アカデミー賞公認のアジア最大級規模の短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2008」のアワードセレモニーが15日、東京・神宮会館で行われた。記念すべき10回目の節目を迎えた映画祭のグランプリは鈴木勉監督の『胡同の一日』が受賞。日本作品がグランプリを獲得するのは同映画祭史上初となった。これにより、同作品は来年に行われるアカデミー賞の短編部門にノミネート。鈴木監督は、栄えあるレッドカーペットを歩くことが決定した。
アジア最大級の短編映画の祭典「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2008」は、1999年に俳優の別所哲也らが発起人となってスタートした映画祭だ。短いもので1分、長いものでも25分までの短編映画が審査対象で、グランプリ作品は来年度の米国アカデミー賞短編部門の候補作品となる。今年度は映画祭がスタートして10周年、アジア部門が設立されてから5周年ということもあり、例年以上に規模を拡大して6月6日に開幕した。
今回のセレモニーはそこで上映された約80作品のコンペティション対象作品から、主要3部門「インターナショナル部門」「アジア・インターナショナル部門」「ジャパン部門」の作品賞を選び、そのなかからグランプリを決定するもの。また、同時に新設された環境問題に焦点を絞った「ストップ!地球温暖化部門」、インターネットで応募を受け付けたオンライン部門の「MSNビデオアワード」の決定も兼ねられている。なお、公式審査員を務めた5名は、映画監督のカリン・アイヌー、俳優の大沢たかお、キャスティングディレクターの奈良橋陽子、女優の堀北真希、演出家の宮本亜門。このほかセレモニーはセレブが多数来場し、中田英寿や土屋アンナが部門公式審査員、プレゼンターとして登場して会場を彩るなど、実に華やかなものとなった。
栄えあるグランプリは初の日本人監督に
世界中から寄せられた約3,000本の応募作品から記念すべきグランプリに選ばれたのは、ジャパン部門を受賞した鈴木勉監督の『胡同の一日』だ。オリンピックを間近に控えるなか、取り壊されていく歴史ある故郷"胡同"を後にする漢方医を主人公とした叙情的な作品。日本人がグランプリを獲得するのは同映画祭では初となる。
新作『JUNO/ジュノ』が今年度のアカデミー賞二部門にノミネートされたジェイソン・ライトマン監督からトロフィーを手渡された鈴木監督は、言葉を詰まらせながら「ありがとうございます。初めて手がけた映画でグランプリまでもらえるとは思っていませんでした。今回たくさんの作品を鑑賞しましたけど、どれも素晴らしいものばかりで……すべての作品を代表して感謝します」と語った。
なお、ライトマン監督もこの日、特別賞を受賞。2001年には同映画祭で入選した経験を振り返り「僕たちも2001年がなければ今がなかった。今日、壇上にあがる監督たちにジェラシーを感じたよ」とコメントした。
インターナショナル部門は日払い労働者の悲劇を描くRajeev Dassani監督の『A Day's Work』、おじいちゃんと孫娘の関係を描いたJie Zhu監督の『Color of Paradise』がそれぞれ受賞した。
MSNビデオアワードはCGアニメ作品が選出
本年度より新設されたオンライン部門「MSNビデオアワード」の発表では部門公式審査員として、女優の堀北真希、映画監督の中尾浩之、MSNエグゼクティブプロデューサーのショーン・チュウが登場。応募された約200点のなかから選ばれたのはヒビパパ監督のCGアニメーション作品『HiBi-Chan』だ。
子どもを抱いて登場したヒビパパ監督は今の気持ちを尋ねられると、「堀北さんと握手させていただきました。HiBi-Chanは私の子どものことで、疲れて帰ってきても勝手気ままな動く子どもを見ていて作りたくなった作品です」と満面の笑みで喜びを語った。なお、握手を喜ばれた堀北は「新しい部門ということで親しみやしさを感じながら観ることができました。意外性やユニークなものが多くでインパクトがあった」とコメント。ショーン・チュウによれば、審査は「自分の携帯プレイヤーに入れたいかどうか」「ビジネス展開しやすいかどうか」というオンラインならではの点も基準にしたという。
同じく新設された「ストップ!地球温暖化部門」の発表では部門公式審査員として映画監督の押井守、女優の土屋アンナ、元サッカー日本代表の中田英寿らが登場。300作品以上から優秀賞である環境大臣賞に選ばれたのはAlvaro Munoz監督による『Two iceberg』だ。Munoz監督は「今回初めて日本に来ました。また、来られるように頑張ります」と受賞の喜びを語った。押井監督はこの作品に対して「映画としての表現力が高いこと。なおかつ作り手として顔が見える作品を選んだ」とコメント。中田英寿は「環境問題に取り組むにはたくさんのアプローチがある。こういう映画を観た人が、それぞれ考えて、なにかしていくことが大事」とコメントした。
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「ストップ!地球温暖化部門」で優秀賞を獲得し、右手を高々と上げて喜びを表すAlvaro Munoz監督 |
「ストップ!地球温暖化部門」の公式審査員の3人。中田英寿(左)、押井守(中央)、土屋アンナ(右) |
なお、このほか東京フィルムセンタースクールオブアート専門学校の学生審査員が選定する「FC TOKYO学生審査員アワード」、来場者による投票で選ばれる「オーディエンスアワード」、最優秀女性監督作品を選定する「Dior CHRISTALアワード」、「ストップ!地球温暖化部門」の一環であるJ-WAVEのリスナーにより選出される「J-WAVE アワード」とTBSによる「akasaka Sacas アワード」などが発表されている。
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「アジア・インターナショナル部門」を受賞したJie Zhu監督 |
「J-WAVEアワード」を受賞した西岡純也監督 |
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「Dior CHRISTALアワード」を獲得したNathalie Saugeon監督 |
「akasaka Sacasアワード」を受賞したJulian Sibre監督 |
最後に挨拶した代表を務める別所哲也は「10年、本日まではいろいろなことがありました。ショートフィルムという文化、可能性がみなさんとともに歩んで、広がってきたことに感謝します。まだまだ10歳になったばかり。社会の手を借りて今後も歩んでいかなければいけません。ぜひ、ここにいる皆さんとともにあたたかい気持ちで育てていければ」と語った。日本人初のグランプリ監督が誕生した本映画祭、ショートフィルム文化のさらなる発展が楽しみだ。
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「アジア・インターナショナル部門」の受賞者を発表する公式審査員の大沢たかお |
公式審査員の宮本亜門は「評論家は大嫌いで評価するのは嫌いだけど別所さんの友人なので審査員になった」と会場を笑わせる |