名古屋大学は8月31日、肥満に伴う糖代謝異常を改善する脂肪細胞から産出される新しい善玉たんぱく質「アディポリン」を発見したと発表した。

同大学大学院医学系研究科分子循環器学教授の大内乗有氏と、循環器内科学教授の室原豊明氏らの研究チームによる研究成果で、米科学雑誌「The Journal of Biological Chemistry」電子版に掲載された。

肥満は糖尿病などの糖代謝異常や心血管病を高率に合併し、境界型を含めると糖尿病患者は全国に2000万人いるといわれ、もはや国民病といわれるほどの深刻な社会的問題となっている。肥満合併症の病態解明と有効な治療法の開発は重要課題であることから、研究も活発だ。

そして近年の研究で明らかになってきたのが、脂肪組織から産生される多様なホルモンが糖尿病などの肥満合併症の病態に関わっていること。しかし、いまだ発見されていないホルモンもあり、脂肪から産生されるホルモンに関する研究は肥満症の病因解明につながるために重要視されている。

今回の研究では、肥満マウスとやせマウスの脂肪組織における発現遺伝子の解析過程で機能が未知であるホルモンを発見した。この新しいたんぱく質が脂肪細胞に高発現し、インスリン感受性を高めることから、「アディポリン(adipolin:adipose-derived insulin-sensitizing factor)」と命名された次第である。

アディポリンは脂肪細胞に多量に発現しており、脂肪細胞に炎症を起こしたり、ストレスを与えたりすることでその発現は低下する。また、肥満糖尿病マウスの脂肪組織ではアディポリンの発現は低下し、その血中濃度も低下。そして、肥満糖尿病マウスにアディポリンを全身投与すると、脂肪組織の炎症性変化が軽減し、さらに体重の増加や血糖値の上昇が抑制され、インスリン抵抗性と糖代謝異常も改善したという結果が出ている。

また、培養マクロファージにアディポリンを添加してみたところ、炎症性サイトカインの発現が抑えられることが判明。この結果から、アディポリンは炎症性反応を抑制する糖代謝改善作用を持つ脂肪細胞由来ホルモンであることがわかったのである。

なお研究グループは、アディポリンは肥満状態で低下することから、その量を増加させることや、働きをよくすることが、肥満症を基盤として発症する生活習慣病の予防法、治療法の開発につながる可能性があるとした。