米国のZ世代以下に「Minecraft」よりも人気のあるゲームをご存知だろうか?
「Fortnite」、今なら「あつまれどうぶつの森」を思い浮かべる人が多いかもしれない。答えは「Roblox (ロブロックス)」だ。
昨年夏にRobloxの月間アクティブユーザー数がMinecraftを上回って1億人を突破した。巣ごもり需要も追い風に現在は1億5000万人に迫っており、「ポケモンGO」の最盛期に肩をならべようとしている。Fortniteの月間アクティブプレイヤー数は2018年夏の7800万人からアップデートされていない。今もプレイヤー数の多いゲームであることに変わりはないが、2019年半ばごろからプレイヤーのFortnite疲れが目立ち始め、Fortniteを離れる実況者も増えるなど伸び悩んでおり、昨年後半以降にRobloxとの差が広がったと見られている。
今年の2月、RobloxはAndreessen Horowitzがけん引する1億5000万ドルのシリーズG資金調達を発表した。Robloxの評価額40億ドル、巨大ユニコーンである。
でも、「Minecraftは知っているけど、Robloxなんて聞いたこともない」という人が少なくないと思う。理由の1つは、Robloxのスクリーンショットを見ていただくとすぐに分かる。「LEGOのようなゲーム」とよく表現されるが、キャラクターが"残念なLEGOフィギュア"みたいなデザインで、明らかに児童向け。実際、Robloxプレイヤーの59%は中学生以下なのだ。ブロックで構成されたシンプルなデザインのMinecraftもキッズプレイヤーが中心だが、RobloxはMinecraft以上に子供にかたよっていて、一般層の興味から外れている。
それはRobloxのアイディアが教育用ソフトから生まれたことに起因する。共同創設者のDavid Baszucki氏はRobloxの前に、Knowledge Revolutionで「Interactive Physics」を開発していた。衝突やてこの作用などを実験できる仮想ラボだったが、子供達はそこで物理実験にとどまらず、車同士を衝突させたり、ビルを倒壊させるなどクリエイティブに遊び始めた。
Robloxはゲームを作って遊べるプラットフォームだ。Roblox Studioというゲーム開発ツールが用意されていて、Robloxで遊べるゲームは全てユーザーが作成したものである。
キャラクターの見た目から想像できるように、Robloxゲームはどれもシンプルだ。「そんなゲームが面白いの?」と思うかもしれない。たしかに大人には物足りないものだが、複雑なルールのゲームについていけない年齢の子供にはシンプルなゲームの方がゲームの面白さを体験できる。
その上で今時のゲーミングプラットフォームとして抜かりはなく、Robloxにはちゃんとソーシャル機能が用意されている。友達をフレンドリストに登録し、同じゲームを一緒に遊べる。ウチの子供は、休校中でもZoomやFaceTimeで通信しながら友達とRobloxで遊んでいる。他の州に引っ越して離れてしまった友達とも、まるで毎週会っているように遊んでいる。
友達との交流の場として遊び続けるプレイヤーがいる一方で、成長して遊ぶ側から作る側に進むユーザーも多い。ただ、ゲームを作る環境は「スーパーマリオメーカー 2」のように簡単に作れて公開できるものではなく、プログラミングの知識も必要になるなど小中学生には難易度高めだ。それでも小学生から大学生まで幅広いユーザーがRobloxゲームの開発やデザインに熱中しているのは、マネタイズの仕組みが組み込まれているからだ。
RobloxではRobuxという通貨でアイテムや特殊能力、アバターのアップグレードなどを購入できる。ゲーム開発者は課金の仕組みをゲームに組み込め、そして集めたRobuxは1Robux=0.0035ドル(100,000Robux=350ドル)で換金できる。成功したら、ティーンエイジャーのアルバイトより大きな収入になる。だからといって、課金にかたよりすぎるとプレイヤーに嫌われる。課金ポイントが多すぎるゲームはユーザー数を伸ばせないし、アップデートされないゲームは次第にリピーターを失っていく。プレイヤーの心をつかむ努力を積み重ねながら、Robloxを通じて子供達はビジネスや起業の感覚を身につけられる。
巣ごもり期間の間、私も子供と一緒にRobloxをプレイしてみたが、クリエイティブ要素がある他のゲームに比べてRobloxはゲーム開発コミュニティの活動が活発だ。ゲーム数は5,000万超と言われている。シンプルだからゲーム開発の代謝が早い。面白いゲーム、プレイヤーに評価されているゲームを参考に、自身のアイディアを加えた新しいゲームが次々に登場する。その結果が5,000万ゲームである。そして児童向けだから、シンプルなゲームでもアイディアが面白かったら子供達はプレイする。ゲーム作りのコミュニティの意欲が高く、ゲームを求めるプレイヤーもいて、2つのバランスがプラス循環を生み出してRobloxは成長している。
Robloxを説明する時によく「Minecraftのような」とか、「LEGOのような」という表現が用いられているが、私はプレイしてみて初期のYouTubeを思い出した。手作りゲームだからプロの作ったコンテンツに比べたら稚拙だし、Marvelのキャラクターを模したデザインやSplatoonのアイディアをコピーしたゲームがあるなど、「それ大丈夫?」と聞きたくなるコンテンツが少なくない。だけど、ユーザー生成コンテンツ (UGC)のダイナミズムで溢れている。YouTubeを運営するGoogleは、昨年にクラウドゲーミング「Stadia」で本格的にゲーム市場に足を踏み入れたが、Microsoftやソニーと競争するより、Robloxを買収して育てる方がGoogleとしては正解なのではないかと私は思った。
オンラインで友達といつでも簡単にゲームで遊べる環境で育ち、ゲームのアイディアをビジネス化できる、Robloxで育った今時の小中学生は一体どんなティーンエイジャーになるのか‥‥。RobloxやFortniteのようなゲームの進化の先に「メタバース」を期待する声もあるが、私はむしろそれらがメタバースへのインキュベータの役割りを果たしていると思う。Robloxで育った世代のものの考え方や感じ方が、ゲームの枠を超えて次世代の仮想と現実、新しい遊びや働き方への変化を後押しする。