Q:例えば今ですと、CMPでぱっと、というのは言いすぎですが比較的簡単に可能ですが、そういう技術が整っていなかった当時は大変だったのではないかと。
ええ、ただLOCOSプロセスがありましたので、それを使いました。で、LOCOSですと、名前をちょっと忘れてしまいましたけど、改良LOCOSと言いますか、少し浅溝に彫っておいて、そこにLOCOSを作るという技術があったので、それをもっとEnhanceして行けばLOCOSの延長上でも作れるというのが見えた。ということで今のプレーナ技術、LOCOSの延長上で作ることができると言う話になりました。
当時期待したのは、もう少し経てばきっとSiが使えるようになるという事だったのですが、実際に取り寄せてSiのウェハを調べると、当時はまだメタルの汚染がいっぱいありまして、研究所のラインだとそれなりにごまかしながらと言うか、要するに作業しては洗ってもらう(笑)事ができるのでメタルが入っていても、それなりの物が作れました。ただこれを実際に事業部とかに展開するのは絶対無理でしたので、Siのウェハでやるのはちょっと難しいという判断になりました。ただBulkのSiウェハがちゃんと出てくれば、きちんとローコストに作れると。ということで考えたと言うことになります。
Q:話が飛びますが、SOIが結局あまり立ち上がってないって言うのはどうお考えですか?
SOIに関して言うと、基本的にFD(完全空乏型:Fully Depleted)タイプのSOIだったらバルクに対して大きなメリットが出せるという風に思ってまして、ですので最初からFDを指向してやっておりました。ところが現在一般に使われているSOIに関して言うと、FDと言うよりはもPD(部分空乏層型:Partially Depleted)で引っ張る方向です。あれは本当に非常にカツカツのコスト計算をして、性能の差を比較をして、そこでまあ勝ったり負けたりになるのか良く判りませんけど(笑)、そういう状態になっております。で、現在のSiのウェハに関して言うと、FDでも使えるような性能と言いますか、品質の物が出せるようになって来たので、今までの(PDのベースのものとは)またちょっと違ってくるかなとは思いますが、とにかくFDで使えるようなSiのウェハが出てくるまでにかなりの時間が必要だったので、それが大きな要因か、と。
Q:結局SOIはIBMとその一部のパートナーでしか、あまり使われていない。で、先端プロセスに関しては皆さん再びBulkに戻ろうとしている(笑)
我々がDELTAなどをやっていた頃から考えていたように、Bulkに対して大きなメリットを出そうとすると、やはりただSOIにしました、というだけでは駄目で、ダブルゲートなどを持ち込んでくると、大きなメリットを得ることが出来、結果としてBulkに対して大きなアドバンテージを得られるという風になるかな、と思っています。
Q:BulkよりもやはりSOIの方が、ダブルゲートにとっては相性と言うかメリットがあるという事でしょうか?
いくつかの点で議論する所はあるかと思うんですが、一番大きいのはやっぱり作りやすさだと思います。SOIを使った場合はとにかく作りやすい。これは一番大きなメリットになると思います。デメリットに関して言うと、SOIを使った場合は熱の問題がまず出て来てしまうと言うこと。それから色々なI/Oなど、(ロジックとは)他の種類のデバイスをウェハ上に載せねばならないので、そういった物をどうやって作るかという所はクリアしなければいけないということになります。特に熱の問題は、デバイスとしての本質な問題として残るかなと思っております。
特に低電圧というか、低消費電力を目指しているものに関して言えば、SOI+ダブルゲートというのが、一番簡単に作れるだろうと思います。もちろん1Vとか0.5Vぐらいまで使ってる範囲ですと、それほど大きな差は出てこないと思うのですが、もっと下になった時は完全な差が出ると思います。その前ですと、例えば0.7V~0.8Vを使う時代では、まだかなり電流を使った回路設計をやるという事になると思いますので、どうしても熱の問題ともトレードオフで、どっちが得になるかという話が支配的になるというか、それがクリアしなければいけない問題ですね。後はそれはアプリケーションによって、どの規模で作るかによっても状況は変わって来ます。
Q:ダブルゲート的には、本質的にはこの先さらに拡張する余地はあるんでしょうか?
スケーリングがまず一番の拡張の方法だろうと思っております。中でもやっぱりFinの場合ですと、高さのアスペクトを変えて詰めてくのが、1つの性能を伸ばして行く方向だろうという風に想像はします。ただそれから先、となった時には、たぶん厳しいのかな、と。以前FinFETという名前で呼ぶようになった時に、私の持ったイメージというのは、フランス映画とかに最後にfinと出てくる、「最後」という(笑)あれがとにかくポッと浮かんできまして。ですので、私の個人的な意見としましては、もうCMOSはFinで最後じゃないかなぁと言うイメージを持っております。
Q:それはCMOSと言う意味でという理解でよろしいですか。
ええ、CMOSのデバイスという意味ですが、CMOSと同じ様な使い方をする、同じ様なサーキットを動かす場合も含みます。ですから、例えば東大の高木先生(*3)はGeとかで作っておられて、でもFinを使おうとされてますよね。ですので、あまり切り分けても本質的な意味があるとも思わないので、それと動作を合わせる時に、やはり最後は小さくして動かそうとした時には、Fin型の構造をとると言う風になると思います。ただそれも、最後に行き着いたところでそれ以上と言われたら、きっと苦しい事になると思います。
(*3)東京大学 高木信一教授