一瞬を写しとることだけが写真ではありません。シャッター速度を遅くすると、普段みなれた光景でも、人の目では見ることができない絵で写し出されます。今回はそんな長時間露光の魅力と楽しみ方を紹介したいと思います。
長時間露光の魅力
長時間露光とは、長い間シャッターを開けた撮影です。動いている被写体を撮影する場合、被写体ブレを起こさないように早いシャッター速度で撮影するのが一般的です。しかし長時間露光では、一瞬では写すことのできない暗いシーンや、被写体の動きの軌跡などが撮影できます。
たとえば夜景。速いシャッターでは真っ暗になりますが、長くシャッターを開ければちゃんと撮影できます。これが長時間露光の基本。しかしこれに動きが関係すると、とたんに絵が変わります。シャッターを開けているときに被写体が動いてしまい、キレイに写らないことを"被写体ぶれ"といいますが、長時間露光ではこれを逆に利用することもあります。たとえば光の軌跡。夜の道路にカメラを向ければ、走り去るクルマのライトがキレイな線を描いて撮影できます。長時間露光では見慣れた被写体が違って見えたり、見えていたものが消えたりと、不思議な写真が撮れます。ときとして撮影者の予想がつかない絵になることもあります。
キレイな長時間露光写真を撮るポイントは露出です。露光時間を長くすれば良いというものではなく、長すぎると白っぽくなってしまいます。被写体や周囲の光の状態によって効果的な露光時間を選びます。だいたいの目安は、流し撮りが1/60秒程度、夜景が1/2秒以上、天体写真は10秒以上、星の軌跡は1時間以上が必要になります。水の動きは1/250秒以上で止まり、1/10以下~3秒程度で流れた雰囲気になります。
露出を適正にするには、こまめに液晶モニターで確認することです。そのうちだいたいのシャッター速度や露出の予測ができるようになります。再生時にも撮影データが確認できますが、私は何度も確認することが面倒なので、メモをつけながら撮影しています。また、ISO感度に関していえば、ノイズを考慮するとISO200以下が理想だと思います。
シャッター速度1/320秒で、公園の小川を撮影。撮影:浅山実哲 |
シャッター速度5秒で撮影。水の流れが霧のように表現される |
NDフィルターで昼間でも長時間露光
撮影に必要な機材ですが、シャッター速度が長いので三脚が必須です。また、長時間露光は、ノイズリダクションをONにしたり、設定を変えながらの撮影になるのでカット数が多く、バッテリーの消耗も早くなります。"露出が決まったところでバッテリー切れ"という悔しい体験を避けるためにも予備バッテリーは用意しておきたいところ。そのほかに、一般的に一眼レフカメラの設定できる最長シャッター速度は30秒で、それ以上長い時間はバルブ撮影になります。バルブ撮影では、リモートケーブルやリモコンがないと不便です。シャッターボタンを押したときのブレを防ぐにも効果的です。30秒以上の撮影では時計が、夜間撮影ではペンライト(懐中電灯)があると便利です。
また明るい状況下での撮影は、絞りこんでも露出オーバーになることもあります。また、絞り込みすぎると回析現象で像がぼやけたりします。そんな時は色調に影響することなく減光するNDフィルターを使ってみましょう。NDフィルターは減光量の違いでたくさんの種類がありますが、初めて買うときは2、3段程度のものが使いやすいでしょう。もちろん事前に自分のレンズのフィルター径を確認してください。タイトルの噴水の写真は、約3段分の減光が可能なNDフィルターを使用したものです。シャッター速度1秒で撮影していますが、空と紅葉の色はきちんとでています。
必然的に長時間露光になる夜間撮影
夜間の撮影では、マニュアル露出がオススメです。というのも、カメラ任せの露出(プログラムAE、絞り優先AE、シャッター速度優先AEなど)では、カメラが全体を明るくしようと働きますので、夜なのに妙に明るくなったりします。露出補正でも暗くできますが、絞りやシャッター速度が変わってしまうのが難点。それならマニュアルで撮影したほうが結果的にラクチンです。最初はカメラ任せの露出で撮影し、その絞りやシャッター速度を参考にマニュアルで合わせるのが早道です。
三脚を使用したときは、ピントを合わせたいポイントにフォーカスエリアが合わないこともあります。そのときはマニュアルでピントを合わせましょう。そんなに難しいものではありません。
以下は一般的な長時間露光の写真として、「夜景」「花火」「テールランプの軌跡」などを撮影したものです。撮影は浅山実哲。
夜景撮影。撮影スポットを探すことも楽しみのひとつかも。撮影:浅山実哲 |
テールランプの軌跡。流れる光の帯は長時間露光ならではの表現。撮影:浅山実哲 |
花火撮影。花火の色と黒の締まり具合がポイントになる。撮影:浅山実哲 |
光が爆発する露光間ズーム
長時間露光ならではのちょっと不思議な写真にチャレンジしてみました。まずは「露光間ズーム」。これはズームレンズを利用して、シャッターが開いている間にズームを動かす撮影です。ズームレンズを動かすことで像が中心に集まっていく、もしくは、逆に光が爆発しているような写真になります。
これは通常撮影。今が旬のイルミネーション。撮影:浅山実哲 |
露光中にズームを望遠側からワイド側に移動。中心に向かって光りが集まっていく。撮影:浅山実哲 |
長時間で動いている人を消す
日中、長時間露光をすると動いている人が写りづらくなります。うまく撮影すると、日中なのに無人の街という不思議な光景を写すことができます。消えないまでも、動いている人がぼやけ、背景がしっかり写っているという写真ができ上がります。
人が消えるほどのスローシャッターでは、強力なNDフィルターを使うといった工夫が必要になります。完全に人を消すのはけっこう大変で、今回も9段分のNDフィルターを使いましたが、露出を適正にすると人影が少し見えてしまいました。時間帯や構図でも印象や消え具合がかなり変わってくるので、いろいろ試してみてください。
街角での撮影方法例。人の通行の迷惑にならないところで撮ろう |
祝日、16時22分の銀座4丁目交差点。信号待ちしている人の残像が見える。約9段分のNDフィルターを使用 |
新宿アルタ前で撮影。約9段分のNDフィルターを使用 |
新宿野外ステージで撮影。中央茶色い物体は着ぐるみ |
ペンライトや外部ストロボで遊ぶ
夜間、開けたシャッターの前でペンライトを使えば、自分の好みの光の軌跡を描くことができます。イルミネーションやテールランプとはまた違った面白さがあります。LEDライト、電球など描く光源や動かす速度で光の色や濃さも変化します。電灯などの周囲の光を拾ってしまう場所では、NDフィルターがあると便利です。小さなお子さんのお遊びとしてもオススメです。
また、暗い場所でシャッターを開け、外部ストロボを発光すると光が当たった被写体を映し出します。発光ごとに被写体が動くと多重露光のように撮影できます。通常のカメラの設定以外に、ストロボの発光量、置く位置などの調整が必要です。
暖かい格好で楽しんで!
長時間露光は普段見られない光景が撮れるのでとても面白いのですが、他人の目から見るとかなり奇妙な光景に見えるようです。私は、銀座4丁目交差点で撮影していたところ、外国人の観光客に逆に写真を撮られてしまいました(笑)。
長時間露光は、シャッターが開いてから閉じるまでの間、「どんなふうに写ったのだろうか?」とドキドキしながら待つ楽しさがあります。これからの季節、夜間の長時間露光はずいぶん寒くなると思います。暖かい格好で楽しんで下さい。
撮影・協力:浅山実哲
撮影・レポート:加藤真貴子(WINDY Co.)