何をもってスーパーコンピュータと呼ぶかの定義ははっきりしないが、1964年に登場したControl Data社のCDC 6600は、10MFlopsの浮動小数点演算性能を誇るスーパーコンピュータの元祖ともいうべきマシンである。PDP-8が$18000の時代に、CDC 6600は$10Mと値段もスーパージャンボである。

Control Data社のCDC 6600(左)とその後継のCDC 7600スーパーコンピュータ。

そして、1971年には後継マシンであるCDC 7600が出るが、お値段は$5Mと半額になり、性能は36MFlopsに向上している。これらのマシンは、伝説のスパコンアーキテクトであるSeymour Clay氏の設計になるマシンである。

その後、方針の違いからSeymour Clay氏はCDCを辞め、Cray Researchという自分の会社を興し、CRAY-1を開発する。1976年に発表されたCRAY-1は高消費電力のECL ICを液冷するという画期的な実装と、写真に見られるような円筒形の構造で配線を短縮し、初めて100MFlopsの壁を越える160MFlopsという驚異的な性能を実現した。

有名なスパコン「CRAY-1」。(左)円筒形の本体と下の革張りの椅子に収納された電源部(革張りを剥がしてアクリルで内部が見えるように展示)(右)本体の円筒内部のバックパネルの配線。作業者一人がやっと入れるスペースしか無い。

その後、Cray ResearchはCRAY-2(1985年)、そしてマルチプロセサのX-MP(1982年)、Y-MP(1988年)を開発した。そして、その次に、GaAsチップを使い15GFlopsという超高速を目指したCRAY-3の開発を行ったが、このマシンは1台しか製造されず、このプロジェクトは失敗と見做されている。このCRAY-3の残骸のBrickがComputer History Museumに展示されている。

CRAY-2(左)とY-MP(右)。

なお、富士通は1993年にGaAsチップを使う数値風洞(NWT)スパコンを完成し航技研(現在のJAXAの一部)に納入した。CRAY-3は失敗であったが、NWTはVPP500シリーズのスパコンとして商用化され、宇宙研(現在はJAXAの一部)、原研、京大など多数の機関に設置され、GaAsチップを使う商用機となったのであるが、このマシンはComputer History Museumには収蔵されていない。この後も、GaAsを使ったマシンは存在せず歴史的に貴重なマシンなので、富士通、あるいはユーザのどこかに眠っているならば、Computer History Museumに寄贈してもらいたいものである。

Computer History Museumのスーパーコンピュータの展示は充実しており、SIMD並列コンピュータの元祖とも言える、イリノイ大学で開発されたILLIAC IV(1971年)、Thinking Machines社のConnection Machine (CM-1)(1985年)、IntelのiPSC(1985年)、そしてi860を使ったParagon(1994年)などが展示されている。

また、Cray氏が去ったのち、Control Dataが設立したスパコン会社のETAが開発した、液体窒素でCMOSテクノロジで作った、CPU部を極低温に冷却して10GFlopsを実現したETA-10(1986年)も展示さている。このETA-10は日本では東工大が購入したが、故障が多く、稼働率は低かったようである。同社は、後継機として30GFlopsのETA-30を計画したが実現せず、ETAは1世代のマシンを作っただけで消えてしまった。

中央に、CPUを入れる液体窒素タンクが見えるETA-10(左)と、3段に大型プリント板が並ぶILLIAC IV(右)。