東北大学(東北大)は1月10日、次世代材料であるグラフェンの超臨界流体を用いた量産化技術を開発したと発表した。これにより、安価で良質なグラフェンの製造が可能となり、応用展開に期待がかかるという。

同成果は、同大 多元物質科学研究所 本間格教授、笘居高明助教らによるもの。開発は昭和電工と共同で行われた。

グラフェンは、層状構造を持つグラファイトの単層分であり、グラファイトから剥離させることで単離する。一方、超臨界流体は、気体と液体の中間状態であり、高密度かつ高い浸透性を持つことから、超臨界流体中の溶媒分子が層間に侵入することで、グラファイトからグラフェンを剥離させる効果があることを、これまでの研究から明らかにされていた。研究チームは、この超臨界流体(超臨界エタノールなど)によるグラフェン剥離操作において、新たに開発した連続的原料処理が可能なフローリアクタ(流通式反応器)により、超臨界流体処理時間を80秒程度まで短縮、従来のバッチリアクタ(密閉式反応器)と比較して100倍以上の飛躍的なグラフェン生産能力の増大を達成したという。

図1 超臨界流体フローリアクタ。原料グラファイトは、溶媒とともに加圧ポンプで加熱部に送られ、超臨界条件で処理されることでグラフェンとなる。処理後、水冷・減圧により常温常圧に戻しグラフェン分散液を得る。回収部と投入部を直結し、ループを形成することで容易に繰り返し処理を可能とする

また、積算加熱時間を同等とした場合、リアクタ内で原料を長時間処理し続けるよりも、断続的な加熱急冷を繰り返した方が、剥離プロセスがより進行することを明らかにし、高い単原子層収率での量産化プロセスの実現可能性について検討した。今回開発されたフローリアクタでは、回収部において得られたサンプルを、リアクター内に再投入するループを形成することで、容易に繰り返し加熱急冷工程を設定することができる。この結果400℃、12回の繰り返し超臨界流体処理(積算処理時間16分)をグラファイト粉末に施すことで、従来10%程度に留まっていた単原子層グラフェンへの剥離効率を、30%以上にまで高めることができることが、ラマン分光による構造解析から確認された。

加熱・冷却工程を繰り返すことで、単層収率が向上することを見いだしたことは、興味深い成果であり、研究チームではさらに加熱・冷却工程の繰り返し数を48回まで増やすことで単原子層グラフェン収率80%以上も可能であることが確認されている。

なお研究チームでは、今回の成果により、良質なグラフェンが安価でかつ高速に製造が可能となることから、従来の電子材料への応用用途だけでなく、軽量高強度構造部材、電池材料、エレクトロニクス、電力・発電技術など、様々なエネルギー技術へのグラフェンの普及が期待できるとコメントしている。また、昭和電工では今後、今回の成果の事業化に向けてスケールアップによる量産性の検証などの研究開発を進めていく計画としている。

図2 乾燥させた約5gのグラフェン粉末(右は単3形電池)

図3 グラフェンの電子顕微鏡像(グラフェンシートにまで剥離している様子が見て取れる)