IT を最大限に活用して新たなビジネス価値を生みだすデジタルトランスフォーメーション(DX)は、あらゆる企業で重要な経営課題のひとつになっています。その過程においてクラウドサービスを積極的に活用することは、課題解決に近づくための有効な手段です。

物理的なハードウェアを自社で「所有」するのではなく、必要なリソースやサービスを、必要なときに必要なぶんだけ「利用」するという IT の新しいパラダイムは、これまで物理的なハードウェアの運用保守に費やされていたコストや手間を削減し、市場の変化へ迅速に対応していくための助けになります。多くの企業が、既存のオンプレミス環境をクラウドへ移行する「クラウドシフト」、そして、新たなシステムの構築をクラウドベースで進めていく「クラウドファースト」に取り組んでいます。

日本最大にして、グローバルでも有数の総合金融グループである三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)では、経営課題と密接に結びついた IT 戦略の一環として、クラウドサービスの積極的な活用を進めています。同グループでは、グループ全体で利用する共同システム基盤を構成するクラウドサービスとして、マイクロソフトの Microsoft Azure を採用しました。

クラウドの進化を背景にグループの共同システム基盤を構築

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ システム企画部 調査役 山下 純司 氏

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
システム企画部
調査役
山下 純司 氏

MUFG では、2000 年代後半から主にアプリケーション領域(ASP、SaaS)でのクラウド活用を進めてきました。これらについては、グループ企業がそれぞれの業務に特化した形で、検証、導入を行っていたといいます。一方、IaaS の活用によるオンプレミスからのクラウド移行、クラウドファーストを原則とするシステム開発については、2015 年ごろから本格的な検討がスタートしました。

MUFG システム企画部で調査役を務める山下 純司 氏は「グループのシステム基盤として、本格的に IaaS の活用を検討できるようになった背景には、クラウド側が提供する仮想ネットワーク、セキュリティ、権限コントロールといった機能が、われわれのグループで求める要件を満たせるものに進化したことがあります」と話します。

MUFG ではグループ共通で利用するクラウドによるシステム基盤構築に向けて、検討を開始。2017 年に他社クラウド利用による整備を行いました。同社選択の理由は、グループ内の既存システムに Linux ベースで作られたものが多く、当時はそのサポートが最も充実していたこと、仮想ネットワーク機能や権限コントロール等の機能が金融機関として遵守すべきセキュリティ要件に合っていたこと、さらに日本リージョンの状況やサービスの豊富さ、エコシステムの大きさなどを総合的に評価した結果だったといいます。

Windows システムを多く抱える MUMSS での EoS 対応が Azure 再検討の契機に

三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 システム部 開発イノベーション課長 佐々木 正人 氏

三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
システム部
開発イノベーション課長
佐々木 正人 氏

今回クラウドによるシステム基盤の選択肢に Microsoft Azure(以下、Azure)が加わった経緯には、MUFG の中核となる総合証券会社である、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS)における、リスク管理システムのクラウド移行プロジェクトが大きく影響しています。

MUMSS のシステム部 開発イノベーション課で課長を務める佐々木 正人 氏は、MUMSS に特有の事情が Azure の採用検討に至った大きな理由になったと話します。

「これまでオンプレミスで運用をしてきた各種のシステムが 2018 年末から次々と EoS(End of Service)を迎えるという状況があり、次の更改ではクラウドへの移行を検討していました。MUFG 全体では Linux で作られたシステムが多かった一方で、MUMSS はグループ内でも特に Windows Server や SQL Server といった、マイクロソフトのテクノロジーを採用したシステムを多く運用していたのです。そこで Azure と他社クラウドをあらためて比較し、共同システム基盤の一部として Azure を採用することで、メリットが出せるかどうかを検討することにしました」(佐々木 氏)。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 システム部 リスク管理システム課 副参事(当時) 岡村 祥平 氏

三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
システム部
リスク管理システム課 副参事(当時)
岡村 祥平 氏

2020 年末に EoS が迫ったリスク管理システムの更改にあたり、プロジェクトを指揮したのは、MUMSS のシステム部 リスク管理システム課 副参事(当時)の岡村 祥平 氏です。岡村 氏は、コストや技術、セキュリティなど、さまざまな側面から、両社のクラウドサービスの比較検討を行い、実際の移行作業も手がけました。

「今回のリスク管理システムのクラウド移行では、第一に今後のシステム運用にかかるトータルコストを下げていくことが求められていました。同時に、これまでオンプレミスで実現していたセキュリティレベルを、クラウド上でも確保できるかが重要な要件になりました」(岡村 氏)。

MUMSS 単体で見ると、システム全体のうち Windows Server ベースで作られたものの比率は、約 7 割に達するといいます。セキュリティ要件なども加味したうえで、今後も続いていく EoS 対応を視野に入れると、最も投資額を押さえられるのは Azure への移行であるというのが岡村 氏の結論でした。ただ、グループ全体で見た場合には MUMSS 単独での Azure 採用では、コスト面を含むメリットを最大限に享受することは難しいだろうという見込みもあったといいます。そこで MUMSS では、MUFG とも協議のうえ、グループの共同システム基盤の選択肢に Azure を加えるべく、プロジェクトを進行していったのです。

「前提として、グループ全体でのコストメリットが見えなければ、新たな共同システム基盤として Azure を採用することは難しかったと思います。グループ全体で見た場合には Windows Server をベースとするシステムの比率は高くありません。これまでにいくつかの Windows Server システムを他社クラウドへ移行した実績はあり、Windows Server を動かす IaaS として見た場合、他社クラウドはそれほどコスト的な優位性が高くないという実感がありました」(山下 氏)。

山下 氏と岡村 氏は Azure について、Windows Server や SQL Server を動かす基盤としての親和性、Azure ハイブリッド特典 (AHB) によるコストメリット、Linux のサポートや仮想ネットワークといった機能面でも他社クラウドに遜色ないレベルに進化してきていること、今後のサービスの継続性や発展が期待できることなどを評価し、採用は妥当と判断したといいます。

マイクロソフトの支援を受けつつグループ一丸で Azure による基盤を実現

MUMSS として、Azure 採用の最終判断を行ったのは 2019 年 4 月。その後 11 月には、MUFG の共同システム基盤として Azure を加えることについての決裁がおり、Azure による共同システム基盤の構築を MUFG、MUMSS、そして情報子会社である三菱UFJインフォメーションテクノロジー(MUIT)の共同プロジェクトとして進行していくことになります。並行して、MUMSS のリスク管理システムのクラウド移行プロジェクトは MUMSS 主体で進められていきました。なお、共同システム基盤構築のパートナーとしては、日本ビジネスシステムズ(JBS)が参画しています。

MUMSS システム部 開発イノベーション課 部長代理の柴崎 真一郎 氏は、MUFG 事務・システム企画部(現 システム企画部)を兼務しており、MUMSS と MUFG の中心的な橋渡し役となって、両社の利害を調整していたといいます。その際はグループ全体のメリットを最大化できるように、共同システム基盤が満たすべき要件を詰めていきました。また、当時 MUFG の事務・システム企画部(現 システム企画部)に所属していた古川 周 氏や、MUIT で Microsoft 365 などの導入、運用に関わっているコラボレーションサービス部の中本 博久 氏もプロジェクトに加わり、Azure の共同システム基盤としての実装が進められました。

  • 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ システム企画部 調査役 兼 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 システム部 開発イノベーション課 部長代理 柴崎 真一郎 氏

    株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
    システム企画部 調査役 兼
    三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
    システム部 開発イノベーション課
    部長代理
    柴崎 真一郎 氏

  • 三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 コラボレーションサービス部 プロフェッショナル 古川 周 氏

    三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社
    コラボレーションサービス部
    プロフェッショナル
    古川 周 氏

  • 三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 コラボレーションサービス部 プロフェッショナル (三菱UFJ銀行から出向) 中本 博久 氏

    三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社
    コラボレーションサービス部
    プロフェッショナル
    (三菱UFJ銀行から出向)
    中本 博久 氏

各担当者に、パートナーである JBS、マイクロソフト コンサルティングチームのアーキテクト、スペシャリストを交えたミーティングは、ピーク時には 2 日に 1 度ほどの頻度で開かれ、MUFG が求める要件を Azure 上でどうすれば実現できるのか、そのために何をする必要があるのかといった議論が行われました。

「われわれにとって、最も重要な要件はセキュリティに関するものでした。証券会社をはじめとする金融業界の企業には、高いセキュリティレベルで守らなければならない情報があり、厳しいルールが設けられています。それを Azure 上ではどういう技術、サービス、アーキテクチャで実現できるのかについて、マイクロソフトの担当者には、非常に細かい単位で相談に乗ってもらいました。そのほかにも、災害対策(DR)要件を満たす構成を作るにあたり、どうすれば Azure のメリットをフルに引き出すことができるのかを精査しました。MUMSS には、オンプレミスの仮想化プラットフォームで Windows Server システムを運用してきた実績がありましたが、クラウドならではの方法論や、メリットを最大限に享受するための方法について、自分たちだけで調べていてはわかりにくい部分を、マイクロソフトから直接アドバイスしてもらえました」(岡村 氏)。

MUMSS のリスク管理システム移行プロジェクトは、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の影響で若干のスケジュール変更は行ったものの、2020 年 12 月中旬に Azure の共同システム基盤上でリリースされました。カットオーバー時に大きなトラブルはなく、岡村 氏は「驚くほど安定稼働している」と振り返ります。

「共同システム基盤のプロジェクトメンバーやパートナー、マイクロソフトの協力もあり、リスク管理システムの移行は予想していたよりもはるかにスムーズでした。もともとのシステムが、仮想化環境で動いていたということもあり、仮想マシンベースの移行であれば、大きな問題は起こりにくそうだという印象を持ちました」(岡村 氏)。

セキュリティを強化しつつ活用範囲を検討。Azure ならではのサービス連携にも期待

MUFG における共同システム基盤としての Azure の活用拡大については今後の課題となりますが、Azure ならではのメリットに期待を寄せているといいます。

「金融業界の中で、機密性の高いデータを扱うシステムにクラウドを使うためには、セキュリティ上の高いハードルをクリアする必要があります。他社クラウドについては、既にかなりの量の追加開発を行って、その要求に適合するものにしてきました。Azure はまず今回のリスク管理システムに適応できるレベルのセキュリティが実現された段階であり、さらに適用範囲を広げていくためには追加開発を行って、セキュリティレベルを高めていく必要があります。そのコストに見合うメリットが引き出せるかどうかがこれからの課題です」(山下 氏)。

「Azure に限った話ではありませんが、クラウドというとどうしても SaaS のイメージが強く、『クラウドに移行すれば運用コストが掛からなくなる』という印象を持ってしまいがちです。しかし IaaS として使う場合、ハードウェアに関わるコストや手間が不要になるのは確かな一方で、システムの運用保守という面では、オンプレミスと大きく変わらないのも事実です。ユーザーの立場としては、より効率の良い運用スキームを作っていきたいところで、マイクロソフトに対してもそうした IaaS の運用コストを削減できるような情報の発信方法や仕組み作りを期待しています」(中本 氏)。

MUFG では Azure について、IaaS としてのコスト面や運用面でのメリットだけでなく、プラットフォーム内の多くの SaaS や PaaS との連携などを視野に入れ、IT 基盤としての機動性、生産性の高さを、時間をかけて評価していきたい意向だといいます。

「MUFG では、既に Microsoft 365 を導入していることもあり、Azure AD との連携、IaaS で蓄積しているデータを活用するようなアプリケーションの構築といった場面でも、恩恵が得られるのではないかと考えています」(古川 氏)。

「Azure にはビッグデータ活用や機械学習など、先進的なサービスを企画するにあたって有用なサービスがあります。企画内容や関連するシステムの構成、要件ごとに精査は必要ですが、条件によっては Azure 上のサービスを使ったほうが、より大きなメリットが得られるケースも出てくるのではないでしょうか。MUFG は多くのお客様にご選択いただいている金融機関ということで、どうしても新たな技術やサービスの取り入れには慎重にならざるを得ない部分がありますが、そのハードルを下げ、積極的にクラウドを活用できるような仕組み、サービスの提案が Azure 上であれば嬉しいですね」(柴崎 氏)。

「グループ内でも MUMSS は特に、業務部門での Windows や Office の活用度合いが高く、Excel とバックエンドが連携するようなシステムも多く使われています。今後、Office との親和性が高いローコードプラットフォームの Microsoft Power Apps や Power Automate をはじめとした SaaS や PaaS も視野に入れることで、よりエンドユーザーに近いところで、オンタイムのニーズに合うアプリケーションを迅速に開発し、現場に展開するといったことも可能になるかもしれません。また、MUFG の共同システム基盤となった Azure を使っていくことで、これまで手間や時間を取られていたハードウェアの調達や運用に関わる業務からは解放されます。MUMSS のシステム部門としては、より証券業界の業務と強く結びついた、業務上の課題を解決していけるようなシステムの企画にリソースを集中していきたいと考えています。それは、社内のエンジニアのモチベーション向上やキャリアアップにもつながるのではないでしょうか」(佐々木 氏)。

MUFG では、グループ全体で運用している 1,000 以上のシステムにつき、移行基準を設けて順次クラウド化を推進しているそうです。これからも Azure を含むクラウドサービスの活用と運用のノウハウを蓄積しながら、変化のサイクルが加速する金融事業に、柔軟かつ迅速に対応できる IT 基盤の確立を目指していくことでしょう。

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