「駅からも遠いですし、アパートを建てても入居者は集まらないと思うんです。この土地は活用できないでしょうか」

土地活用のご相談ではよく伺う声です。確かにアパートやマンションでは、駅からの距離や利便性が入居者募集を大きく左右します。

しかし前回取り上げた「建て貸し」は評価の物差しが異なります。先にテナント事業者を確定させ、その仕様に合わせて建物を建築する仕組みだからです。

問うべきは一般的な「便利な土地」かどうかではなく、

「その土地が、事業者の出店・開設条件に合っているか」

この一点に尽きます。

事業によって「良い土地」の条件は違う

例えば、ロードサイドの飲食店であれば、駅から徒歩20分でも、交通量の多い幹線道路に面し、車での出入りがしやすく、十分な駐車場を確保できる土地が有力候補になります。むしろ駅前は地価・賃料水準が高いうえ、駐車場スペースを確保しにくい制約を抱えがちです。

一方、介護・福祉施設は評価軸が変わります。一定の建物面積、送迎車両の出入りのしやすさ、周辺の高齢者人口、運営人材を確保できる地域であることなど、事業の持続性を支える環境条件が問われます。

つまり、ロードサイド店舗にとっての好立地と、介護・福祉施設にとっての好立地は一致しません。「この土地はいくらか」という不動産単体の評価だけでなく、「誰が、どのような事業でこの土地を使えるか」という視点から見立てることが、事業として成立させる第一歩です。

「駅から遠い」は必ずしも弱点ではない

この考え方は、相続した土地の活用にも直結します。郊外の土地を相続し、駅から遠いことを理由に「賃貸住宅には向かない」と結論づけても、それだけで「活用できない土地」と判断するのは早計です。

道路付け、敷地面積、周辺人口、交通量、競合施設の状況などを精査すると、店舗や介護・福祉施設など、住宅とは異なる用途に需要が見込めるケースがあります。住宅系の活用では評価されにくかった土地に、別の価値を見いだせる可能性があるのです。「駅から遠い=低評価」という単純な図式では見えてこなかったテナント需要が、見つかることもあります。

「広い」「地価が高い」が「好条件」とは限らない

もっとも、郊外に広い土地さえあれば成立するわけではありません。用途地域や建ぺい率・容積率などの規制、接道条件、敷地形状、高低差の確認は欠かせません。農地転用や市街化調整区域の開発許可が論点になることもあり、上下水道等のインフラ整備に多額の費用がかかれば、建築は可能でも採算が合わなくなります。

建て貸しでは、「テナント需要があるか」「実際に建てられるか」「事業として採算が合うか」を、法規制・設計・建築コスト・資金調達などの面から並行して検証する必要があります。

もう一つ重要なのが、土地の価格とテナントが負担できる賃料との関係です。地価が高いほど価値が高いと考えられがちですが、建て貸しでは必ずしもそうとは言えません。事業者が支払える賃料には、事業収支から導かれる上限があり、土地の価値や建築費に見合う賃料を設定できなければ、土地所有者側の事業として成立しないためです。

逆に、土地取得費のかからない自己所有地などで事業者のニーズと条件が合致すれば、一等地でなくても建て貸しは成立します。重要なのは「高いか、安いか」ではなく、必要な投資と、テナントから得られる賃料が見合うかという採算性です。

  • 建て貸しが成立するのかを判断する3つのポイント

    建て貸しが成立するのかを判断する3つのポイント

「建て貸し向きの土地」を先に決めつけない

では「どのような土地なら向いているのか」と思われるかもしれませんが、ここにこそ注意が必要です。土地だけを見て「介護施設向きだ」「ロードサイド店舗を建てよう」と用途を先に決めると、前回述べた基本発想と逆行します。

原則は、あくまでテナントを先に決めてから建てることです。土地の条件を調べ、事業を営みたいテナントを探し、求める仕様と条件が合致するかを確認する。そのうえで賃料、建築費、資金調達、契約期間を検証して、初めて事業化の可否を判断できます。テナント企業、設計者、金融機関、税理士など、立場の異なる関係者を調整しながら、計画全体を一貫してマネジメントすることが重要です。

土地の価値は「誰が使うか」で変わる

相続した土地を前に、「駅から遠いから価値がない」「アパートが建てられないから活用できない」と判断する必要はありません。土地の価値は、それを使う事業者によって変わるからです。

だからこそ建て貸しでは、

土地を見る→用途を決める→建物を建てるではなく、
土地の特性を把握する→事業者を探す→条件を詰める→テナント仕様で建てる

という順番が重要です。「何を建てられるか」だけでなく、「誰がこの土地を必要としているか」。その視点が、活用が難しいと思っていた土地に新たな可能性を開きます。

次回は、「相続対策は『建てること』ではなく『遺せること』」がテーマです。建物を建てて相続税評価額を下げること自体はゴールではありません。借入、収益、修繕、出口まで含め、次世代にどのような資産を遺すのか。第36回から続く「相続税対策と不動産活用」の本質を整理します。