オンラインゲームを楽しむプレイヤーは快適に遊べる環境を常に望みますが、それを叶えることは簡単ではありません。アクセス数に応じたサーバーの適切なサイジングや、障害発生時のスピーディーな対応を可能にするために、インフラエンジニアを雇い、常に張り付かせていることは、重い負担になります。スタートアップ企業であればなおさらでしょう。

ユーザー数 150 万人を越えるオンラインゲーム『オトギフロンティア』を提供する、創業5 年目の KMS は、ゲームサーバーに Microsoft Azure(以下、Azure )を採用しています。同社は、Azure の PaaS のみでゲームサーバーを構築することによって、運用を効率化し、コストを最適化し、ゲーム開発という本来の業務への集中を実現しているのです。

ゲーム事業に新規参入するためにパブリッククラウドを選定

株式会社 KMS はゲーム事業を中心に、クラウドソリューションの提供やシステム開発、マーケティングから物販まで、多岐にわたる事業を展開している、創業 5 年目のスタートアップ企業です。

同社の出発点は広告代理業でした。ゲーム事業に参入するまでの経緯を、株式会社 KMS 代表取締役社長 梶原 健太郎 氏は次のように振り返ります。

「本格的な自社サービスを始める前に、まずはマーケットの状況を調べたいと考えたのです。広告ならば、どの分野にも関わることができます。初めの 1 年間は広告代理業として展開し、その後、さまざまな分野のサービスを検討した結果、ゲーム事業を立ち上げることを選びました」(梶原 氏)。

  • さまざまな分野のサービスを検討した結果、ゲーム事業を立ち上げることに

    さまざまな分野のサービスを検討した結果、ゲーム事業を立ち上げることに

ゲーム事業への新規参入はハードルが高く、コストもかかりますが、ヒットした時は大きな利益を獲得することができます。KMS は、オンラインゲームのプラットフォームサービスである" DMM GAMES "を対象に、ファンタジー RPG 「オトギフロンティア」を開発しました。

オトギフロンティアは、おとぎ話をテーマにしたゲームで、プレイヤーはシンデレラや赤ずきんといった童話のキャラクター達と協力し、魔物に立ち向かいます。2017 年からサービスを開始したオトギフロンティアは、本格的な戦闘を楽しめるオンライン RPG として評判となり、プレイヤー数は 150 万人を越えました。

PC ブラウザやスマホアプリからアクセスする大勢のプレイヤーに対して、常に快適に遊べる環境を提供するには、優れたインフラを用意しなければなりません。

株式会社 KMS CTO 川方 慎介 氏は、オトギフロンティアの提供基盤を選定するにあたって「Azure は当初、候補にも挙がらなかった」と言います。

「2012 年に、あるゲームのプラットフォームとして Azure を試したことがあるのですが、当時の Azure はパフォーマンスが悪く、不具合も多く、上手く乗らなかったのです。その時の経験から、Azure では上手くいかないと決めつけていました」(川方 氏)。

  • パブリッククラウドを検討し始めた当初は、Azure の選択肢はなかった

    パブリッククラウドを検討し始めた当初は、Azure の選択肢はなかった

大手パブリッククラウドの見積もりを取ったところで、川方氏は個人的に交流していたマイクロソフトの Azure の技術専門家に相談をもちかけます。

「別途検討していたパブリッククラウドを扱うためのコツや、メリット・デメリットを、丁寧に説明してくれました。その上で『Azure を使うと、インフラエンジニアを雇わずにサーバーを運用できる。浮いたコストを、開発やプロモーションに充てることができる』という提案を受けたのです」(川方 氏)。

この時の印象を、梶原 氏は苦笑しながら説明します。

「正直なところ『本当かな?』と首をかしげました。ただ、当時の僕たちは技術力も無く、インフラに何をどう選んで良いのかもわかりません。Azure は過去に一度失敗をしているところですが、また失敗すると分かっていて、再提案をするでしょうか。インフラエンジニアの採用にコストをかけなくていいというのは、確かに魅力的です。最終的には、Azure は信じられなくても、この人を信じようと思って、導入を決断しました」(梶原 氏)

すべて PaaS でゲームインフラを構築。細かいチューニングによってコストを最適化する

株式会社 KMS 代表取締役社長 梶原 健太郎 氏

株式会社 KMS 代表取締役社長 梶原 健太郎 氏

2016 年から、KMS はマイクロソフトのスタートアップ支援プログラム" Microsoft BizSpark (現:Microsoft for Startups )"を受け、オトギフロンティアのインフラ構築に着手しました。

BizSpark の対象に選ばれたスタートアップ企業や起業家は、マイクロソフトのソフトウェア、開発ツールやクラウド環境などを無償で利用することができます。

「当時は開発で資金が出ていく一方なので、自由に Azure が利用できる BizSpark には本当に助かりました。技術面でのアドバイスも含めて、マイクロソフトの助けが無ければ、オトギフロンティアをリリースすることはできなかったと思います」(梶原 氏)。

KMS はマイクロソフトからの支援を受けながら、PaaS だけで、シンプルなアーキテクチャを構築しました。主な PaaS は3つ。トラフィック自動管理サービスである" Azure Traffic Manager "と、アプリケーションをホストするためのフルマネージドサービス" Azure App Service "、そして" Azure SQL Database "です。

ゲームのリリース後、チューニングを積み重ねたことによって、コストパフォーマンスを高めていると川方 氏は言います。

「初めの頃は、外部の掲示板にファンが書き込んだ『重い』という発言を見て、アクセスが遅くなっていることに気づくこともありました。帰宅後に障害に気づいて、慌てて対応したこともあります。こうした経験を重ねるうちに、どの時間帯にアクセスが増減するのかを学び、自動化の設定を工夫することによって、コスト最適化ができるようになっていったのです」(川方 氏)。

KMS は、Traffic Manager によって、東日本リージョンと西日本のリージョン重み付けを適宜変更し、負荷分散を可能にしています。また、メンテナンス時もリージョンを切り替えることによって、できるだけサービスを止めずに提供し続けています。

App Service は自動的にスケーリングをする機能を有していますが、KMS はさらに細かい調整を加えています。オートスケールに任せっぱなしにするのではなく、月初・月中・月末や土日・平日、昼夜といった時間帯に応じた許容範囲を細かく設定しているのです。ゲーム運営によって培ったアクセス予測のノウハウを加えることによって「コストを抑えながら、ユーザーに負荷をかけない」という両立が可能になりました。

Azure SQL Database も同様に、毎日のスケジューリングに基づくスケールアップ・スケールダウンを施すことによって、コストを圧縮しています。

こうした細かいチューニングについて「初心者でもできる」と梶原 氏は言います。

「私も川方も、クラウドインフラについてはまったくの素人で、見たことも触れたこともありませんでした。しかし、Azure の PaaS には分かりやすい管理画面があるので、特別な知識がなくとも、インスタンス数の増減といった設定が可能です。Application Insights を見れば、現在のパフォーマンスがどの程度なのか、どこに問題が発生しているのか、すぐに確認して伝えることができます。Azure を使って初めて『インフラエンジニアを雇わなくとも運用できる』という言葉が嘘ではなかったと分かりました」(梶原 氏)。

コストパフォーマンスと品質管理に優れた Azure の PaaSサービス

梶原 氏は、会社の文化によると前置きしながらも「PaaS は絶対に利用すべき」と確信を込めて言います。

「それは、コストパフォーマンスの高さです。PaaS によって柔軟なサイジングをおこなえば、サーバーを余計に抱える費用は不要になります。同業者は私たちのサーバー代を聞いて驚くことでしょう。さらに、インフラエンジニアを雇う人的コストや工数も削減できます。インフラの運用に必要なコスト・工数が最小化できれば、最も重要な『面白いゲームをつくる』ことに、リソースを集中することができるようになるのです」(梶原 氏)。

さらに梶原氏は、コストパフォーマンスだけでなく、「品質管理」の上でも PaaS が活躍していると言います。

「インフラの状況が誰でも分かるように可視化されますから、従来は専門職でなければ分からなかったことが、管理者でもチェックできるようになるのです。たとえゲームのアップデート直後に障害が発生した場合でも、エンジニアと具体的なコミュニケーションを交わして、即座に対応を取ることが可能です。素人同然だった私たちがこれだけ使いこなせているのですから、Azure の PaaSサービス利用は自信を持ってお薦めできます」(梶原 氏)

機械学習でユーザーの行動分析を深め、さらなる感動体験の提供へ

株式会社 KMS CTO 川方 慎介 氏

株式会社 KMS CTO 川方 慎介 氏

川方 氏は、今後利用していきたい Azure のサービスが数多くあると言います。

「機械学習ツールである" Azure Machine Learning "もその一つです。ゲームのプレイヤーはどのように振る舞っているのか。どんな志向を持っているのか。深くデータ分析をすることによって、満足度のさらなる向上が可能となるでしょう。また、2020 年 8 月に Android 版と iOS 版のオトギフロンティアをリリースしましたが、ネイティブアプリの開発・テスト・配布を効率化していくためにも" App Center "の利用は欠かせないと思っています」(川方 氏)。

梶原 氏は、KMS の今後の方針とともに、Azure への期待を次のように語ります。

「KMS は今後もゲーム事業を中心に拡大していこうと考えています。来年から再来年にかけて、さらなるゲームをリリース予定ですし、日本国内だけではなく、グローバル展開も狙っています。日本のコンテンツを海外へ持っていくには、運用面・技術面でさまざまな課題が生じることでしょう。Azure には、まだまだ触れていない機能が数多くありますから、それらを活用することによって、世界に新しい体験と感動を提供していきたいと思います」(梶原 氏)。

Azure の PaaSサービスを活用することによって、インフラストラクチャの管理を最小限に抑え、エンジニアと管理者との円滑なコミュニケーションを実現させた KMS。同社はこれからも優れたゲームを世界に届け、飛躍していくことでしょう。

[PR]提供:日本マイクロソフト