石川県金沢市が主催するデジタルメディアイベント「eAT KANAZAWA 2013」(イート・カナザワ、以下eAT)が、今年も錚々たるゲストと多数の参加者を迎えて1月25日、26日の2日間にわたり開催された。このレポートでは、同イベントの2日目午後に行われた、6つのテーマについて各分野のプロフェッショナルが語るセミナーの様子をお伝えする。
【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【1】
【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【2】
【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【3】
【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【4】
Super Lecture 3 「B+ 3Dアナログと3Dデジタルの融合で世界を変える」
Super Lectureの3番手に登壇したのは、3Dコンサルタントでありケイズデザインラボの代表取締役を務める原雄司氏だ。テーマは、「B+ 3Dアナログと3Dデジタルの融合で世界を変える」。クリス・アンダーソンの最新著書「MAKERS」やテレビ番組の影響もあり、IT系のメディアのみならずさまざまな分野で今、3Dデジタルが注目を集めている。その推進役として現在各所で引っ張りになっている人物が原氏だ。アナログとデジタルで世界を変える。これを会社のコンセプトとして標榜するケイズデザインラボの原氏は、どんなB+を話してくれるのか。
3Dスキャンや3Dプリント、プロジェクションマッピングといった、3Dデジタルによる試作品や製品づくりにはいろいろなメリットがある。これまでの金型を主流とした製品づくりにはコストも時間も要したが、3Dデジタルの技術革新が進んだことによって、ものづくりのある行程や用途によってはむしろ3Dデジタルのほうがはるかにメリットを出せる状況になってきた。また、ものづくりの観点でいえば、ビジネス用途のみならず、一般の人にも理解がしやすい環境が整ってきた。実際原氏は昨年、東京・渋谷に3Dのスタジオを起ち上げ、これまで行ってきた3Dプリンタや3Dスキャナの機器販売業務のみならず、3Dデジタルを使ったモックアップなどのサービスビューロー、および一般の人でも体験できるワークショップを提供している。
誰もがアイデアを手軽に短時間でカタチにできる。アナログとデジタルの融合によってそれを実現させビジネスにしている原氏ではあるが、今日に至るまでの道のりはやはり平坦ではなかった。2006年から始めたこれらサービスは、ある種の専門性の高いニーズには応えられていたものの、一般に浸透するには時代が早すぎたのだ。例えば、Super Lecture 1の石黒氏が開発した女性アンドロイド制作時でも人物の3Dスキャン等で協力をしたそうだが、一方で、街中に3Dプリントショップを作ろうという思いから東京、大阪、名古屋に起ち上げたものの、鳴かず飛ばずで倒産の危機にまで陥った経験がある。
原氏にとっての3Dデジタルのビジネスの原点は、前職であるCAD/CAMメーカー時代の技術開発責任者にある。社内ベンチャーで切削RPというカテゴリで市場を創出後、独立して製品表面加工技術を開発。東京都ベンチャー技術大賞の奨励賞も獲得した。その延長線上に、今のビジネスがある。
そんな原氏にとって今のブームといえる状況はどう映っているのか。セミナー終了後、ご本人に問いてみた。
テレビや各種メディアがわかりやすくその動向を伝えようとするがあまり、間違った認識もされ始めている。例えば新産業革命だとか、従来型の金型は間違っているだとか。誰もがアイデアを手軽に、短時間でカタチにできるという意味では間違いではないが、3Dテクノロジーの進化の意味では、もっと開発が進まなければ本当の意味でのカタチには近づけない。また、日本の製造業においては、町工場が近くにあるメリットがデジタルとの融合でもっともっと活用される環境づくりに注力しないといけないのではないかと思う。
原氏はアナログとデジタルの融合の在り方を正しく伝えるための活動の1つとして本セミナーに登壇した。ものづくりだけでなく、日本のさまざまな分野で3Dデジタルが活用されることで、製造業の新しい形が見えてくるのかもしれない。
(取材:Mac Fan/小林正明、岡謙治)