単なるLTE対応ではなく、付加価値が求められる状況に

2011年2月14日~17日に開催されたMobile World Congress(MWC)2011では、LTEの世界が動き出している上、携帯端末はAndroidのスマートフォンやタブレットが市民権を得て、さらに携帯端末をさらに魅力的にするためのグラフィックスやGUI、ジェスチャーコマンドなどハードウェアやソフトウェアの開発も進んでいることが示された。3Gネットワークだが、M2Mモジュールを充実させるためのエコシステムもそろってきており、今回は携帯端末ではなく、組み込み分野の各ベンダなどの動きを中心にLTEへ向けた取り組みなどをお伝えしたい。

図1 Mobile World Congress 2011の会場入口

3GからHSPA、HSPA+へと進みLTEの世界が開かれることは疑いようのない事実になってきたており、もはやLTE用のチップを開発したというだけではニュース価値はなくなってきた。そうした流れを受けてMWC2011でもLTE+αのαに何の価値を与えるかが焦点となっていた。例えば、LTE+HSPA+3Gといったバックワード互換性を確保するチップ、あるいは各国のLTEに対応するためにソフトウェアで規格をプログラマブルに替えられるチップなども増えている。

例えば、通信用半導体大手の米Qualcommは、2つのLTEの規格であるFDD-LTEとTD-LTEをサポートするだけではなく、DC-HSPA+、EV-DO Rev-B、TD-CDMAもサポートする「MDM9615」を発表している。TD-CDMAとTD-LTEはもともと中国も携帯通信の独自規格だが、いろいろな規格を共存させるのは、LTEネットワークがまだできていない地域にもチップを売り込めるようにするためだ。また、チップではないが、スウェーデンのEricsonもオーストラリアの通信キャリヤのTelestraにLTEへのアップグレードを容易にするため、LTE+HSPA(42Mbps)コンビのネットワークを構築すると発表している。これらの大手に加えて、ファブレスのベンチャーである英IceraもLTE/HSPA+/3Gという共存チップのプラットフォーム「Espresso410」のエンジニアリングサンプルを出荷中である。チップ面積はもっとも小さいとしている。

一方、端末は予想通り、タブレットやスマートフォンが山のように発表された。ただし、AppleがiPhone 5をリリースするかと思われたものの発表はなかったが新しい端末の方向性がSymbianなどではなくAndroid端末であることは疑う余地がなくなってきた。また、MWCが始まる直前のNokiaとMicrosoftの提携によってNokiaは評判を落とした。IntelがNokiaと共同で進めてきたOS「MeeGo」の影も薄くなり、Symbianでもない、Windows Phoneでもない、MeeGoでもない、Androidの地位を固めたようである。

iPhone 5に関しては、開発者でさえ貝のように口を閉ざす。取材した数十名の業界関係者に聞いてみると、MWC 2011においてスマートフォンやタブレットを話題とするものはほとんどいなかった。なぜか、日本ではほとんど報道されなかったMotorolaのXoomが最も評判がよかった。取材したエンジニアや経営陣の多くがXoomはすごかった、と声を上げた(図2)。実際に操作してみると、拡大・縮小・Webブラウジングなどが速く、ストレスは全く感じず、デモでは、ビジネスユースとしてテレビ会議を数カ所で行うのに向いているということをうたっていた。パワーポイントやWebの画面をみんなで共有しながら、それぞれの顔を小さく画面で表情を確認するといった会議が可能である。

図2 MotorolaのXoom。実際に触った感覚としては、応答が極めて速くストレスは全く感じなかった

LTEの次のLTE-Advanced(日本でいう4G)向けのチップを開発している半導体メーカーも出てきている。ベースバンドのデジタル復調をソフトウエェ無線(SDR:Software Defined Radio)で行えるIPコアを英Cognovoからライセンスを受け、半導体チップを開発している半導体メーカーらしいが、詳細はまだ明らかにされていない。

単発的にデータレートの速さを競うのではなく、通信キャリヤは通信トラフィックの増大に対処することが最大の関心事である。誰もがみんなスマートフォンやタブレットを使うようになってきたからだ。データレートの向上はもちろんその解の1つであるが、オフィスや家庭を小さな基地局とするフェムトセルやWi-Fiも使うデュアルモード、なども解になる。むしろフェムトセルが現実的になってきたことが大きなトピックスの1つといえる。

例えば、フェムトセル用のソフトウェア無線のベースバンドチップpicoArrayを開発している英picoChipは、フェムトセル機器を製造しているAirspan向けにチップを供給していることを明らかにした(図3)。このベースステーション「AirSynergy」もLTEだけではなくマルチスタンダードの技術を導入している。また、フェムトセルを設計・製造していた英Ubiquisysはこれまでソフトバンクモバイルや仏SFRにフェムトセル機器を供給してきた実績がある。しかしフェムトセル機器は1台1万円以下に抑えなければならないことから、設計のソフトウェアのみをソフトバンクモバイルに提供し、機器の生産は台湾SerCommに依頼するというファブレス方式に切り替えた。

図3 話を聞かせてくれたpicoChipのマーケティング担当副社長であるRupert Baines氏