産業技術総合研究所(産総研) ナノエレクトロニクス研究部門 新材料・機能インテグレーショングループ 安田哲二 研究グループ長および前田辰郎 主任研究員、板谷太郎 主任研究員らの研究グループは、住友化学と共同で、ポストシリコン世代に向けたGeプラットフォーム基板作製技術を開発した。同成果の詳細は、「2011 International Conference on Solid State Devices and Materials(SSDM 2011)」にて発表された。
Geはフォトニックデバイスや高効率太陽電池用材料として用いられるだけでなく、近年、ポストシリコン世代の高性能トランジスタにおけるチャネル材料として研究が進められており、エレクトロニクスとフォトニクスを融合するための新たなプラットフォーム基板の材料として注目されている。しかし、単結晶Ge基板は高価で割れやすく、デバイス化に必要な高品質Ge単結晶層を安価で取り扱いやすいシリコン、ガラス、プラスチックなどの基板上に形成する技術の実現が求められていた。
今回、産総研と住友化学は互いのGe系デバイスの試作技術とGeおよびIII-V半導体エピタキシャル成長技術を合わせることで、さまざまなデバイスの機能集積化に適した高品質Geプラットフォーム基板の作製に成功した。
具体的なGeプラットフォーム基板の作製方法は、GaAsもしくはGe基板上にAlAs層を挟んで高品質なGe層(Epi-Ge)をエピタキシャル成長させる(Ge、GaAs、AlAsは、格子整合性に優れているため良質な薄膜Ge単結晶層を得ることができる)。次に、高品質Ge層を成長させた基板をシリコン基板や、透明なガラス、プラスチック基板など任意の基板に貼り合わせ、その後、AlAs層をフッ酸(HF)系の溶液で選択的に溶解させることで、GaAsもしくはGe基板を剥離し、任意の基板に高品質な薄膜Ge層を転写(トランスファ)するというもの。こうした手法は「エピタキシャルリフトオフ法」と呼ばれ、剥離後の高価なGeAs(Ge)基板を再利用できるという利点がある。
高品質Ge層を透明ガラス基板やフレキシブルなプラスチック基板にトランスファした例では、Ge層の面積は10mm×10mmで、さまざまなチップ、デバイスを作製、集積化するのに十分な大きさであったという。
また、100μmレベル以下の微細パターンに加工された高品質Ge層のトランスファにも成功しており、高品質Ge層を必要な場所に必要な大きさ、形状で作製できたという。
さらに、単なる高品質Ge層のトランスファだけでなく、Geをベースとしたデバイスのトランスファにも有効であることも確認された。実際にガラス基板上にトランスファしたゲート長4μmのGeトランジスタを試作、その特性を調べたところ、成長したGe層はデバイス動作するのに十分な品質であるだけでなく、ガラス基板にトランスファ後もその特性に変化がない事が確認できたという。
研究グループでは、今回開発された技術を用いて、GeトランジスタやGeを基にした太陽電池など多彩なデバイスを成長基板上に作製し、任意の基板に必要に応じて多数並べたり、積層させることで、従来デバイスとの集積化、混載化が可能となるとしており、エレクトロニックデバイスとフォトニックデバイスの1チップ化や太陽電池の軽量化など、従来の技術では不可能であった新機能の集積化、多機能化、高性能化などへの貢献に向けたGeプラットフォーム基板を今後、提供していく予定としている。