(財)21世紀職業財団 専務理事 村上文氏

同財団が用意したWLB企業診断指標で設けられている労働時間に関するチェック項目では、まずはじめに社員1人あたりの年間総実労働時間と、時間外・休日労働時間を過去3年分にわたって算出することが求められる。さらに、時間外・休日労働時間が月45時間、80時間を超えた社員数と割合が、直近1カ月と、直近半年を平均した1カ月あたりでそれぞれ訊ねられる。

(財)21世紀職業財団で専務理事を務める村上文氏によると「国際的に見て、日本人だけが働きすぎだとは一概に言えない。長時間労働者の数の傾向は他の国でも増えてきていると言われるが、日本人の働き方の特徴は、恒常的に長時間働いていること。ある1カ月だけは忙しくて労働時間が長い人がいる、という場合は他の国でもあるかもしれないが、それが何カ月にもわたって長期的に続くということが問題。また、半年間を平均した1カ月あたりの時間外労働時間が月45時間を超えるというのは、心身に影響を与える可能性がある数字だと理解してほしい。現実的にこの水準を厳しいと見る向きもあるかもしれないが、いずれにしてもこの基準を超えるような勤務実態は、仕事の配分を見直すべき水準であると捉えてほしい」と説明する。

また、欧米人と比較した場合の日本人の働き方の特徴として頻繁に挙げられるのは、"バカンスを取らない"ことだ。しかしながら、企業は実際に"ボランティア休暇"や"自己啓発・教育休暇"、"リフレッシュ休暇"といったさまざまな休暇制度を用意している場合が多い。これに対して、チェックシートでは、休暇に関するチェック項目も設けている。具体的には、そうした各種休暇・休業制度の導入の有無に加え、過去3年間の利用者の有無が問われる。「企業がどのような制度を設けても、実際に利用されていなければ意味がない」と村上氏が述べるように、今回の認証制度では実効性が重視されているのも特筆すべき点だ。

また、特に女性にとっては企業が用意する育児支援制度はWLBへの貢献度を大きく左右する。民間の調査会社の統計では、女性の育児休業の取得率は72.3%に上っている。しかしその一方、第1子出産を機に離職する女性労働者の割合が67.4%にも上っているのが現状だ。これに対して、WLBのチェックシートでは、過去3年間の育児休業制度利用者の有無に加えて、休業からの退職率が"10%"未満かそれ以上かが訊ねられる。つまり、財団では育児休業制度を取得した事実に加えて、休業後に実際に復職しているか否かの職場環境も重視しているのだ。 一方、法律が定める育児休業の対象者は女性だけに限られているわけではない。統計によると、男性の育児休業制度取得率はわずか0.5%ときわめて低い数値だ。このような現実に対して、約8割の男性が「取得しにくい」と回答しており、企業風土として育児休業がいまだ浸透しておらず、職場内における理解と意識も不十分であると考えられる。