弘前大学と東北大学、東北特殊鋼は12月13日、振動発電やワイヤレスセンサへの応用が見込まれる、量産加工性に優れた鉄基の磁歪材料を開発したと発表した。
同成果は、弘前大 北日本新エネルギー研究所の古屋泰文教授、東北大 金属材料研究所の山浦真一准教授、中嶋宇史助教、東北特殊鋼らによるもの。詳細は、12月19日に東北大学 金属材料研究所にてメディア向けに公開される。
米国で開発された磁歪材料のガルフェノール(Fe-Ga合金)は、比較的機械加工性が良く、振動発電や磁歪アクチュエータ用材料として注目されているが、PZT圧電素子に比べ高価なため、あまり普及していない。しかし、PZT圧電素子は脆くて大型化が難しく、発電素子としても電気抵抗が高く、大きな電流を得ることが困難である。
これに対し、研究グループでは、非希土類鉄系の磁歪合金(FePd、FeGa、FeCo系)の実用化を目指した基礎研究開発を15年前より行っている。そして、自動車用トルクセンサへの適用などを検討すると同時に、2011年には、Co過剰型Fe-Co合金(Co>60%)で、比較的高い磁歪(>60ppm)と、振動発電の高い出力特性を得ることに成功している。
今回、この磁歪量をさらに大きくして(>100ppm)、逆磁歪効果を振動発電やトルクセンサとして実用できるレベルに高めると同時に、一般向けに広く普及可能な低コストで製造する方法の研究開発を進めてきた。開発は、弘前大学と東北大学が主にFe-Co系材料の基礎物性と機能特性の解析、東北特殊鋼が材料の量産製造工程の開発、三木プーリがデバイス開発を担当した。
開発では、既存の実用磁歪材料ガルフェノールやターフェノールDのような単結晶成長や焼結法などの手法はとらず、鉄鋼生産設備により低コストで製造できる量産工程の確立を目指した。そこで、Co過剰型Fe-Co合金の種々の組成および熱間、冷間での鍛造や圧延、伸線などの加工性の調査とともに、加工に伴う材料内部の微細構造の変化や磁気特性、磁歪特性の調査およびセンサや振動発電素子としての能力の調査を行った。その結果、熱間および冷間加工と熱処理を組み合わせた処理を施すことによって、現在までに150ppm程度の磁歪と、実用化可能レベルの発電特性とセンサ特性を持つ、Fe-Co系新磁歪材料およびその低コストな製造方法の開発に成功したという。
これにより、既存の実用磁歪材料ガルフェノールやターフェノールDに比べ、大幅にコストダウンした新磁歪材料を提供できるようになる。同材料を小型の振動発電素子として利用する場合は出力はmWレベルなので、鉄道や橋梁などのインフラや工場機械やプラントなどに設置された安全保守点検モニタリングセンサのワイヤレス通信用電源などとして利用でき、配電配線設備が不要なユビキタスセンサデバイスの普及への寄与が期待される。また、自動車や人の歩行などの移動体での振動による電源装置としての活用も期待される。さらに、比較的大きな素子に利用すると、各種構造物の振動や自然界の風水流などの振動エネルギーから電力を取り出すコンパクトな発電装置として、エネルギーハーベストの分野での活用も期待される。
この他、力センサとしては、磁歪材料と磁気検出器だけの単純な構造の小型でコンパクトな力検出デバイスが可能になり、自動車のパワーステアリング用ハンドルトルクセンサや、機械やロボットなどの狭いスペースに設置するワイヤレス力センサとしての利用が期待される。加えて、磁歪を利用したアクチュエータや、振動エネルギーの吸収能力を利用した制振防振装置への利用など、今後、様々な分野で、省エネ、安全、利便性の向上に寄与するものと期待されるとコメントしている。