京都大学工学研究科の松野文俊教授と国際レスキューシステム研究機構(IRS)は7月18日、中国電力などの協力のもと、「RTミドルウェア」を活用した災害対応ロボットの実証実験を行ったことを発表した(画像1)。

画像1。発電所所員らを対象とした3次元での地図作成機能を備えた「弟ロボット」のデモンストレーションの様子

実験実施研究機関は前述の2者のほか、岡山大学大学院自然科学研究科(亀川哲志講師)、名古屋工業大学大学院工学研究科(佐藤徳孝助教)、電気通信大学情報理工学部 知能機械工学科(田中研究室)の3者が行い、実験協力として前述の中国電力のほか、日本電気、東北大学大学院情報科学研究科 田所研究室、セグウェイジャパン、京都大学原子炉実験所、ジック、北陽電機が参加している。

松野研究室とIRSは、東北大学の田所研究室ならびにセグウェイジャパンらと共に、経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」(2007年度~2011年度)において、移動ロボットの遠隔操作や自律走行に関連するRTミドルウェア上で動作するソフトウェア(RTコンポーネント)の研究開発を実施してきた。

これまでのロボットの研究開発の多くでは、ほとんどの機能を独自に開発する必要があり、多くの時間と予算をかける必要があり、それが開発のネックとなっていたが、産総研が中心となって開発を進めているオープンソースのロボット用ソフトウェアのRTミドルウェアを使用することで、ロボットを構成する要素(アクチュエータやセンサなど)及びロボットを制御するソフトウェアを、コンポーネントとして部品化することが可能となる。そのため、RTミドルウェアを用いることで、すでに開発されたコンポーネントを流用することができ、ロボットシステムを短時間で容易に構築することができるようになるのである。

今回の実証実験でも、次世代ロボット知能化技術開発プロジェクトで開発されたRTコンポーネントが、災害対応を行うロボットの研究開発に活用された。さらに、これまでに培ってきた災害対応ロボットの研究の成果も、新たに開発された災害対応ロボットに集約した形である。

RTミドルウェアを活用した今回の実証実験は2012年3月に実施。研究開発中の災害対応ロボットの「KOHGA(こうが)3」(画像2・3)や「MATOI(まとい)」(画像4・5)などの機能や性能の検証を目的として、中国電力、日本電気の協力のもと、島根原子力発電所内の屋内または屋外の施設において行われた。

実験では、階段や通路における走行性能や無線の到達距離の確認など、実際の原子力施設に特化した環境において実験を実施し、今後の研究開発の方向性についての検討がなされた形だ。

画像2・3。クローラ型ロボット「KOHGA3」を用いた原子炉格納容器内での無線操作の距離確認実験の様子

画像4・5。屋外環境での利用を想定した車輪型移動ロボット「MATOI」を用いた自律走行実験準備の様子

2011年3月に発生した、東京電力福島第一原子力発電所の事故調査に活用されている国産ロボット「Quince」の開発リーダーの1人である東北大の田所論教授は、「実際の災害現場では、やってみないと分からないことが沢山あり、ユーザーはロボットが何の役に立つのかわからないし、研究者は現場で何を求められているかがわからないので、現場のニーズに合わせた柔軟で、かつ模索的な開発を行うことが必要だ」とコメント。

さらに、「しかし、これまでのロボットの研究・開発の多くは、ある特定の想定されたシーン以外に使えることが少なく、できることが限られていた。RTミドルウェアをベースにしたソフトウェアを活用することで、ほかの開発者・研究者が開発した成果を簡単に利用することができ、目的達成のための研究・開発を行うことが容易となった。そして、実験をやろうと思ってから、短期間で開発できたことが重要だった。今後もRTミドルウェアのような統合開発環境において、模索的な開発を簡単に行う手法があった方がよいと感じた」としている。

松野研究室とIRSは、今後も電力会社や各種メーカーと積極的にコミュニケーションを行い、災害対応ロボットの実用化を目指していく計画だ。また、課題解決のための技術を、迅速に場に投入できる体制を整えていく必要があるとしており、実験を進めている。

例えば、京大原子炉実験所及びセンサメーカらの協力のもと、災害対応ロボットにおいて放射線の影響を最も受けるセンサ類の耐放射線性能評価実験を行っているところだ(画像6・7)。実験により得られたセンサ機器や無線装置の耐放射線性能は今後広く公開していく予定であり、今後はこのような知見を共有していることが重要と考えているとした。

画像6・7。京大原子炉実験所「コバルト60ガンマ線照射装置」にて行われた、ロボット用の各種センサや無線装置の耐放射線性能の評価実験の様子