香港貿易発展局(HKTDC)が主催するアジア最大級のファッションイベント「CENTRESTAGE(センターステージ)」が、9月2日に香港コンベンション&エキシビションセンター(HKCEC)で開幕。4日間の日程を終えて盛況のうちに閉幕した。

24の国・地域から出展者が集まり、会期中93の国・地域から1万2,000人以上の業界バイヤーが来場。過去最多の業界バイヤー数を記録し、香港はアジアのファッションハブとしての存在感を印象づけた。

本稿では日本ブランドやバイヤーの声から、「CENTRESTAGE」ならではのビジネス面での特徴などを紹介する。

新進のアジアブランドに注目する国内バイヤー

海外のメディアやバイヤーが新たなブランドの魅力を発見する機会として、ブランドの海外市場への進出を後押しする「CENTRESTAGE」。参加バイヤーには韓国の「Musinsa」など世界的な販売網を持つ企業も名を連ねる。

「予想以上に欧州ブランドなども来ていて、新しい場所・違う目線でインターナショナルなブランドを深く見られたのが新鮮な体験でした」と語るのは、レディースブランドを運営するアパレル企業のバイヤー。香港や近隣のアジア諸国の次世代ブランドを見られる機会は珍しく、新ブランドの発見に対する期待から今年初参加したという。

「弊社のお客様は働く女性が一番大きなシェアを占めているんですが、いまそのゾーンの方々は非常にコンサバで、いかにファッションの楽しさを感じてもらうかが我々の現状の課題。自社のブランドではできない、アジアの新しいブランドを今回いろいろ見てみたいと思っていますね」

続いて話を聞いたのは、日本屈指の老舗セレクトショップを運営するシップスの篠原渉氏。「CENTRESTAGE」に足を運ぶのは今年で3回目になる。

「3年前はアジア圏の出展が中心でしたが、グローバルな海外ブランドも一度に見られる感覚を前回より強く受けました。インポートのブランドも増えてきている印象で、トレンドをキャッチする点では面白いですし、円安の中でも比較的プライスラインも買いやすい。日本国内では韓国ファッションが少しクールダウンしてきた感覚も個人的にあり、少し視野を広げて次のトレンド発信地を探したいところです」

パリやニューヨークの展示会などへ年間8回ほど買い付けに赴くという篠原氏。日本のファッション業界の世界におけるプレゼンスは、篠原氏の目にどう映るのか?

「『AURALEE(オーラリー)』さんはじめ、国内外で高く評価されている日本ブランドは少なからず存在しますが、ファブリック(生地・素材)と製品ブランドの間には大きな差があるのかなと。ポテンシャルの大きさに対して、まだまだ数が少ない気がしています」

日本の生地や糸、ファスナーなどは世界的にも高い支持があり、篠原氏によると勢いのあるブランドほど日本メイドの生地が使われている傾向にあるそうだ。

「縫製も日本は緻密で、海外セレクトショップでもコアな人気があります。だからこそ、かつての家電製品のように、いつの間にか世界のものづくりとの隔たりができて、本来のパフォーマンスを海外の市場で発揮できないというパターンに陥ってしまうのは、あまりにもったいないという感覚ですね」

8ブランドから20ブランドへ、CFD TOKYOの出展が拡大

「CENTRESTAGE」には昨年、東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)として8ブランドが出展。同団体はファッション分野のデザイナーやクリエイターなどで構成され、今年は同団体から20ブランドが出展した。

「ビジネスマッチングの仕組みに加えて、香港では英語で商談でき、欧米・オセアニアなど世界各地からのアクセスがあり、パリなどと比べると出展コストが1/5ほど。若手や小規模ブランドが中心で、世界市場への足掛かりとして昨年初めて参加しました」と語るのは、繊研新聞社出身のファッションジャーナリストで、2022年に代表理事・議長に就任した久保雅裕氏。

「CENTRESTAGE」では開催前に、主催者側が事前のビジネスマッチングを行っており、昨年は8ブランドに対して予想を超える100件以上のアポイントが入ったという。また、スペインのセレクトショップや韓国の大手ECセレクトショップとの商談も成立したという。

「小売店はブランドの安定性を重視するので、そう簡単にファーストシーズンから買い付けって、普通はないんです。たいていは3回出展して商談成立というかたちが多く、そうした点も踏まえて昨年は非常に大きな手応えを感じました。昨年に引き続き、今年のアポイント数などを見ても日本のデザイナーの注目度の高さは感じています」

「BASE MARK(ベースマーク)」を2014年に立ち上げたデザイナー・金木志穂氏は次のように語る。

「事前にバイヤーさんの情報をいただき、リサーチした上で商談に入れる点が、他の展示会にはない特徴ですね。もちろん飛び込みのような出会いもありつつですが、3日間で20件ほどのアポイントがすでに入っている状況です」

「BASE MARK」は天日干しなどの伝統的手法や肌触りのよい天然原料を取り入れ、素材本来の風合いや質感にこだわったコレクションで知られるウィメンズブランド。異素材を組み合わせたデザインやレイヤードスタイルが特徴で、今回は現行の秋冬のコレクションやブランドの定番アイテムを紹介していた。

「カジュアルをベースにクリエイションの強いアイテムで、ファッションの階層を壊していくことがブランドのコンセプト。うちはオリジナル生地も多いので、日本のものづくりという部分は、やはり世界に発信していきたいです」(金木氏)

デザイナーの北村郁人氏と石井紗恵子氏による「disemBySiiK(ディゼムバイシーク)」は、海外バイヤーから高い関心を集めた日本ブランドのひとつ。国内外アーティストの衣装制作なども多数手掛け、独創的なテーラリングやドレススタイルを軸に、ジッパーなどでシルエットを自在に変化させられる多層的なデザインを得意とする。

「今回は2027年の春夏コレクションなどを持ってきました。体感としては強い興味を持っていただけていますが、この後のフォローアップでどれだけ具体的なステップにつなげられるかが大事なのかなと。

これまで海外販路を開拓する糸口がなく、現状ホールセールは日本のみですが、SNSの海外フォロワーからのDMや新宿の店舗などでご購入いただく訪日のお客様も多く、我々にとって海外はとても挑戦したい市場です」(石井氏)

「ここまで事前にマッチングを組む主催者はない」 今後の市場開拓は官民連携がカギ?

前出の久保氏は「国際ファッション展示会では単年度ではなく2〜3年単位で継続的に出展できる資金的余力やバックグラウンドがなければ事業的な成果を得にくく、そのため多くの中小規模のブランドが最初の一歩を踏み出せない」という課題を指摘する。

「北陸の合繊、尾州の毛織物、岡山のデニムといった素材の評価が日本は非常に高い。同時に『KIDILL(キディル)』や『doublet(ダブレット)』といったデザインコンシャスな日本ブランドも、パリコレなどでもユニークで強い存在感を持っています。

私も経産省と話し合って、いろいろな政策提言もしているんですが、行政を巻き込むことが今後はより重要なのかなと。韓国などは行政と一緒に取り組んでいますし、そうした点では香港貿易発展局の支援は我々にとって非常にありがたいですね」(久保氏)

海外の展示会に出展経験のある会員ブランドからは、「ここまで積極的に事前のビジネスマッチングを組んでもらえる主催者はない」といった声もあったようだ。

HKTDCマーケティング・マネージャーの引地洋介氏はCFD TOKYOとの取り組みについて、「出展費用面は我々もご協力させていただき、より参加しやすいパッケージを組ませていただいています。今年は20ブランドとのことで、私のほうでも香港側と交渉・調整して、より大きなブースを確保させていただきました」と語る。

香港における日本のブランドやデザイナーの人気は高く、この2〜3年は日本のファッション・ライフスタイル系のセレクトショップの進出なども相次いでいるそうだ。

「物価水準は日本よりやや高めですが、香港では英語がビジネスで広く使われ、時差もわずか1時間。ビジネスを進めやすく、相性は非常に良いのかなと。世界各地からバイヤーさんを招き、『香港に来たからこのバイヤーさんと出会えた』という成功体験を、出展者様に提供していく。主催者として、そのお手伝いを継続させていきたいと思っています」