瞑想中の心の状態をリアルタイムで可視化し、いかに深い静けさと集中状態を維持できるかを競う瞑想競技イベント「瞑想の数値化チャレンジ 東京大会」が、10月2日に東京・港区で初開催された。
瞑想状態をリアルタイムで数値化し、スコアを競う
スイス・ジュネーブを拠点に瞑想科学を推進するAll Here(オールヒア)と、瞑想を競技化する国際組織World Meditation League(ワールドメディテーションリーグ)が主催する「瞑想の数値化チャレンジ」は、精神修養である従来の瞑想を科学的に測定し、「観る」「競う」文化へと進化させる新たな試みだ。
瞑想実践者の心の状態は、All Hereが開発した「瞑想の数値化(QM)システム」で計測し、「集中力&マインドフルネス指数(CMI)」「アルファ波パワー&脳波活動」「QM3」をスクリーンに表示。「QM3」は瞬間的な高まりではなく一定期間の持続力を表すため、この数値で瞑想の深さと安定度を推し量ることができる。心の状態をリアルタイムに可視化することで、観戦者が白熱できるポイントを作っているところが大きな特徴といえる。
登壇したAll Here 創設者・エルキン ベクさんは、瞑想の有効性や大会の開催意義を、次のように話していた。
「速いスピードで動く現代は情報が溢れ、また自動化やAIが発展する中で人々の関心も様々な思考に細分化されています。そんな現代でも、瞑想を通して集中の実践を行うことで、干渉のない意識の流れを保ち、安定した心の静寂に至ることができます」
「瞑想は世界で3.5億人が実践しています。私たちは科学とテクノロジーの力で瞑想をスポーツとして新定義することでさらなる関心を高め、心の安定と静寂を目指していきたいと考えています」
研究者も驚かせる驚異的な数値が続出
東京大会は、世界トップクラスの瞑想実践者3名が20分間の瞑想に挑戦。最も集中度が高かった3分間の数値で、瞑想度の深さを競うというルールで行われた。
舞台が暗転し、会場が静けさに包まれる中、競技スタート。スクリーンには「瞑想の数値化システム」で計測された3名の心の状態が映し出されていく。
競技中は、スポーツコメンテーターのロブ・ウォーカーさんと、All Hereチーズ神経科学ディレクターのクリストフ ミシェルさんが脳波の変化を解説。スポーツ中継さながらの臨場感あふれる実況で競技を盛り上げるとともに、観戦者を楽しませた。
競技終了後は、休憩を挟んで再び瞑想実践者が登壇。東京大会の結果発表が行われた。
今回は、集中力&マインドフルネス指数(CMI)と深い瞑想状態を示す脳波変化から計算される心の静寂度指数(SMI)で最高得点372を記録した鶴森さんがトップメディテーターに輝いた。
表彰式で今回のチャレンジについて尋ねられた鶴森さんは、「前日のリハーサルでは緊張して思うように実践できませんでしたが、本番ではいつもと変わらない状態でできました」と振り返る。続けて、「仕事でストレスを感じている方にも、瞑想を通じて心の安らぎを見つけてほしい」とメッセージを送った。
神経科学者・茂木健一郎は今回のチャレンジをどう評価する?
今回のイベントでは競技実施の他、All Hereと建築家の隈研吾さんが手がける没入型瞑想XR プラットフォーム「ZENBU KOKO」の公開や、神経科学者の茂木健一郎さんの講演「瞑想の数値化で生きがいを見つける」などのプログラムも行われた。
イベント終了後、茂木さんに今回のイベントのポイントや今後への期待を聞いてみた。(以下「」は茂木さん)
―瞑想を数値化する今回の取り組みを、どのように評価していますか?
「1つ大きなポイントは、瞑想の実践者であり、瞑想の実践について深い理解を持つエルキンと、神経科学の世界でも特に脳活動を詳細に計測することに非常に大きな実績を上げているクリスチャンの2人が組んでいることです。これがどちらかだけでは成立しません。
例えば、神経科学だけではどういう状態が瞑想が上達した状態なのか、上達させられるかということがわかりません。一方で瞑想をやっているだけでは脳活動の計測がなかなか難しい。瞑想の実践者と神経科学の第一人者が組んだからこそ、今回のような取り組みが可能になったと思います」
―瞑想の数値化、瞑想を可視化することに対する効果メリットは?
「瞑想にはどちらかと言うと、科学技術とは真逆の神秘的や伝統的といったイメージがあると思います。おそらく瞑想の世界にもいろんな考え方があって、数値化することで大切な価値が失われてしまうと考える人もいるでしょう。
でも、特に現代社会では情報過多やストレスの蓄積によって、瞑想で脳を整えることの必要性が出てきています。ということを考えれば、やっぱり瞑想に対する科学的エビデンスはあった方がいいです。それで言えば、今回の取り組みは一人一人が自分の経験に基づいて、あるいは流派やスクールによって実践していた部分を、もう少し科学的に、客観的に行おうということだと思います」
今後の展開について、茂木さんが期待されるところは?
「現代人の脳は、もう少し自分の中で整理する必要があります。
例えば、デフォルトモードネットワーク(DMN)というアイドリング時だけ活動する神経細胞のネットワークがありますが、このネットワークを活性化させてもっと自分自身の統合や整理をした方がいいと思います。
その意味で、今回のチャレンジは時代にも合っていますし、一般の方に自分の心を整える方向に注意を向けてもらうということにおいては意味のあるイベントだと思います。世界陸上を見て、“走るのが速いな。じゃあかけっこをしてみようか”と思うような感じで、ちょっと瞑想してみようかと思うきっかけになればいいと思います」
茂木さんも大きな期待を寄せている様子が伺えた「瞑想の数値化チャレンジ 東京大会」。イベントの最後にエルキンさんは、早くも来年の第2回東京大会開催を匂わせていた。瞑想を一歩先へと進化させるチャレンジの今後の展開に注目だ。









