京都大学 生物科学専攻動物生態学研究室の高橋鉄美 理学研究科研究員らの研究グループは、アフリカのタンガニイカ湖に生息するシクリッド科魚類「Xenotilapia rotundiventralis(X. rotundiventralis)」にて、「夫婦の絆(ペアボンド)」を分子生物学的に発見したことを発表した。同成果は英国王立協会の専門誌「Biology Letters」電子版に掲載された。

一般に、ペアを作る生物ではメスとオスが一緒に行動するため、どのメスとどのオスがペアを作っているのか、見た目で分かるが、X. rotundiventralisは水中に高密度の群れを作るため、見た目だけでペアなのかどうかは不明であった。

また、X. rotundiventralisは、メスとオスの両方が口内で子供を育てる口内保育という特長を持つが、メスの口には卵から大きな稚魚まで、さまざまなサイズの子供が入っているのに対し、オスの口には大きな稚魚しか入っていない。このことから、最初はメスが口内で卵や小さな稚魚を育て、稚魚がある程度大きくなってからオスに渡すことが分かっていた。しかし、オスが自分の交配相手から子供を受け取っているのか、つまり、オスが自分の本当の子供を保育しているのかは、分かっていなかった。

そこで今回の研究では、口内保育をしている大人の個体と、その口の中の子供の親子関係をDNA判定を実施して、そのつながりを確認した。結果、メスもオスも、口内の子供の本当の親であることが判明し、このことから、メスは自分が生んだ子供を口内保育し、オスは、自分が受精させた子供を交配相手のメスから受け取っていることが確認されたという。

これは少なくとも、産卵から子供の受け渡しまでの期間、夫婦の絆が維持されていることを示すものであり、目に見えない「夫婦の絆」を検出した初めての研究だという。また、「夫婦の絆」を維持する魚は普通、2匹だけの縄張りを作り、他個体の侵入を拒むが(一夫一妻)、今回のような多くの夫婦が集まって群れを作る魚は、非常に珍しい現象と考えられるという。

Xenotilapia rotundiventralisの群れ。左上の、口が膨らんでいる個体が、口内保育中の成魚。雌雄は分からない