してもらえれば、とした。

「InfiniiVision 6000Xシリーズ」の4チャネルモデル「MSO-X 6004A」の外観。12.1型のマルチタッチモニタは十分な大きさがあるが、奥行きは薄く、実際に持ってみると、意外と軽い。また、音声入力も大勢の前では恥ずかしいと思う人も多いが、1人で作業していて、両手がふさがっている状況といったシーンなどでは案外活用できる可能性がある。Nuanceの技術を活用しているため、学習効果で話者が同じであれば、認識精度は話せば話すほど向上していく