戦後日本は、"勤勉"の精神を美徳とし、長く働くことが生産性を高め、戦後の復興と行動経済成長を長きにわたり支えてきた。その精神は日本人の心に深く染み込み、私生活を犠牲にしてでも長期間労働が生産力となり組織に貢献するという信仰から、短い時間内に成果を挙げる効率優先型のWLB的働き方への転換は決して容易ではないだろう。また、適切な休暇が職務怠慢と見なされ、人事評価に直結するという暗黙の不安感が休暇制度の利用を躊躇させる場合も考えられる。これに対し、村上氏は「これからは企業が"休業"をいかに評価するかという視点が重要。そのためにはまずルールを明示化して、中身を広く知ってもらわなければならない」と述べ、育児休業や介護休業を社員が実際に利用した場合の賞与や定期昇給、退職金に対する扱いを企業側が明確にしているかをチェックする項目が自己診断指標にも設けられている。

加えて、WLBの推進には経営者のリーダーシップが必要不可欠だと同財団では考えている。これを反映し、チェックシートには実際に"WLBについての経営・人事の方針"という項目が設けられている。具体的には「経営や人事の方針としてWLBへの取り組みが明示されているか」や、「企業内でWLBを推進する部署や担当者が設けられているか」「定期的な社内アンケートやヒアリングなどにより、WLBに関する社員の意見や要望を取り上げる活動が行われているか」などの状況のチェックが行われる。また、「働き方の多様化に関する取り組み」として、転勤や単身赴任者に対する特別な配慮や、育児・介護以外を目的とした短時間勤務制度、在宅勤務制度、退職者の再雇用制度などの有無と実施状況を問う項目も設けられている。

「少子高齢化社会に対応するには、企業が多様な労働スタイルを受け入れていく必要がある」と語る村上氏。また、経営トップ自らがWLBについての理解を示すことも重要だという

「チェックシートにある項目は、WLBを実現するための具体的な提案でもあり、企業はこれをもとにして、社内の働き方全般の見直しをまず行ってほしい。我々は社会にWLBを普及、推進するための取り組みを技術的なところから行おうということで、今回この自己診断指標を開発した。この制度が企業が労働体制を見直すための布石となってくれればうれしい」(村上氏)

今回開始されたWLBの企業認証制度以外にも、優れた労働環境を実現する企業に対して国が認定を行う制度として、厚生労働省による"くるみんマーク"がある。これは、2003年7月に公布された「次世代育成支援対策推進法」により、従業員301人以上を雇用する企業や法人に対して義務づけられたもので、各企業で策定した少子化対策や子育て支援策を「一般事業主行動計画」として届出を行い、それに基づき、成果を挙げた企業に対して認定が行われるものだ。

WLBの企業認証制度を受けるには、事前にこの「くるみんマーク」を取得していることが条件になる

今回はじまったWLBの企業認証制度は、この"くるみんマーク"を取得していることが申請の条件となっている。申請は、法人または事業所単位で行い、4月、8月、12月の年3回受け付けられる。審査は、有識者5名以内で構成される審査認証委員会による書類審査に加え、認証基準の達成が実質的に行われているかどうかの実地審査も行われ、認証された企業はWLB認証マークを2年間の有効期間内に利用できる。取得に必要な費用は、法人単位の場合、申請料5万円、審査料80万円、マーク使用料10万円の合計95万円。事業所単位の場合と中小規模事業者が申請する場合は、申請料5万円、審査料60万円、マーク使用料5万円の合計70万円。このほか、実地審査で必要な旅費・宿泊費は申請者の負担となる。

WLBの認証制度の第1回受け付けは12月1日から31日まで。同財団では「はじまったばかりの制度なので、年内に2、3社の企業が名乗りを挙げてくれればいいところ。まずは、公開している自己診断指標を活用してもらい、2008年度以降、認定企業が徐々に増え、WLBが進んでいる企業に対する社会的評価を高め、社会に全体に対するその波及効果を期待したい」としている。