パナソニックとの完全統合が検討される電工、法人格として残る三洋

今回の事業再編では、本社機能も改変される。具体的には現在の、パナソニック、電工、三洋の本社部門と、6地域本部の地域統括機能を統合し、より小さな「グローバル&グループ本社」が構築される。

このグローバルは本社のほかに、5つの地域統括が「本社」として位置づけられ、各地域ごとにマッチしたビジネスの展開をスピーディに行っていく方針で、各職能については、グローバルに最適化を図っていく。

例えば、生産関連職能では、調達・ロジスティクスと生産革新の一部で、本部機能をアジアに移転し、その他の職能でも、アジアのサテライト拠点を強化していくとする。そして、これらの職能を、グローバルマニュファクチャリング部門と位置づけ、今まで以上に、連携を深めながら、「強い生産拠点づくり」、「現地調達の強化」、「戦略的な外部活用」など、グローバルモノづくりのレベルアップを加速していくとする。

本社や職能の有り方も変更される

また、再編後の電工と三洋の立ち位置は大きく変化する。9つの新ドメインは、ドメイン長のもと、完全に1つとなって経営が行われることが基本となることから、電工の事業はすべてそれら新ドメインへと完全統合され、法人としてもパナソニックへの合併の可能性について検討が進められているという。

一方、三洋電機は現在、ドメインと競合関係にある商品のOEM事業(デジタルカメラなど)や、海外の合弁事業、終息予定の事業など、新ドメインに統合できない事業が複数存在していることから、当面の間は法人形態として継続され、9ドメインとは別に、これらの事業の運営と資産の管理・運用が行われる予定となっている。

パナソニック電工はパナソニックとの完全な統合路線となるが、三洋電機は新ドメインに統合できない事業があるため、法人格として存続される

このため、コーポーレートブランドは「Panasonic(パナソニック)」で一本化されるほか、三洋、電工、パナソニックでそれぞれ用いられてきたサブブランドなどについては、グループ全体で整合性を取りながら、必要があれば継続して活用し、新規展開も図っていく方針。

ただし、事業構造改革を進める上で、コンシューマー、デバイス、ソリューションの3事業分野が2012年度にはそれぞれ3兆円を超えて拮抗する姿を目指していることもあり、最適な体制への改革を徹底的に行うとしており、三洋、電工とパナソニックの重複事業である白物家電や空調機器、カーナビゲーション、プロジェクタ、監視カメラなどの集約、統合を一気に行い、場合にとっては事業そのものを外部に譲渡する可能性もあるとするほか、本社機能や研究開発部門などの共通機能の統合・整理、三洋半導体のON Semiconductorへの売却などの事業譲渡などを含め、グループ全t内で大規模な拠点再編や人員再配置を進め、現在の国内外38万5000人の従業員を、2012年度末の時点で35万人規模へとスリム化するとしている。

各製品ブランドなどは状況に応じて使い分けていくとする

その一方で、重複する白物家電などは統合などを図っていくとしており、今後のグループとしてのサブブランドの方向性のはっきりとした指針は示されなかった

これまではコンシューマが突出していたが、再編により3事業分野の業績がいずれも3兆円超となるバランスの良い体制作りを目指す。また、それに伴い、35万体制へと人員の整理も行うことが計画されている

こうした事業構造改革を通じて、伸びる市場や分野、新規領域攻略に向けた仕掛けを進めるという。特に市場としては新興国であり、同社では重点国である、BRICs+V、MINTS+Bの2011年度販売目標を前年度比27%増となる6150億円としている。

特にインドでは、2年目を迎える大増販プロジェクトとして、「パナソニックビューティ」の新展開や、買入商品の拡大による、商品ラインナップの強化に加え、ブランドショップの倍増や、Ankerルートの本格活用によるマーケティング体制の拡充に取り組むことで、2011年度10000億円を必達とし、2012年度2000億円への道筋をつけるとする。

また、新市場分野としては次世代照明デバイスとしての有機EL照明に注目。すでに4月12日に出光興産と有機EL照明パネルの事業化、市場開拓を目指す合弁会社「パナソニック出光OLED照明」の設立を発表した。さらに、工場の環境課題の解決に貢献する「環境エンジニアリング事業」の拡大を目指し、「工場まるごと」の提案を、三洋の「ろ過膜」技術を活用するなどにより進め、2011年度では前年度比約1.3倍となる370億円の販売を目指すとしている。

LEDのような点発光ではなく、面で発光することが可能な有機EL照明。有機ELディスプレイは色のバラつきの制御が難しく、なかなか大画面向け製品が出ないが、カラーフィルタなどを用いない照明用途では、そこまで要求性能が厳しくないため、照明デザインの幅が広がることから、新規市場としての期待は高い

さらに、構造改革としては、課題事業への改革も実行する計画としており、特に「薄型テレビの収益力回復」と「半導体のシステムLSIを中心とした事業経営からの脱却」が掲げられた。

薄型テレビの収益力回復だが、同社はこれまでPDPと液晶(LCD)をサイズで住み分けを行ってきた。しかし、「激しいグローバル競争の中、収益力の回復が急務」とのことで、パネル事業についてはLCDの外部調達および提携の積極拡大、PDP生産の中国移管などを進め新規投資を凍結することで、資産の軽減を図るとする。

また、PDPとLCDというデバイスの違いにこだわらず、薄型パネル(FPD)としての競争力が発揮できるインチサイズへの集中化を進め、生産効率の向上を図るほか、セット事業についても、開発機能を含めて海外シフトを進めつつ、フルHDや3D、新興国といったことに焦点を絞ることで、メリハリの効いた機種展開を図っていくとしている。

これまでPDPにこだわりを見せてきたパナソニックだが、近年は液晶製造会社のIPSアルファ(現パナソニック液晶ディスプレイ)の経営権を獲得するなど、LCD分野へのシフトも見せており、今回の売れるサイズにデバイスにこだわらず生産を集中させていくという方針は、こうした動きを加速させるものと見られる

一方の半導体だが、従来のシステムLSIを自社で設計、製造するという方針から大きく変化する。まずはこれまでリソースを集中していたシステムLSIの開発効率を向上させ、そのリソースを環境・エナジー系の新デバイス(GaNなど)やネットワークAV分野(MOSセンサなど)へシフトさせる。

また、これまでの既存顧客や社内といった特定顧客中心のビジネスから、開発、製造、販売を一体化させたビジネスユニット体制により、成長分野の新規顧客開拓の強化を図る。

さらに、自前でのデバイス製造にこだわらず、グローバル最適地生産の加速と、ファウンドリなどの社外への生産委託比率の拡大を進め、先端プロセスへの投資を凍結するとしている。

日本の大手ロジック半導体ベンダとしては、2008年にソニーが東芝に事業譲渡(2010年に買い戻しを発表し、CMOSイメージセンサへの生産へシフト)して以来、2009年4月に富士通セミコンダクターがTSMCと先端プロセスで提携、ルネサス エレクトロニクスも2012年には28nmプロセス品をTSMCで量産を予定しているほかGLOBALFOUNDRIESとも提携、そして東芝も2010年12月にシステムLSI事業の再編を発表し、40nmプロセス以降はファウンドリを活用するとしており、今回の同社のシステムLSI部門が先端プロセスへの設備投資を凍結したことで、国内大手ロジックベンダの先端プロセスへの設備投資はほぼ行われることはなくなった

なお、同社では2011年度はパナソニック、三洋、電工の重複事業の整理などによる売上減少が生じるも、それは合理化や構造改革効果でカバーでき、トータルで60億円程度のプラス効果を見込んでいる。また、2012年度は、太陽電池やリチウム電池、LEDなどの統合による販売増や合理化によるシナジー効果、そして構造改革効果によりトータル600億円のプラス効果が生み出されると試算している。また、GT12を発表時に掲げた「売り上げ10兆円、営業利益5%」のターゲットラインに対し、対ドル、対ユーロともに為替の前提をいずれも10円厳しく設定し、初年度(2010年度)の進捗状況も踏まえた結果、実行計画としてグループの売り上げ目標を「9兆4000億円」へと変更している。ただし、営業利益については、統合効果を加味することで、あくまでも5%以上の達成を目指すほか、利益額でも当初の5000億円という水準に挑戦していくとしている。

しかし、これらの数値は震災の影響を反映しておらず、短期的にはマイナスの影響が出るとの見通しを示しているが、「震災からの復興に大きく貢献するという役割を全力で果たすこと、そして今回の再編を機にグループとして真のTransformationを成し遂げることで、この目標を上回る成果を目指していく」と意気込みを語った。