シャープは11月4日、同社が開発を進めてきた「化合物3接合型太陽電池」にて、最適化などを施すことで変換効率36.9%を達成したことを発表した。

今回シャープが新たに開発した変換効率36.9%を達成した化合物太陽電池

化合物太陽電池は、化合物半導体を材料とした光吸収層を用いることでSi結晶系に比べて高い変換効率を実現できるが、コストもSi結晶系に比べて高くなってしまうなどのか、Ga(ガリウム)やAs(ヒ素)などを用いることから一般住宅ではなく主に人工衛星などの用途に用いられている。

同社は2000年から違う波長の光吸収層をGaAs基板からトップ-ミドル-ボトム層の順に積み重ねて、最終的にGaAs基板から切り取ってさまざまな別の基板に転写することで高効率化を実現する「化合物3接合型太陽電池」の開発を進めてきており、2009年にはボトム層を従来のGeからInGaAsに変えることで3層を効率よく積み上げ、かつ取り出せる電力をより向上できる技術を開発し、変換効率35.8%を実現していた。

Si結晶系太陽電池と化合物太陽電池の違い、および従来の3層型化合物太陽電池と2009年より採用した化合物3接合型太陽電池の違い

シャープ ソーラーシステム開発本部 次世代要素技術開発センター 第二開発室長の高本達也氏

今回の研究では、その3層に積層された太陽電池の各層を直接につなぐための必要な接合部(I層)の抵抗を低減させることで、太陽電池の最大出力を向上し、その結果として変換効率の向上を実現した。

具体的には直列抵抗を減らすことで、トップ層とミドル層、ミドル層とボトム層それぞれのトンネル接合層の抵抗を低減し最大出力を向上させることで、発電効率を向上させ1cm角で36.9%の効率を達成した。「今回は評価用として1cm角で36.9%だが、基板となるGaAsは4インチなので、そこまで拡大してもほぼ同等の変換効率は維持できる」と同社ソーラーシステム開発本部 次世代要素技術開発センター 第二開発室長の高本達也氏は語る。

各層間の直列抵抗を低減させたことで、最大出力が向上し、結果として変換効率の向上につながった

また、将来的には量子ドットなどを4層目として挿入し、4層構造とすることで、さらなる効率の向上を目指しており、通常の地上での変換効率40%、集光型太陽電池での変換効率50%の達成を目標として開発を進めていくとしている。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が掲げる太陽電池の変換効率の目標値。すでに2014年の変換効率は達成済みで、2025年目標の宇宙37%、地上40%、集光50%をどうやって実現させるか、という段階に入りつつある

さらに、転写できるという特長を使うことで、放熱板との一体化による集光型での高効率化やフィルムへの転写によるフレキシブル化、および切り離したGaAs基板の再利用技術の模索などを進めることで、新たなアプリケーションの開発や量産効果/リサイクルによる低コスト化の実現を目指すとしている。

基板サイズの大型化による変換効率の低下はほぼ問題にならないほか、ボトムとトップ両方から発電できることから、むしろフィルムのような薄いものの上に転写したほうがモジュールとしての変換効率も高くできるとのこと。フィルム型太陽電池が実用できれば、重量とスペースの問題が常に付きまとう宇宙機にとってもブレークスルーとなる可能性も考えられる

なお、同化合物太陽電池に関しては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が評価を進めており、2013年には部品認定を受ける予定で、実証機による宇宙での実証実験を経た後、2014-15年ころには実用化としたいとするほか、集光型向けにも、2012年から少なくとも1年間程度は実証実験を行いデータを取得していく予定としており、その他のアプリケーションとして飛行体用やクルマへの適用なども目指した取り組みを進めていく計画としている。