産業技術総合研究所(産総研)は2月23日、オープンソースライセンスで開発された知能ソフトウェアモジュール「RTコンポーネント」(「頭脳」に相当するさまざまな機能のソフトウェアを共通のフレームワークを用いて実装し、共通部品化したもの)を次世代ロボットの基本的な機能である「作業知能」、「移動知能」、「コミュニケーション知能」ごとに整理し、「オープンソース知能ソフトウェアモジュール群OpenRTC-aist」として、同日より公式サイト「OpenRTC-aist」で公開を開始した。

また、開発基盤となるミドルウエア、知能モジュール開発ツール、知能ソフトウェアモジュール群がそろうことになり、次世代ロボットソフトウェア開発プラットフォーム「ROBOSSA(Robot Software Suite,AIST)」(画像)として、同じく同日よりWebサイトにて公開を開始した次第だ。

ROBOSSAによる次世代ロボット開発基盤の実現

我が国は少子高齢化や労働力不足といった課題に直面しているため、人間共存環境を含めた実環境で活動するロボットの需要はますます拡大すると期待されている。しかし、現状のロボットでは、周りの状況を正確かつ迅速に理解し、状況に応じた対応をする技術が十分ではないため、実用化できる用途やその活用範囲は人間から隔離された工場のような限定的なものにとどまっている。

このような状況を打破するための最も重要な技術課題の1つは「知能化技術」であるという観点から、次世代ロボットに必要な作業、移動、コミュニケーションを行うための知的機能を共通部品化し、それを組み合わせることでさまざまなタイプのロボットを効率的かつ低コストで実現するための知能ソフトウェアモジュールの研究開発がさまざまな機関で進められている。

しかし、開発された知能ソフトウェアモジュールは、その開発機関により有償・無償、ソースコードの公開・非公開などさまざまな形態で提供されるため、これらの知能ソフトウェアモジュールを利用したシステムを構築する場合に、利用条件や保守に関する取り扱いなどが複雑になるという問題があった。

産総研は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト(平成19年度~23年度)」(知能化プロジェクト)により、知能ソフトウェアモジュールを開発するためのミドルウエア「OpenRTM-aist」とその開発ツール「OpenRTP-aist」の研究開発と合わせて、オープンソースライセンスによる作業知能ソフトウェアモジュール群、移動知能ソフトウェアモジュール群、コミュニケーション知能ソフトウェアモジュール群の研究開発も取り組んできた。

OpenRTM-aistは、RTミドルウエア上で実行する知能ソフトウェアモジュールを開発するためのツール群で、統一されたインタフェースをもつ開発環境を提供し、知能ソフトウェアモジュールのプログラムのひな形作成や、知能ソフトウェアモジュールを使ったロボッ卜システム構築やデバッグなどを行うことができることが特徴である。

作業知能とは、3次元視覚情報処理、把持・動作計画など、物を掴んで操作するために必要となる「対象物を見て正確に知覚する技術」、「操作する手順を作成する技術」などの知能化技術のことだ。また移動知能とは、生活環境内を安全かつ自律的に移動するための知能化技術である。そして、コミュニケーション知能とは、家庭やオフィスなど人と共存する環境で人と対話するために必要な「聞く」、「話す」、「人の動作を理解する」、「適切な応答を作成する」などの知能化技術のことだ。

また、知能化プロジェクトにおいてオープンソースライセンスで開発された各知能ソフトウェアモジュールと市販されているロボットを利用し、基本的な機能が備わったシステムの構成例を含むドキュメントの整備を進めてきて、このほどこれらを「OpenRTC-aist」として、ホームページにて公開する準備が整ったというわけである。

ROBOSSAに含まれるソフトウェアは、OSや依存するライブラリーのバージョンアップなどに対する保守を継続し、新たに市販されるロボットへの対応も検討していく。これにより、次世代ロボットの研究開発基盤を簡便かつ低コストで実現できるようになり、新技術への早期取り組みが可能になると期待される状況だ。

OpenRTC-aistに含まれる知能ソフトウェアモジュールは、知能化プロジェクトでオープンソースライセンスのもとで開発されたものを中心に、産総研が独自に開発した知能ソフトウェアモジュールを含んでおり、主なものとして「カメラで物体を認識し双腕で操る機能」、「安全に目的地に移動する機能」、「人間と対話し作業を実行する機能」をもつシステムの構成例がある。

これらのロボットシステム構成例は、次世代ロボットシステムの知能基盤となるシステム構成であり、知能ソフトウェアモジュールの追加や改変などを行うことで新たな機能をもつロボットシステムを構築することが可能だ。

また、これらのシステムを用いることで農業ロボットのような新たな産業応用の基盤(次世代ロボット応用創出基盤)、人間と共存して活動する技術など新たな技術開発を促進するための基盤(次世代ロボット研究開発基盤)、ロボット技術を教育するためのロボットプラットフォーム(ロボット高度化教育プラットフォーム)などを容易に実現できるようになり、こういったプラットフォームを利用した研究開発を行うことで、次世代ロボット開発における期間の短縮とコストの削減が期待されるとしている。

ROBOSSAをはじめとするサイトは以下の通り。

今後は、OpenRTC-aistの継続的な保守を行いつつ、産総研の研究成果で有用なものは、随時追加していく予定とした。また、ROBOSSAに含まれるミドルウエア、開発ツール、知能ソフトウェアモジュールに関する問い合わせに対応するためのメーリングリストの整備やROBOSSA全体に対する質問などを包括的に対応することができるフォーラムなどの設置を行い、産業界への広範な普及活動および一元的かつ継続的な技術サポートを実施する予定としている。

なお今回の開発は、知能システム研究部門ソフトウェアプラットフォーム研究班、タスクビジョン研究グループ、サービスロボティクス研究グループ、インタラクションモデリング研究グループらによる成果だ。