教科書に書いてないことを身を持って知ることができたBIOMODへの参戦

続いては、BIOMODに参加してプラスになった面に関して。Team Sendaiの代表は、1年生にも関わらず、研究室に通って研究ができたことが非常にいい経験だったという。本来の授業でも、BIOMODで電気泳動などの実験の進め方などをマスターしているため、同じ授業を受けている学生たちに自分が教えて上げることもできたし、授業でDNAなどを扱ったりする時はBIOMODと比較したりできるなど、授業を見る目も変わったことが大きいとした。

TITECH NANO JUGGLERSの代表は、BIOMODに参加したことで、講義で習うことに関して、その裏側にとても長い歴史があるということを実感できたという。実験でも、教科書にはとても簡単にできる的なことが書いてあったが、実際にやってみると全然簡単ではなかったり、1文で「2晩震盪する」とか軽く書いてあったりするが、その1文の裏にさまざまな苦労があるということを身をもって知ることができたとした。

UT-Kasei Runnersの代表は、東大は授業が一方的な感じが強いと感じていたが、仲がよくなった他校の学生たちに話を聞くと、少人数でディスカッションしながらといった形であることを聞いて、実際に今回のBIOMODでそうしたスタイルで学習できて、学習できる速度の速さなど、その有効性を実際に実感できたのがよかったとした。

一足早く研究室の空気を感じられたのが大きかったというのは、UT-Hongoのチーム代表。BIOMODでの実験では、自分たちで望んだ結果を出すにはどんな実験を行えば良いのか、といった点から考えて取り組み、試行錯誤しながら取り組めたこともいい経験だったとした。

T-Komabaの代表は、チームのメンバー全員がDNAなどに興味を持っていたわけではないので、まったく視野になかった分野に触れられて大きな発見があり、いい経験になったという。

その後の質疑応答では、本大会での英語での質疑応答にもっとうまく対応するにはという質問でなるほどと思った解答をしたのが、TITECH NANO JUGGLERSの代表。あらかじめ想定していた質問が聞かれているらしいことは実はわかっていたのだが、向こうの質問の仕方が想定していた言い方ではなかったため、同じ内容でも、複数の聞かれ方を想定しておくのは、対策になるのではないかということであった。そのほか、やはり留学生などと友達となり、常日頃から英語を使う機会を設ける、という話もあった(画像14)。

画像14。参加した学生たちは、発表で手一杯だったりして、外国の学生たちとあまり交流できなかったそうだが、多少は話ができた模様。来年のメンバーはぜひ(外国の)友達100人できるかな、の勢いでいってほしい

また、司会を担当していた東工大の小長谷明彦教授によれば、メンターの間でも質疑応答対策は非常に関心の高いところで、今のところ、来年の中間発表会(国内大会)は、半分以上を質疑応答とし、それも全部英語(今年は質疑応答の実は日本語だった)にしよう、といったアイディアも出ているそうである。

そして記者が質問した内容は、「ここはすごい」と思った海外チームがあったか、またはどこか、というところ。UT-Kasei Runnersの代表は、総合2位となった独国のTech. U. Dresden。お金のかけ方が違うそうで、「これからは大人の世界の勝負になるのかな」ということで、笑いを誘っていた。

来年以降、そうしたお金や設備を持っているところが有利になるのかというと、小長谷教授にうよれば、そうはならないようにしていくということである。また、どうしても学会発表のような硬い雰囲気になりがちだが、そこは学生大会であることも今後も続けていきたいとしている。

BIOMODは、計測自動制御学会システム・情報部門調査研究会 分子ロボティクス研究会の研究者らの発言力が大きいため、日本は蚊帳の外、ということにはならないようである。

昨年も好成績を収めた日本勢だが、今年はさらに好成績を収めたわけで、そうした理由がどこになるのかという話を聞いてみると、前出の小長谷教授によれば、「日本の学生のポテンシャルが高いということです」という。単に研究成果をまとめたり発表したりする部分だけでなく、どのチームもCGのクオリティが高かったり、ウィキペディアも評価が高いなど、トータル的に優れている点がすごいといというわけだ(画像15・16)。

画像15。会場でのTeam Sendaiによるプレゼンテーションの様子

画像16。CGの制作に興味がある学生やスキルを持つ学生がが、どのチームにも1人は居り、YouTubeの動画もすばらしいクオリティのものばかりだ

しかし、去年と今回の成果があったからといって、単純に日本のお家芸の化学とロボティクスの分野を掛け合わせたBIOMOD的な分野で日世界を本がリードしているかというと、そうではないという。

今回、大会としては米国のチームは成績がふるわなかったわけだが、すでに多額の資金と人材が投入され、この分野でのベンチャー創出の方向に動いており、そうした面では大きくリードしているという。この分野でも米国は本腰を入れつつあるようで、なかなか厳しい話だ。日本では、BIOMOD的な分野でのベンチャーなど、とてもあり得ない状況だそうで、今回好成績だったからといって、手放しで喜んでいられない状況である。

ハーバード大がBIOMODのような大会を開催しているのも、現在のベンチャー創出に向けて動いている人材の次の世代を育てることが目的であり、日本は学生のこうしたポテンシャルの高さを活かせない部分があり、そこは大きな課題だと小長谷教授は語っている。

来年の学生たちに向けてのひと言は、まずTeam Sendaiの代表は、来年も参加することを決めているそうで、「2連覇を目指します」と力強い宣言。

TITECH NANO JUGGLERSの代表は、「日本の場合は4月入学なので、本大会の11月までは半年強しかないので大変ですが、せっかく世界の学生たちと競い合える舞台を用意してもらっているので、ぜひ参加して、努力すれば世界と渡り合えるということを知ってほしいです」とした。

UT-Kasei Runnersの代表は、「僕らが参加したことで、ステップを1つ上がれたと思うので、来年の参加者には、僕らのものを利用してもいいし、乗り越えていってもいいので、次のステップを目指してがんばっていってほしいです」とした。

UT-Hongoが「BIOMODもまだ2年目ですが、それでも経験者が増えていくわけで、質のいいアドバイスも受けられるようになっていくと思います。そうした面を利用してがんばっていただきたいと思います。また、開催回数が増えていくにつれて、より新しいアイディアを出していくのは難しくなるかも知れませんが、そこも何とか頑張ってクリアしてほしいです」とした。

UT-Komabaの代表は、「後輩のサポートをしたい」という。しかも、自分自身でしたいのは、「メンターの先生たちのように、豊富な知識と経験を持った専門家によるアドバイスももちろん重要ですが、まったくの素人だった立場ならではのサポートもあると思うので、そうした点からサポートしていきたいです」とした。

何はともあれ、日本の学生は勉強もできるけど、クリエイティブな才能もあるし、笑いも取れるという、世界的に見て高いポテンシャルを見せたのがBIOMOD 2012である。これまでの2年連続の好成績はプレッシャーとなるかも知れないが、2013年もぜひ頑張って、日本の学生は優秀だ、ということをアピールしてほしい(海外の大学や企業からスカウトとかもあるかも知れないという点でも重要になる可能性もあるだろう)。