国立天文台は5月31日、京都大学、東北大学との共同研究により、アルマ(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)望遠鏡による観測から、これまでほとんどが正体不明だった宇宙からのミリ波信号のおよそ80%の起源が微小な固体粒子(ダスト)を豊富に持つ銀河だったことを明らかにしたと発表した。
成果は、京大大学院 理学研究科のの廿日出文洋 研究員(日本学術振興会特別研究員)、同・太田耕司教授、同・大学院生の世古明史氏、国立天文台の矢部清人研究員、東北大学大学院理学研究科の秋山正幸准教授らの研究チームによるもの。
ミリ波・サブミリ波は、ダストに吸収された星からのほかの波長の電磁波(光)がそれらとなってダストから再放射されること、ほかの波長と比較して遠くの銀河を効率よく見ることができるといった特徴を持つ。1990年代末頃から、ミリ波・サブミリ波を用いた遠方宇宙の探査が行われるようになり、その結果発見されたのが、ミリ波・サブミリ波では明るく見える、ダストに厚く覆われた巨大な新種の銀河だ。それら新種の銀河は、年間数100個から1000個という非常に活発な星形成活動を行っていることがわかってきている。
しかしそれらの銀河は特殊な部類に入るため、宇宙にある銀河の全体像をとらえるには、より穏やかな星形成活動を行っている「一般的な銀河」も観測する必要があった。しかし、これまでは既存の観測装置では感度に限界があるため、暗い銀河を検出することができなかったのである。
そこで研究チームは今回、初期科学運用が始まっているアルマ望遠鏡を使って、くじら座の方向にある「すばる/XMM-Newton深探査領域」と呼ばれる領域を観測。その結果、これまで見つかっていなかった非常に暗い銀河を15個発見したのである。
今回の観測では、ミリ波帯ではこれまでで最も暗い天体の個数密度を計測することに成功した。検出された天体の明るさごとの個数密度を表示したのが画像1だ。これまでの結果と比較して、約10倍も暗い天体の個数まで描き出している。
また、銀河形成の理論予測と比較すると、観測結果とよく一致していることがわかった。これにより、今回の観測では、ダストが豊富に存在する銀河ではあるが、今まで検出できなかった、より一般的な銀河に近い種族だと考えられている。
画像1。今回発見された銀河の明るさごとの個数密度(赤)。従来の観測(青)と比較すると、約10倍暗い銀河までとらえている。曲線は、銀河形成理論の予測。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)、京都大学 |
画像2は、SXDS領域の観測画像を基にしたイメージイラストだ。ミリ波・サブミリ波望遠鏡では解像度が不足していたために電波を出している天体を特定することができなかったが、アルマ望遠鏡による観測によって明瞭に天体を特定することができた。またこれらの天体は可視光では検出されていないため、ダストが豊富に含まれた天体であることが示唆される。
なお今回の成果は、ミリ波・サブミリ波帯での宇宙背景放射のおよそ80%の起源は、今まで検出されなかったより一般的な銀河であることを示唆するという。ミリ波・サブミリ波帯では、過去の人工衛星による観測から、宇宙からやってくる信号の総和はわかっていたが、空間分解能が足りず、その正体は10~20%程度しかわかっていなかったのである。
そのため、宇宙に存在する銀河の全体像を解明するには、さらに高感度な観測が必要だという。今回の結果はアルマ望遠鏡のアンテナの一部、23~25台を用いた観測で得られたものだが、アルマ望遠鏡は今後さらにアンテナ数を増やしていき、観測能力を向上させていく(最終的にアンテナは全66台が設置される)。
廿日出研究員は抱負として、「アルマ望遠鏡を使ってさらに暗い銀河の観測を行うと共に、星形成活動やダスト量などを詳しく調べ、銀河進化の全体像を明らかにしたいと思います」とコメント。また、太田教授は「我々は、ダストに吸収されて暗くなっている銀河の姿を探るため、すばる望遠鏡による可視・近赤外線での追究観測も予定しています。しかし、非常に暗い銀河については、より大きな集光力を持つ30m望遠鏡が必要になるかも知れません」としている。