今年はどの部門も残念ながら1位は取れなかったのだが(ベストTシャツは別として)、それでも日本の大学が表彰台をゲットしており、日本チームの優秀さがわかるはずだ。なお、2012年大会までは学術的な、非常に硬い雰囲気を狙っているチームもあったのだが(米国のチームがネクタイを締めてやっていたらしい)、日本チームは初回からずっと「学生らしいノリ」を大切にしており(チーム監督の教授陣もそれを望んでいるので)、今年はそれが諸外国のチームにも浸透し、プレゼンやビデオが面白いのが日本の専売特許だったのが、今年はどこのチームも会場を沸かせることに対して本腰を入れてきたようで、なかなか手強くなってきたようである。

それでは、各チームのプロジェクトと、その内容を簡単ながら紹介しよう。詳しくは、各チームのWikiのページと、そこにあるYouTubeの動画を見ていただきたい。英語が苦手という人でも、何となくはわかるはずだ。ちなみに、今年は北海道大学と福岡工業大学が初参加。徐々に参加大学が増えているので、このまま10年ぐらい経つと、すごいことになっているかも知れない。

ちなみに、YouTubeの動画などを見ると、毎年毎年、なんでこんなにセンスがある学生たちばっかり集まってくるんだろう? と驚かされる。参加大学の名称を見ればわかる通り、日本でも屈指の学校ばかりなわけで、いくら最近は筆者などの団塊ジュニア世代の時代と比べて少子化で大学に入りやすいといったって、そんな簡単に入れないようなところばかりである。

みんな学教で相当努力して入学したはずなのに、勉強以外のこともできてしまうがすごい。もう、頭がいいだけでもズルイ(笑)のに、そのほかにも才能があるなんて、大した才能のない筆者のような人間からするとうらやましくて仕方がない。いや、頭がいいから、いろいろと対応できるってことなのかも知れないが。まぁ、そんな筆者の若い才能に対するやっかみはともかく、どのチームのビデオも必見なので、Wikiのホームページと合わせてぜひ見てほしい。

北大

今回初参加の北大は、葉緑体を利用して分子モータを動かすシステム「MARIMOD」の開発に挑んだ(画像1)。分子モータタンパク質の「キネシン」を固定して利用して、本来、生体内ではそれが動くためのレールとなる「微小管」を運動会の大玉運び的に逆に運搬するというシステムの改良版である。全生物のエネルギー源である「ATP(アデノシン三リン酸)」でキネシンを動かすのだが、これまではそのATPが枯渇して運動を持続できなくなるため、エネルギー供給システムの「ATP再生システム」として光合成に着目し、ほうれん草に含まれる葉緑体から「シラコイド膜」を取り出し、光合成を行うゲルを作成。それを球状として、「マリモゲル」(画像2)と名付けたというわけだ。まだATPの生産性が低く、予定通りに動かせなかったようである。

画像1(左):北大「MARIMOD」のWikiのトップページ。画像2(右):マリモゲルの仕組みのプレゼン画面

東北大

ディフェンディングチャンピオンの東北大チーム仙台が今回取り組んだのは、連鎖反応で大量の薬物を放出するシステム「Lipo-HANABI」だ(画像3)。Lipoとは、「リポソーム」(脂質二重膜)のことで、現在はドラッグデリバリシステムへの応用などが期待されている。リポソームは、花火玉の中に詰め込まれる「星」と呼ばれる火薬玉のように「爆発リポソーム」が多数セットされており、温度上昇によって中心の「着火リポソーム」が割れると、「カギ」が放出され、それがその周囲の爆発リポソームを爆発させていく。そして連鎖して次々と爆発し、各リポソーム内に入れられた薬剤などの物質が放出される仕組みだ。この仕組みの発展としては、ドラッグデリバリシステムや、分子モータへの燃料供給システムなどとしている。

画像3(左):東北大「Lipo-HANABI」のWikiのトップページ。画像4(右):まず中心の着火リポソームが爆発してカギをばらまき、次々と爆発リポソームを爆発させていく。この爆発の連鎖が球体の中で花火玉のように起きる仕組みだ

東大‐柏

東大からは毎年複数のチームが出場しているが、柏チーム「Todai nanORFEVRE」が今年取り上げたテーマは「抗がん治療」だ。抗がん剤ががん細胞だけでなく、副作用として正常細胞も破壊してしまうため、その解決を目指して研究が進められた。その結果、考え出されたのが、まさになの医療ロボットシステムともいえる、がん細胞の細胞膜にのみ穴を開けて殺傷するシステム「Oligomeric Cell Killer」、通称OCKだ(画像5)。全体として6つのステップを考案し、4番目のがん細胞を認識するところまでは実現した。5番目のがん細胞膜上で合体する、6番目のがん細胞膜に穴を開けるは今後、としている(画像6)。

画像5(左):東大-柏「Oligomeric Cell Killer」。画像6(右):全体で6つのステップで構成され、4番目までは達成された

東大‐駒場

今回は、奇しくも福工大と同じで回転する分子がデザインされたことがないということで、その回転に着目した。そして東大-柏と今度は一部コンセプトが重なる形だが、細胞膜にドリルのようにして穴を開けるシステム「DNA screw」を考案したというわけだ(画像7)。DNA screwの構造は、中央にあるのがシリンダーでそれが通過する形になる周囲の円環がリングで、その両者を「DNAスパイダー」がつないでいる。イメージとしては、真ん中がボルトで、周囲がナットという具合で、DNAスパイダーがボルトを回転させる機構である。残念ながらこちらも計画のすべてを実現できたわけでなく、シリンダーとリングのみを作れただけだったという(画像8)。

画像7(左):東大‐駒場「DNA screw」。画像8(右):DNA screwのイメージは右下。構成する3つのパーツの内、中心のシリンダー(左上)と、リング(中上)は作成に成功。回転させるためのDNAスパイダーは今回は開発ができなかったとしている。

東工大

東工大チームが取り組んだのは、ナノテクノロジーを応用した化粧品というコンセプトの「Cosmetic Biomolecular System」である(画像9)。ユーザーの好みに合わせて自在に紫外線のカットを行える、「UV-チューニング・ナノ-パラソル」機能(画像10)と、構造色を利用した化粧を行える「コントローラブル・オプティカル・メイクアップ」機能の2つを併せ持つ。過去のBIOMODにおいて、化粧品に関するプロジェクトが発表されたことは、少なくとも日本チームではなかったし、海外のチームも行っていないようなので、革新的といっていいだろう(医療用と工業用がほとんど)。安全性の問題などをクリアできれば、すぐにでも化粧品として売りに出されそうなコンセプトである。

画像9(左):東工大「Cosmetic Biomolecular System」。画像10(右):「UV-チューニング・ナノ-パラソル」機能のイメージ。肌の上にナノスケールの傘を用意し、紫外線から守るというコンセプトだ

関大

関大チームが取り組んだのは、ナノメートルスケールのパラパラマンガ「Nano Flip-Book」だ。題材は、イソップ童話の「ウサギとカメ」である。AFM(原子間力顕微鏡)で画像を見る形で、構造体として、土台、ウサギ、カメを3つ作って土台の上をウサギとカメが移動していく様子を描いた(横から見る形)。構造体の組み合わせとしては17種類(モーション)を作って、それでパラパラマンガとして表現することに成功した(画像12)。そのほか、実際に作った際に凝集してしまう問題があり、土台のDNAオリガミの一部に「ヌンチャクリンカー」という構造を作って解消したという。

画像11(左):関大「Nano Flip-Book」。画像12(右):17種類のモーションにより、パラパラアニメを実現した

福工大

福工大チームが取り組んだのは、分子サイズの風見鶏「The DNA weathercock」だ。分子デザインや分子ロボットで重要な要素であるDNAオリガミを回転させるものが少ないことから、それを採り入れようということで考えたのが風見鶏だったという。この風見鶏で見るのは、微細な流れということである。ただし、予定の成果は得られず、風見鶏を作ることはできたが、それをきちんと特定の場所にはめ込んで機能させるところまでは確認できていないので、来年度以降に引き継いでもらいたいとしている(画像14)。

画像13(左):福工大「The DNA weathercock」。画像14(右):風見鶏を作ることに成功したが、ちゃんと機能するところは来年以降への持ち越し

以上で、各チームのプロジェクトの紹介は終了だが、質疑応答の内容もまとめさせてもらう。まず、今回、複数のチームが「回転」を重視していたわけだが、これは分子ロボットを作る際、ロボットの定義として、センサ、そこからの情報を集約して判断を下す制御機構、そしてアクチュエータとなるのだが、回転はさまざまなアクチュエータを開発する際に必要な動きというわけである。では、直進的な動きはクリアしているかというと、分子ロボットの世界ではまだそれも確実になっているわけではないので、そちらも重要な目標の1つだが、回転運動も大きな目標の1つであり、今回はたまたま複数のチームが注目したというわけだ。