人工衛星はどこでどうやって生まれ、宇宙に行って、何をするのか?

サイエンス系の書籍というと、やっぱり気になるのが、その内容の難しさだろう。本書は表紙の雰囲気やタイトルの感じからしてマジメなので、専門書とまではいかなくても入門書ではないイメージを持つ人も多いのではないだろうか。確かに、笑いながら読めるというほど軽くはない。だからといって、専門用語が羅列されていて、日本語で書かれているはずなのに、失われた古代の言語の魔物を召還するための呪文のような文章ということもない。イラストもふんだんに使われており、新聞の科学欄よりも若干優しく読めるレベルである。

もちろん、難しい専門用語も出てくるのは間違いない。だけど、それを丁寧に解説してくれているので、読み終える頃には自然と専門的な知識が増えているのも本書の特徴だ。前述した「なぜ」に対しても、さまざまな角度から丁寧に解説されている。要は、「へ~」と感心したり、「なるほど!」と納得したりしながら読めるのが本書なのだ。おそらく、宇宙(開発)が大好き! という熱い思いや興味を持っていれば、たぶん小学校高学年や中学生ぐらいでも読破することはできるはずだ。

もう少し内容面の具体的な話をすると、全7章からなり、内容は以下の通りである。

  • 序章:日本の科学技術の"粋"を結集した人工衛星
  • 1章:どうやって宇宙に届けられ所定の位置に至るのか
  • 2章:人工衛星は、どこで、どのように、つくられているの?
  • 3章:宇宙空間で働く人工衛星の"仕事"とは?
  • 4章:人工衛星の軌道には誰も知らない秘密があった!
  • 5章:万が一のトラブルにも対処できるのか
  • 6章:人工衛星はどこまで進化するのか

序章は人工衛星の種類や開発中の最新衛星の話など。1章は、人工衛星が秒速7kmで宇宙を飛んでいるとか、なぜ日本では種子島から打ち上げられるのか、そのほか打ち上げや軌道に関する話。2章は、人工衛星が手作りされていること、どんな工場でどんな人たちが作っているのか、人工衛星の中味とかについての解説だ。3章は、人工衛星をどうコントロールしているか、人工衛星の姿勢制御の話などである。

4章は人工衛星の軌道についてで、どんなエンジンや燃料が使われているのかといったことも記載。そして5章は、人工衛星に軽量化が求められる理由や、なぜ人工衛星が金色だったり黒っぽかったりするのか、温度差の激しい宇宙でどう身を守るのか、どんな試験をしてから旅立つのかといったことが解説されている。そして最後の6章は、現在、日本で開発されている最新の人工衛星・探査機の開発の話や人工衛星のために開発されている最新技術、そしてスペースデブリの問題などだ。とにかく、これ1冊あれば、人工衛星についてもう専門家になれてしまうという具合に網羅されている。

内容に関して具体的に取り上げてみると、例えば、序盤に国際宇宙ステーション(ISS)の軌道高度は400kmぐらい、気象衛星などの静止衛星は3万6000kmといったさまざまな人工衛星の軌道の話が出てくる。でも、感覚として前者より後者の方が遥かに高いということはわかっても、そもそもどんな高さなのかとか、両者がどれぐらい離れているかなんてことを実感できる人は、そうはいないはずだ。

でも、本書にはそうした各軌道を同縮尺で比較したイラストも載っており、「静止衛星軌道に比べたら400kmって、地上スレスレじゃん!」ということを実感できるし、「同じ人工衛星でも用途によってこんなに使われている高度の種類があるのか!」と感心できるのである。

そもそも、大気圏は約1万kmの高さまであるので、400kmといったら外から2番目の熱圏(80~800km)に含まれており、実際のところは大気圏内を回っていることになる(ただし、明確な区分はないのだが、一般的におおよそ高度100km以上は宇宙とされている)。そんな大気圏内を飛んでいて、よく地上に落下しないものだと感心するところだが、実はこの高度だと非常に薄い大気による空気抵抗が存在するので、どんどん高度が下がってしまうそうである。よって、ISSなど低軌道を周回する人工衛星は定期的に軌道を上げているといった話まで教えてくれるのだ。

また、人工衛星を作る人たちの話も面白い。実は、人工衛星は1機1機、熟練の技術者たちによるハンドメイドで製造されている。もちろん、部品そのものは機械で作られているが、ベテラン職人が手で作業している部分がとても多いと聞くと、驚かないだろうか。

例えば、はんだ付けなどがそうなのだが、それがまたスゴイ。300ピンもあって、しかもピンとピンの間隔が0.5mmしかないようなところに、米粒よりも小さい部品をはんだ付けしていくそうで、とても人の手ではできなさそう。しかし、ベテラン職人はそれを1時間ぐらいで、なおかつ精度よくこなしてしまうというのだから驚く。ハイテクの塊である人工衛星なので、何もかも機械で組み立てられていそうなイメージがあるのだが、数が少ないため、組み立てなどはすべて人手で行われているのだそうだ。

そのほか、人工衛星1機には数万本のケーブルが使われているとか、人工衛星の製造現場でミシンが使われているとか、人工衛星の中の構造の話とか、なかなか人工衛星製造に関する話は秀逸である。