アライドアーキテクツ株式会社、グランドデザイン&カンパニー株式会社、株式会社モディファイは、去る2012年9月28日3社共催にて、マーケティングセミナー【ザ・ソーシャル2012秋】を開催しました。

スマートフォンネイティブのコミュニケーションサービスを展開するNHN Japan、企業の「ソーシャル化」を推進するセールスフォース・ドットコム、企業内SNSを積極運用している日立ソリューションズ、と様々な形で「ソーシャル」に取り組む3社の講演に続いては、実際に顧客とのコミュニケーションに「ソーシャル」を活用している担当者によるインタビュー形式のトークセッションが行われました。

トークセッション1

株式会社ドクターシーラボ マーケティング部 eコマースG グループ長 西井 敏恭 氏

アライドアーキテクツ株式会社 執行役員 ソーシャルメディアマーケティング事業第一本部 事業本部長  津下本 耕太郎 氏

ドクターズコスメのトップブランド、ドクターシーラボ株式会社で、販売戦略から自社CGM、ソーシャルメディアのマーケティングまで、WEB領域全般を手掛ける西井氏は、「お客様と直接コミュニケーションを取る」ために取り組み始めた「ソーシャルメディア」活用の経緯から今後の展望について語りました。

津下本

ソーシャルメディアに対してどのような考えで取り組んでいますか?

西井

皮膚科医であった創業者が、クリニックの患者さんのために開発した化粧品であることがドクターシーラボの最大の特徴です。そして、患者さんの要望に応える形で販売を始め、現在販路の6割を占める通販もお客様の声から始めたので、自社の一番の強みは、お客様との直接的なコミュニケーションであると考えています。

アライドアーキテクツ株式会社 執行役員 ソーシャルメディアマーケティング事業第一本部 事業本部長  津下本 耕太郎 氏

津下本

ソーシャルメディアに取り組むことになったきっかけは?

西井

ドクターシーラボは創業から13年経つのですが、僕が入社したのは、立ち上げから順調に来ていた業績が前年割れし、会社全体に危機感をあった時期でした。

そこで、いかに短時間で多くのお客様に対応出来るかをKPIにしていたコールセンターが、顧客満足度を高め、長い目で見てLTVを向上させる方針に転換することになりました。

津下本

ザッポス※的な取り組みですね

※徹底した顧客満足の追及で全米No.1となったオンライン靴店。

参考:ソーシャルメディアマーケティングラボセミナーレポート

『ザッポス伝説』本荘修二氏「ザッポス流”超顧客主義”逆転発想経営とは

http://smmlab.aainc.co.jp/?p=316

西井

元々患者さんのニーズから生まれ、販売方法や製品改良にも積極的にお客様の声を取り入れてきたブランドですし、今も社内ではザッポスが話題にあがっている社内文化なので、こうした方針転換も比較的理解されやすかったのだと思います。また若い会社なので、上層部も新しくて面白い取り組みにチャレンジしようという志向が強かったですね。

そんな中でインターネットでの通販も、当初はメーカーからの一方的な情報発信に過ぎませんでしたが、顧客満足度という観点から、ブランドとして出来ることは何だろうと考えると、電話と同じように「お客様と直接会話すること」を特徴に打ち出していくべきだろうということになりました。そこで、2007年頃からソーシャルメディアに注力し始めました。

津下本

ソーシャルメディアにはどのように取り組まれたのですか?

西井

まずは自社のコミュニティーサイトを立ち上げ、そこにクチコミやお悩みQ&Aのようなコンテンツを用意しました。また、ライトユーザー向け、ヘビーユーザー向けといった属性の違うコミュニティーを作り、その中で商品開発をやってみたり、かなり色々な取り組みにチャレンジしました。

津下本

自社コミュニティーを立ち上げて、どんな変化がありましたか?

西井

それまでは売れ筋の商品しか認知されず、メイン商材を中心とした化粧品しか売れていなかったのですが、ある時、新製品のサプリメントが、コミュニティーで話題に上りました。実際にそのコミュニティーの会話に参加していたのは100人程度だったのですが、その会話を見ていたユーザーが相当数いたようで、いきなり3,000個売れたことがありました。その時、カキコミを見ているユーザーへの影響力の大きさをしりました。

津下本

ユーザー同士のクチコミのパワーを実感されたのですね。 TwitterやFacebookに取り組み始めてからはいかがですか?

西井

企業が自社サイト内にユーザーが自由に書き込める場所を提供しても、そもそも積極的に書き込む習慣がなく、参加率が低かったですね。しかしTwitterやFacebookは個人が情報発信がしやすく、抵抗感も少ない。ソーシャルメディアから参加してもらうことで、結果的に自社コミュニティーへの心理的ハードルも下がり参加率が向上しました。すると今までよりも様々な施策がやりやすく、規模感が出るようになり、影響力が広がっているように感じることができました。

株式会社ドクターシーラボ マーケティング部 eコマースG グループ長 西井 敏恭 氏

津下本

現在、FacebookやTwitterはどのような位置付けで活用されていますか?

西井

最初はヘビーユーザーの方々とのコミュニケーションの場にしたいと思っていましたが、実際に始めてみるとシーラボのお客様のメイン層である40代の女性は、全体の5%ほどしかソーシャルメディアを使っていらっしゃらないことがわかりました。そこで今は、ソーシャルメディアはライトユーザーの皆さんとの新しい出会いの場と位置づけ、公式アカウントはメルマガよりも気軽にコミュニケーション出来る手段として、公式アカウント以外ではシーラボが一般の方にどのように語られているのかを知る傾聴手段として活用することにしました。そこで得られた情報を社内にフィードバックすることで、各所で新しいアイディアを考えてもらっています。

一方で、ヘビーユーザーの方のクチコミ影響力が次のライトユーザー獲得に繋がっているという事実もありますので、今後はWEB上だけでなく、リアルもふくめて「どうやってシーラボについて語ってもらうか?」という施策を増やしていきたいと考えています。

津下本

企業としてはやはりROIが問題になるかと思いますが?

西井

ダイレクトセールスの会社なので、やはり最終的には数字が大事です。しかしコールセンターの方針を利益効率から顧客満足度向上に転換したように、ソーシャルメディアは、継続したコミュニケーションが取れるようにするためのインフラと考え、コストを広告費ではなく、キャンペーンやプロモーションの制作費や企画費に転換しています。ですから、企画のベースには必ずソーシャルな要素を入れるようにしています。

津下本

WEB施策の全てにソーシャルな要素を取り入れた先、目指すゴールはどのような世界ですか?

西井

メーカーサイトとしてはかなりお客様とのコミュニケーションが取れてきたと思いますが、まだまだ既存の広告に頼る部分も多く、お客様からは普通のECサイトと同じように見えていると思います。この先はもっともっとソーシャルの要素を強化して、「ドクターシーラボのソーシャルEコマースってすごいよね」と言われるサイトにしたいですね。究極ユーザーとのコミュニケーションだけで商品が売れるようなブランドになれたらいいなと思います。

トークセッション2

キリンホールディングス株式会社 北林 健 氏

グランドデザイン&カンパニー株式会社 代表取締役社長CEO 小川 和也 氏

最後のセッションは、キリングループ各社による健康プロジェクト「KIRIN Plus-i」のマーケティングを担当する北林氏が、「KIRIN Plus-i」プロジェクトの認知を拡大するために推進した「100万人でつくろう元気のうた」キャンペーンで、ソーシャルメディアが果たした役割について語りました。

小川

「100万人でつくろう元気のうた」キャンペーンを企画するに至った背景は?

北林

健康をキーワードにした「健康・機能性食品事業推進プロジェクト」として、キリングループ各社横断で立ち上げた新ブランド「キリン プラス-アイ(KIRIN Plus-i)」の認知拡大が最終的な目的なんですが、昨年の11月の段階で認知度が15~16%と大変低く、これを今年の年末までに25%にまで引き上げたいということで、そのために何をしたらいいかを色々と考えていました。

ただ、今までのように単にマスメディアで展開商品を紹介するのではなくて、消費者の方が認知しやすいように、興味関心のあるテーマのキャンペーンを通じて、後から商品の認知に繋げていきたいなと考えました。

このプロジェクトは2010年に立ち上げ、毎年キャンペーンを行っていますが、今年のキャンペーンを考えた時、今の時代、なんとなく日本全体が元気をなくしてしまっている状況ですし、商品自体も「あなたを元気にする」というコンセプトでもあったので、「日本に、あなたに、元気をプラス」というのが、合い言葉として生まれました。

それを日本中のみなさんに知っていただいたり、参加していただいたり、共感していただくのに、何が良いかなと考えた時にたまたま「歌」というのが出てきたんです。 日本中のみんなと一緒に「元気」を感じてもらえる「歌」が作れたら面白いかなというのがこの企画の出発点です。

キリンホールディングス株式会社 北林 健 氏

小川

企業のキャンペーンとして、歌を作ろうとか、歌の素材を募集しようというのは過去にもあったと思いますが、今回100万人で作ろうというのはかなり大きな規模で、多くの人を巻き込んでいかなくてはならず、相当ハードルが高かったかと思いますが、実現出来ると思っていましたか?

北林

100万というのはかなり大きな数字なので、出来たらスゴいけど、どうやってやるのかな?というのが最初だったのは確かですね。

小川

企業のキャンペーンとしては当然目標があるとおもいますが、今回の場合はゴールがプラスアイの認知度を高めるということで、100万という数字に対して、「この位の数が集まれば目的を達せられるだろう」という感覚はありましたか?達成出来たらスゴいよね、という空気のようなものでしょうか。色んな取り組みをされていると思いますが、そもそも何を100万集めるのかなど具体的なイメージはありましたか?

北林

そうですね、100万人で一遍に歌うとかそういうことではなくて、「歌」を作るところから「参加」してもらうということで企画しています。また、有名アーティストが作曲し、歌う歌の歌詞を、自分たちが作れるってスゴいじゃんということで、まずは歌詞の元になる言葉を「元気をもらったひと言」というテーマでWEB上で募集しました。

さらに、元気のポーズの画像や、お手本の振り付けを真似して踊った動画も募集し、ポーズとダンスが歌と一緒にまとめられて、みんなで「プロモーションビデオ」も作れるようにしました。

小川

従来マスメディアでの展開がマーケティングの中心だった企業が、ソーシャルメディアをメインとして取り組むというのは懸念が大きかったのでは?

北林

炎上が怖いとか、リスクの方が大きいんじゃないかという懸念の声は沢山ありましたし、社内の制約は確かに厳しかったですが、少しづつでも誰かがやらないと、事例を作らないと、ソーシャルメディアがいいのか悪いのかもわからないということで、たまたまプロジェクトだったからということもあったんですが、かなり社内の反対を押し切って踏み込むことが出来たと思います。

小川

このキャンペーンを「キリン プラス-アイ(KIRIN Plus-i)」の認知拡大とどう繋げていったかというと、プロジェクト商品に共通に使用されているプラス-アイのロゴマークというのがあるんですが、実はあまり認知されていなかったんですよね。そこで、これをFacebookのいいねのように「元気になった」という意思表示のボタンにしたんですね。今回はこのボタンを通じたアクションを100万集めるのが目的ですね。

北林

これは結構工夫した点で、ロゴマークのボタン化によってキャンペーンのテーマとプロジェクトをビジュアル的に繋げることが出来たかなと思います。

小川

今回はキャンペーンの目的となる「元気」という重要なタッチポイントにロゴマークを利用することで、ブランドを印象づける効果がありましたね。

今回歌詞の元となる言葉や画像、動画を集めるのに重要な役目を担ったのが、Facebookだったと思いますが、いままでキリンさんの社内ではFacebookはどのように捉えられていたんですか?

北林

商品ブランドごと、キャンペーンごとに試行錯誤しながらやってはいましたが、ここまでソーシャルを中心に置いたものはなかったと思います。 商品自体がマス商品であるということも大きいと思いますが、今こうして実際に取り組んでみると、マス商品がマスをやっていればいいという時代ではもうないんだなと改めて感じます。

グランドデザイン&カンパニー株式会社 代表取締役社長CEO 小川 和也 氏

小川

今回Facebookをかなり中心に据えようという発想には、やはりブランドやロゴマークの認知を広めていくためには、こういう共有型のアプローチが必要だったと言うことですね。

でも前例がなかったということは、社内での抵抗が大きかったのでは?

北林

それはもう大変で、運用体制をどうするんだとか、炎上の対策はどうするんだとか、ガイドラインなんかも相当細かく作らされました。準備は本当に大変でしたが、それでも一度きちんとした体制を作ってしまえば、実際に運用する段階ではむしろ楽しんで取り組めました。

小川

今回はメインにキャンペーンサイトがありましたが、Facebookページの位置づけや棲み分けはどのようになっていたのですか?

北林

キャンペーンサイトでの情報は一方通行になりがちですし、参加するといったアクションもハードルが高いだろうと考えていました。 そこでワンクリックで気軽に参加出来る「元気」ボタンを作ったり工夫はしましたが、もっと気軽に参加してもらえて、ただキャンペーンの情報を知ってもらうだけではなく、一緒に作っているんだという内側感、参加感といった共感を醸成するのにはFacebookの方が適していると感じました。

Facebookページでは、徹底してユーザー目線を意識して、生活の中の一シーンを切り取ったり、メーカー発信であることが分からない位「楽しい」に振り切った投稿をしてみたりと、今までとは全く違うアプローチを工夫しました。 すると私たちも面白くなったり、嬉しくなるような反応が返ってくるんですよね。

小川

そもそもユーザーさんとの距離をFacebookで埋めたいという目的がハッキリしていましたよね。今では投稿に対して一般的に言われている平均の10倍以上のエンゲージメント率ですね。

北林

そうですね、Facebookページを開設して半年程ですが、みんながキャンペーンに参加して投稿したものを発表する「場」だと認識されてきて、ユーザーの能動的な参加によって、Facebookページのコンテンツ自体を自分たちが作っているという感覚になってきているので、関与度が高くなっているのではないかと思います。

小川

盛り上がってきた秘訣はどこにあると思いますか?実際にどのような運用をされているか教えて下さい。

北林

投稿は土日休みの平日のみ、1日一回です。年間キャンペーンの「歌」作りのスケジュールに合わせて、月次、週次と割と細かく編集会議をしていますが、計画を立て、しっかりとした準備態勢は整えていますが、一方でユーザーさんの反応を見ながら、臨機応変な対応もしています。フレキシブルにすることで自分たちも楽しめることがあります。

投稿の内容に関してはやはり「インパクト」と「共感」の掛け算がポイントだと感じています。同じ画像でも添える言葉によって全然反応が違うというようなセンスも段々分かってきて、言葉と写真の面白おかしい組み合わせを工夫したりしていますね。

小川

最近ではFacebookページの禁じ手と思われるような商品紹介の投稿にもかなり良い反応が集まっていますね。

北林

Facebookページの開設当初は、各事業社から送られてきた商品画像をなんの工夫もなくそのまま掲載したこともあったのですが、その時の冷ややかな反応ですぐにこれはやってはいけないことだと感じました。しかし、商品を、ファンの方たちの生活やイベントに上手く絡めた形で紹介するようにしたところ、ちゃんと共感していただけることがわかりました。

小川

商品に関する投稿は難しいけれど、Facebookページへの共感がきちんと蓄積されていれば、商品自体へ共感してもらえる要素も増えて、自然に受け入れられるようになっていくということでしょうか。

北林

そうですね、どんな素晴らしい商品を作っても、ユーザーとの距離が遠いと良さが伝わらないし、理解してもらえないと思います。ソーシャルメディアでは、商品の良さとか開発技術の高さは、もう当たり前という位置づけにして、ユーザーからの見え方から逆算でどう見てもらうか、どうやって理解してもらうかを考えなくてはいけない気がします。

小川

そういう意味では、健康に関する商品をアピールするのにいきなり歌にいったというのも、ユーザーとの接点としてそちらのほうがよかったということですね。

北林

一見すごく遠回りのように見えるかもしれませんが、企業とユーザーの間で一番気持ち良く繋がれる接点をスタート地点にして、そこから徐々に距離を縮めることで、結果的に本来の目的に近づくことが出来ていると思います。今回でいうと最終的な目的は、「キリン プラス-アイ(KIRIN Plus-i)」の認知度向上ですが、キャンペーンの目標であった100万元気を達成したことで、かなり手応えを感じています。

小川

「歌」作りの方は、春からずっと作業が続いていて、有名アーティストにとっては、商業ベースで考えたらとても採算の合わない仕事のように思えますが、参加者からの投稿がアーティストにとってもモチベーションになっているという感じがしますね。

北林

100万元気を達成した感謝を参加者に還元するために、記念ライブをやるという追加施策があるんですが、こればかりでなく企画自体がどんどん成長しつづけているんです。その全てのシーンやアクションにユーザーと一緒に作っていくというやり方が刷り込まれているプロジェクトなので、どんどん共感が膨らんでいっているのではないかと思います。

小川

Facebookは「シェア、共感の文化」と言われていますが、企業からの発信は「押し売り」になってしまいがちです。共感の場だからこそ、本当に共感出来るものを発信していく姿勢で設計しなくてはいけませんね。

今回のキャンペーンではもう一つ、面白い取り組みをされていましたね?

北林

はい、「日本縦断!元気のリレー」と題して、先ほどのプラス-アイのロゴマークを使った元気ボタンをリアルに作り、それを北海道から沖縄まで、手渡しでバトンリレーのように運ぶというお遊びのようなイベントをやりました。GPSもついていなくて、現在地や引き渡し状況はFacebookへの自己申告のみ。普通に考えたら不可能に思えるような無謀なイベントですが、人と人のつながりを信じて、任せることで生まれてくる「楽しさ」を、Facebookで一緒に楽しむという新しいアプローチが出来たと思います。ソーシャルメディアであっても、リアルと交わり融合したところに新しい関係性が生まれることを体験出来ました。

小川

今回の取り組みはまだ進行中ですが、ここまでで何か新しい気付きやこれからのソーシャルメディアへの向き合い方に変化はありましたか?

北林

自分自身、ほんの少し前まではマスメディアしか使ったことがなかったのですが、今回全面的にソーシャルメディアを活用してみて、本当にもうソーシャルメディアが欠かせない時代に来ていることを実感しました。

ソーシャルメディアでは深い共感を得ることが出来る、そして共感があるからこそより正しく理解してもらえ、一度分かってもらえれば、ずっと繋がっていられる。今振り返ると、過去に自分が手掛けた商品もソーシャルメディアを活用したらもっと良かったのにと思ったりもします。これを前例として社内でももっとソーシャルも活用が活発になっていくだろうと感じています。

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