衛星サービスのJSATは、現在船舶向けの衛星通信サービス「Mega Wave Marine」を提供しているが、このほど報道関係者向けにサービスの説明会を開催した。茨城県の大洗フェリーターミナルに停泊している商船三井フェリーの客船「さんふらわあ ふらの」に同システムが導入されており、デモを交える形で説明が行われた。
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「Mega Wave Marine」が導入された「さんふらわあ ふらの」。茨城県・大洗と北海道・苫小牧を結ぶ全長192.5mの客船。乗組員は27人、乗客は700人前後。大型トレーラーの貨物部分を150台、乗用車を50台前後積載できる。速力は約20ノットで、北海道・大洗間を20時間で結ぶ |
なお、取材当日は海が大荒れで、4mのうねりが観測されるほど。そのため、この日の出航は見合わせられていた |
海上の通信環境の問題点
Mega Wave Marineは、JSATが持つ通信衛星を使った船舶向けの通信サービスだ。従来、船上での通信手段は船舶電話かFAXが利用されており、衛星を使ったNTTドコモのワイドスターやインマルサットによって通信が行われていた。
ただ、いずれも従量課金制であり、しかもこれがかなり高額。たとえばワイドスターのダイヤルアップ型の場合、データ送信時に1分で92.3円がかかるのだという。しかも、その時の通信速度は送信4.8Kbps、受信9.6Kbpsという低速で、一昔前のモデムダイヤルアップの56Kbps(受信)と比べても1/10以下という速度だ。ダイヤルアップのため接続時間に応じた課金であることに加え、使うたびにダイヤルアップを行う手間もあった。主に外航船を対象としたインマルサットのダイヤルアップも、通信速度は上下9.6Kbpsで1分370円というものだ。
これに対して、ワイドスターではパケット型のワイドスターデュオを提供。こちらは送信4.8Kbps、受信64Kbpsに高速化。1パケットあたりの料金は0.4~0.6円ということで、たとえばドコモのiモードのパケット料金は0.21円だから、その倍ということになる。高解像度の写真を送った場合、1枚の写真電送だけで数千円がかかる可能性もあるという。インマルサットもパケット型のFleetがあり、送信28~64Kbps、受信64Kbpsで、パケット代は0.53円/パケットとなる。
こうした低速・高額な通信インフラなどの理由で、船舶のIT化が進んでいないとJSATの営業本部公共ビジネス事業部 阿部貴純課長補佐は言う。陸上ではブロードバンド化が進展し、定額・大容量の通信が普及しており、多くの業務でPCが利用されているのに対し、船舶の通信環境の中心はまだFAXと電話で、そのFAXにしても画像が黒つぶれして見えなくなったり、解像度の関係で細かい画像が見えなくなったりする、複数枚を送る際はそれが終わるのを待つ必要がある、といった問題があった。そもそも陸上から海上に送る際も、海上から陸上に送る際にも高額な通信料がかかってしまう。
PCの通信を使おうにも、回線が細く、時間課金であることが大きな障害となっていた。たとえばウイルス対策ソフトのウイルス定義ファイルの更新やOSのアップデートを行うのも難しく、たとえ実行しても途中で切断されて最初からやり直し、ということも問題だったという。こうした問題を抱えていたため、「船の上ではなるべく通信は使わない」という運用になっているそうだ。
そうはいっても、最近は乗組員のPC操作スキルの向上、陸上への報告資料の電子化、乗組員へのデータ通信環境を提供したいとの要望などがあり、船舶のIT化が進みつつあるところだという。JSATでは、これに対して衛星を使った高速・大容量通信サービス「Mega Wave Marine」を2006年から提供し、船舶への導入を進めている。
Mega Wave Marineの最大の特徴は、最大3Mbps(ベストエフォート)という通信速度だ。総務省の定義では1Mbps以上の速度をブロードバンドとしているため、文字通り船上でのブロードバンド通信を実現してくれる、というわけだ。