実際に法に訴えるケースは少ないのが現状

しかしそうは言っても、企業側は、どうにでも対処できるという見方もある。新法が施行されても、企業は人員削減をしようと思えば、より厳格なノルマを課したり、厳密な業績管理体制を導入したりすることで、その従業員は企業が求める要求には達し得ないとすることができる。その上で、書面あるいは電子記録上の証拠を一つ一つ挙げていけば、従業員を解雇する根拠がたちまちできあがる。そのため、中国企業の間では、「従業員への対応策なら、いくらでもある」という裏話がささやかれているのだという。

また、労働契約法第31条には、「使用者は、労働ノルマ基準を厳格に執行し、労働者に対して時間外勤務を強要する、もしくは形を変えた強要をしてはならない。使用者が時間外勤務を命じる場合は、国の関連規定に基づき、労働者に時間外勤務賃金を支給しなければならない」との規定がある。だが、実際のところ、IT企業では残業などは日常茶飯事であり、企業が残業手当を支給しなくても抗議する従業員は少ないのが現状ではないだろうか。

新法は確かに、労働者が企業に対する際の権利保障を強化したが、長期を経て醸成された労使間の心理状態は、短い期間では変わらない。実際のところ、ほとんどの労働者にとっては、「我慢できるなら我慢する」「企業に対し法的手段をとるなど考えたくもない」といったところが本音だろう。

ブルーカラー層にとってはなおさらだ。法律に頼るという意識自体が希薄な場合も多いと予想されるからだ。ある著名なIT企業では、退職者数が非常に多く、人事部門が労働契約法では違反とされるような約定どおりに大量の違約金を受け取っていたら、いつの間にか社内で最大の利益部門になってしまっていたという、冗談のような話が伝わっているほどである。