子供から大人まで宇宙が好きな人にお勧めしたい

また、コラム類も充実していて、例えば、読んでいて意外に感じたのは、気象衛星や地球観測衛星などの光学センサ(人工衛星のカメラは光学センサと呼ばれる)は、実はズーム機能がないという事実。たぶん、ハリウッド映画やSF系のアニメなどの影響なのだろう。軍事用の偵察衛星などが主人公などをズームして追跡するようなシーンを見てきたからだと思うのだが、てっきり衛星の光学センサには軍用だろうが民生用だろうがみんなズーム機能がついているものと思っていた。

確かにズーム機能があった方がもちろん撮影の面では便利なのだが、可動部分があると(増えると)それだけ故障する可能性が高くなるために採用していないというわけである。よって単焦点カメラなので、計画通りの位置(対象物までの決められた正しい距離)から撮影しないとピンボケ画像になってしまうそうだ。

それから、人工衛星の所在を表す「ケプラーの軌道6要素」の話など、人工衛星の軌道に関する専門的な話も話も取り上げられているのだが、それらを読むと、宇宙空間は、少なくとも地球周辺は思ったほど自由に動けないんだなということが実感できてくる。見えないレールの上を飛んでいる、というのがわかってくるのだ。

ちなみに、筆者もご多分に漏れず、ガンダムが好きなのだが(なにしろ、息子達を知らない間に洗脳して親子2世代ガンオタにしてしまったぐらい)、あえて夢を壊すようなことをいわせてもらうと、AMBAC(ガンダム独自の技術のことで、「能動的質量移動による自動姿勢制御」のこと)とか多数のバーニアとかあっても、いくらなんでもああは動けないだろうな、というのがわかるのだ(でも、演出としてかっこいいから、もちろん否定しないけど)。まぁ、実際にどう動けるかなんて18m大の物を作って動かしてみないことにはなんともいえないが、リアルな宇宙戦闘って、軌道計算が大変なんだろうなということを非常に感じる。

また、衛星軌道というのは非常に広いので、相手を攻撃範囲内にとらえることも一筋縄ではいかなそうだ。しかも、前述したようにISSの高度だと秒速7km、静止衛星軌道でも秒速3kmほどという高速で動いている(静止衛星はその速さにもかかわらず、軌道を1周するのに24時間かかるわけで、どれだけ広大かわかる)。これで、軌道傾斜角(静止衛星軌道などを含む赤道上空の軌道に対して、その軌道がどれだけ傾いているかを表す角度)や高度などが異なっていたら、会敵するだけでも大仕事である(ここで宇宙戦闘の大変さについて熱くこれ以上語っても本題から外れてしまうので、ここら辺にしておく)。

そのほかにもいろいろと紹介したいネタはあるのだが、それこそ全部書いてしまうハメになるので、あとはぜひ読んでいただきたい。正直、恥ずかしい話だが、自分もそれなりに知識を持っているつもりだったが、「へー」「なるほど」「そうだったのか」をどれだけ心の中で思ったか、自分の無知ぶりを実感させられた次第である。さすがに今から人工衛星開発の仕事に関わるのは難しい、というような年齢の大人の方は、そんな風にして楽しんで、家族や友人との会話のネタとしてぜひ使ってみてほしい。

一方、人工衛星開発など航空宇宙系の分野を目指している若者たちには、物理の万有引力関連の副読本的に使えるレベルの正確さと情報量なので、個人的な副読本としてぜひとも読んでみてほしい。これを読めば、知識が増えるのはもちろんだが、いろいろとイメージも膨らむし、より自分の憧れの分野へ向かうための推進剤として自分を加速させるのに使えるはずだ。A5判型で約200ページで情報量ギッシリ&イラストが豊富にも関わらず、1600円という値段は結構リーズナブルでないかと思う。

また、高校生以上ならちょっとアルバイトとかすればすぐ買えるだろうけど、さすがに小中学生だとお小遣いで買うにはきついかも知れない。小中学生で本書をほしいという人は、ぜひともお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、おじさんおばさん、とにかく大人の人に「宇宙開発や人工衛星の勉強したいからこれを買って」といってみるといい。とても頭が良くなりそうな本だし(ちゃんと読破できれば必ず頭はよくなる)、価格もビックリするような値段ではないので、きっと買ってもらえるはず。そうしたら、ぜひ隅から隅まで何度も熟読して、未来の人工衛星開発を目指してほしい。

「人工衛星の"なぜ"を科学する―だれもが抱く素朴な疑問にズバリ答える!」

発行:アーク出版
発売:2012年2月1日
著者:NEC「人工衛星」プロジェクトチーム
単行本:A5判/200ページ
定価:1680円
出版社から:静止衛星、周回衛星、探査衛星など様々なかたちで地球の周りを飛んでいる人工衛星。まさに科学技術の粋を集めた結晶と呼べる存在です。日本初の人工衛星「おおすみ」以来、人工衛星の開発に取り組むNECの技術者たちが、図版や写真を使って人工衛星のメカニズム、その運用やシステムなどをわかりやすく解説する。「はやぶさ」の奇跡の帰還で、一般の人も興味を持ち始めた「人工衛星」のすべてがわかる本。