Texas Instruments(TI)の日本法人である日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は2月10日に都内で記者説明会を開催、同日発表されたDLPベースの新開発キット「DLP LightCrafter」に関する発表を行った。
冒頭、本国より来日したKent Novak氏(Photo01)が同社のビジネスの状況の概観を示した。実は氏は昨年も同様に来日して説明を行ったのだが、昨年はpico DLPの立ち上がりということで、メインとなる話は専らpico DLPであったが、今年は非FP(Front Projection)用途にまつわる話がメインであった。
Photo01:Kent Novak氏(DLP Products Senior Vice President兼General Manager)。右手にpico DLP、左手に1080p対応のDLPをそれぞれ示している |
まず、既にTV以外の用途でDLPが広く使われる様になってきていることを紹介した上で、今年からは新たな用途の開拓を念頭に置いている、という話をした(Photo02)。現時点での主要な市場であるFP向けについは、プロジェクタ全体のマーケットにおけるDLPのシェアが概ね半分を超える、というところまで高まっており(Photo03)、今後の出荷数量も(2011年度こそ落ち込んだものの)、マーケット全体の伸びが年率5%~15%程度期待できる(Photo04)としている。
Photo02:非FP用途の詳細は後述。光ネットワークというのは、例えば今回のDLP3000の場合608×684pixelのミラーを4000Hzで稼動できるので、これを全部利用すると理論上は1.6Gbpsの信号送信が可能になる。今後は、そうした用途も模索してゆくという話 |
Photo03:ソースはPMA(Pacific Media Associates)によるものだとか |
Photo04:こちらはPMA以外にFSRC(Futuresource Consulting)の予測も示している。縦棒が(予測)出荷台数、折れ線が(予測)出荷伸び率 |
特に同社が強みとしているのは、Digital Cinemaの分野で、既にDLPを導入した映画館は5万を超え、うち3万は3D対応であるとしている(Photo05)。一方DLP Picoに関しては、これも多くのマーケットに次第に入りつつあると説明している(Photo06)。このDLP Picoは、PMAによれば今後2~3年は年率100%の規模で増えてゆくと推定しており(Photo07)、ここに大きな期待をしている。実際、市場としては非FP的なものが多く考えられているとする(Photo08)。
Photo05:同社によれば、DLPを使った場合3Dの移行に新機構は必要ない(素子自体は既存のDLPでそのまま利用できる)ので、制御系のみが3Dに対応すれば済むとの話だった |
Photo06:このマーケットはまだそれほど大きくないが、競合製品が事実上存在しないため、これはこれで重要なマーケットとなっている |
Photo07:ただしpicoDLPに関しては、"Embedded"で示される非FP向けの利用が、FP向けよりも大きくなると予測している |
Photo08:このうちデジタルライトのみFP的な用途だが、その他は単純なFPとはだいぶ違ってくる。いくつかの用途に関しては後述 |
これに続き、日本TIの大原一浩氏(Photo09)がもう少しディテールを説明した。
まずFP用途であるが、同社における売り上げの半分は教育用途であるとする(Photo10)。こうした状況を受けて、picoDLP製品ラインナップも拡充されることになった(Photo11)。これにより、それぞれのセグメントにおける新しい用途を訴求してゆきたいとしているが(Photo12)、そのためには単に解像度のラインナップを増やすのみならず、光源の改良も同時に行う必要があると同社は認識している(Photo12)。
さて、ここからが本日の本題である。このDLP製品を開発してもらうためには、単にDLPチップのみならず開発用のモジュールや、必要となるソフトウェアが必要となる。こうしたものをTIは開発キットの形で従来から提供しているわけだが、ここにWVGAの解像度に対応したLightCrafterという新しい開発キットを追加した、というのが今回の発表内容である(Photo14)。
内部構造はこんな感じ(Photo15)で、従来の「Pico Kit v2」に比べると一回り大きいが、それでもやはりかなり小さめと言って良い。価格は599ドルだそうで、これもPico Kit v2の349ドルよりはやや高価ではあるが、開発キットとしてはかなり価格を抑えたほうと言える。
Photo15:なぜかDaVinch DM365が搭載されているが、尋ねたところこれは表示用の映像ハンドリングやOS(Linux)の稼動に使うためのもので、DLPの制御そのものはここでは行っていないとの事 |
会場ではこのキットを使っての3次元測定システムの構築例も示された(Photo16,17,Movie01)。
Photo16:右は産業用のカメラ。LightCrafter側からトリガー信号が出るので、それにあわせて撮影を行い、そこから画像処理で3次元形状を測定する |
Photo17:測定対象は軍手で、ここにLightCrafterから高速に縞状のパターンを投射、この結果を映像として取り込み、そこから形状を測定するもの。このソフトそのものはPC側で動くが、これは他のデモ用のものを流用したとか |
開発モジュールやリファレンスデザインの提供は既に開始されており(Photo18)、必要ならばデザインハウスもある(Photo19)ということであった。
Photo18:LightCrafterは先ほど説明した通り。リファレンスデザインのソフトウェアは、DM365上で動くOSを含めて提供される |
Photo19:国内だとKOIDE JAPANと丸文が対応しているという |
大原氏は最後に自動車向けの応用例としてヘッドアップディスプレイへの適用例を「まだ研究中だが」紹介して、説明を終わった。
Photo20:自動車用のHUDは既に実用化されているが、フロントガラスの曲面にあわせるのが難しい部分である。DLPだとこうしたシーンでも問題なく対応できる、というのがアドバンテージの1つだと説明した |
というわけで、以下いくつかの補足。まずFP向けでは現在1080p向けまでが実用化されているが、これに続いて4K2Kの可能性は? という質問に対しNovak氏は「既にDigital Cinema向けには昨年リリースしているが、Cinema向けであっても4K2Kは少数で、大多数は2K向けとなっている」とした。その上で、「現時点では4K2K向けのソースが皆無の状況で、現在は殆どがUp Conversionでの対応となっていることを考えると、家庭向けの4K2Kのマーケットが無いため、製品展開の予定はない。ただ数年後に対応コンテンツが登場する状況になったら、それにあわせて考慮する」と説明した。また先ほどPhoto08に出てきたリソグラフィに関して言えば、プリント基板の露光とか、半導体の試作に必要な露光(ただしプロセスはミクロンオーダー)には使われつつあるとするも、より微細なプロセスには向いていないという話であった。さらに医療用のレーザー光治療は、皮膚表面に紫外線を当てるような治療でのレーザー光制御に適しているという話であった。
同社としてはむしろ、生産ラインにおける測定(ラインの途中で、製品をカメラで測定して、加工の状況などを即座に良否判定するもの)などの分野に積極的に投入してゆきたいようだった。LightCrafter自身は今のところあくまでもDLPの制御のみで、搭載するDM365では(Photo16で使っている)カメラ映像の取り込みとかその分析まではとても及ばないという話だったが、将来的にはこうしたものもPCを使わずにできる方向を考えているという話であった。