国際農林水産業研究センター(国際農研)とマレーシア森林研究所は2月28日、南洋材ラワン(フタバガキ科樹木の総称)を産出する、丘陵フタバガキ林の代表樹種である「セラヤ」の花粉の散布距離と、樹木の幹の直径と種子生産に有効な花粉生産量を、種子の親子関係の遺伝子解析により明らかにしたと発表した。成果は、「Journal of Ecology」に掲載された。

熱帯林の減少・劣化が国際的な問題として認識されて久しいが、近年、熱帯林業においても持続可能な林業経営への取り組みが進みつつある。しかし、フタバガキ科など有用樹種の更新は困難で、伐採後、放置された森林が多く存在しているのも事実だ。

マレーシア半島部の丘陵フタバガキ林では、幹の直径が50センチ以上の樹木を選んで伐採する「択伐」が行われてきたが、有用樹種の更新は必ずしもうまくはいっていない状況である。その理由として、フタバガキ科樹木の密度が択伐により低下するため、昆虫などによって花粉が他の個体に効率的に運ばれず、健全な種子生産ができないことが指摘されてきた。このため、健全な種子生産を維持し、有用樹種の世代交代を促進する、森林資源を持続的に利用する熱帯林業の確立が求められている。

一方、2007年にバリ島で開催された気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)では、途上国の森林減少のほか森林劣化による温室効果ガスの排出削減や森林保全などを加えた「REDD(Reducing emissions from deforestation and forest degradation in developing countries)プラス(途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの排出の削減に向けた取り組みに途上国における森林保全等を加えた考え方)」の必要性が強調された。熱帯林における資源回復技術の確立は、木材生産だけでなく、地球温暖化対策としても求められている。

マレーシア・セマンコック試験地(画像1)において、1998年と2005年の大規模な一斉開花と2002年の小規模な一斉開花時に約1500個のセラヤの種子を採集し、その親子関係について、遺伝子解析を実施した。花粉親と種子を採集した木の距離が花粉散布距離となり、その平均距離は約60mと試験地の他樹種に比べ、非常に短いものであることが判明した(画像2)。

画像1。樹上から見たセマンコック試験地の様子。白く見えるカリフラワーのような林冠がセラヤ

画像2。モデルから推定された花粉散布距離

各花粉親の幹径と生産した花粉の量(何個の種子に花粉親として貢献したか)との関係を調べたところ、択伐後に残される小径木(直径が50cm以下)はほとんど花粉を生産していないことがわかったのである(画像3)。

つまり、択伐後、成熟した個体の密度が低下し、花粉が他の個体まで到達しない可能性が高い上、残された個体では花粉生産量が低く、健全な種子を生産する「他殖」が行われにくい可能性が明らかになったというわけだ。これらの結果を踏まえたシミュレーションから、幹径が70から90cmの個体を残すと効率よく他殖を維持できることが推定された。

なお他植とは、フタバガキ科樹木が雌しべと雄しべが同じ花の中に存在し、自らも生殖を行えることから、ほかの木の花粉が昆虫によって運ばれ受粉し、生殖する場合を指す。自らの生殖の場合は種子の発芽力や生存力が低いことが報告されており、他殖の種子生産を増やすことが、森林の持続性を向上させるというわけだ。

画像3。樹木のサイズと花粉親としての貢献度との関係。黒丸と白丸は目視による非開花木、開花木を表す

今回の成果により、現在行われている択伐方式を改善することで、林業の持続性に必要な健全な森林の世代交代を維持する可能性を示すことができたと、研究グループではコメント。樹木の次世代への更新を促進し、資源に富んだ熱帯雨林の維持とその利用を通じて森林劣化を防ぎ、REDDプラスへの貢献も期待できるとも述べている。