Amazonでいま成長している事業というと、多くの人が「クラウド」を挙げるだろう。ところが、堅調な伸びを続けるAmazon Web Services (AWS)を約2年で上回りそうなぐらい爆発的な成長を遂げている事業がある。「広告」だ。

市場調査会社eMarketerが今月初めにアップデートした米Amazonの広告事業の予測によると、2018年の売上高は46億1,000万ドルになる。これは、その時点ですでに急成長が話題になった3月時の予測より約60% (28億9,000万ドル)の引き上げだ。その通りになれば、Amazonは米デジタル広告市場において、Microsoftを抜いて、Google、Facebookに次ぐ第3位になる。このAmazonのデジタル広告の目覚ましい伸びは、今年に入って多くのアナリストのアンテナに触れており、Tomi Kilgore氏は2022年までに年間売上高が160億ドルに達し、「広告事業からの利益がAWSを上回る可能性が極めて高い」と予測している。

Amazonの広告ソリューションには、買い物客の検索キーワードに基づいた検索連動型広告や商品ディスプレイ広告をそろえた「Amazon Marketing Services (AMS)」、Kindle広告やスポンサー広告、ディスプレイ広告を扱う「Amazon Media Group (AMG)」がある。前者はAmazonで商品を販売するビジネス向け、後者は従来の広告スペースの購入に近く、Amazonで商品を販売していないビジネスも、プロダクト探しの場でトップを行くAmazonをマーケティングに利用できる。

今年の伸びの要因を探ると、これまでAmazonを利用してこなかったビジネスやブランドがAmazonでのマーケティングに強い関心を持ち始めたのが大きい。Amazonは広告でAmazonユーザーの体験が損なわれるマイナス循環を避けるために、マーケティング・ソリューションにおいても顧客第一を優先しており、広告支出からの利益を最大限化したいビジネスやブランドの理解を得るのに苦戦する時期が続いた。しかし、2012年にプロダクト広告からのコンバージョン率でAmazonがGoogle Shoppingを上回り、そして昨年デジタル広告事業が10億ドル超の事業に成長し、実績が信頼を生み始めた。

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例えば、Amazon内にブランドストアを立ち上げ、自社サイトからのリンクを張る。Amazonユーザーはブランド・ストアを訪れて商品情報を読み、使い方を解説ビデオで知り、カスタマーレビューもチェックして、そのまま商品の購入に進める。スムースな体験である。顧客第一主義を掲げるAmazonにおいて、Amazonユーザーにとって魅力的な体験になる広告を提供することで、 広告のレレバンシー (関連性)が高まり、クライアントの利益につながる。Amazonの検索やレビューは顧客をブランドに導く効果的なツールという認識が広く浸透し、同社とより深く、Eコマース時代における製販同盟と呼べるようなケースも増えている。

デジタル広告事業の市場拡大と製品・技術への投資にも積極的だ。中でもいま力を入れているのがビデオと音声インタラクションである。オリジナルコンテンツの強化、NFL中継のストリーミング権の獲得などスポーツへの拡大、CNBCのレポートによるとスポンサードコンテンツなど様々なプログラムが進行している。ゲーム実況・プレイ配信のTwitchも強力な広告プラットフォームに成長している。Bloombergによると、広告サポート型のFire TVアプリの計画もある。過去のTVドラマや番組をFire TVユーザーが無料 (または格安)で視聴できるようにし、広告をコンテンツ所有者の新たな収入源とする。

9月のAlexaイベントで、Amazonはスマートスピーカー「Echo」シリーズの新製品やDVRデバイスなど、数多くのハードウェア製品を発表した。ひと月前に、EchoからAmazonで買い物しているユーザーは「期待に反してごく一部」というレポートが話題になった。それなのに、なぜAmazonはEchoの普及に積極的なのか。たとえ買い物に使われなくても、スマートスピーカーは将来の広告プラットフォームとして有望視されているからだ。例えば、Echoユーザーがレシピを調べた時に、Alexaが必要な材料の商品を例に挙げる。音声インタラクションを通じて消費者とブランドを結ぶ最も効果的なプラットフォームという地位を確立することで、その大きな可能性を手に入れられる。DVRボックスにしても、目新しいデバイスではないが、視聴者離れが進む地上波放送のコンテンツを、モバイル機器やFire TVを通じてストリーミング世代の視聴スタイルで楽しめるソリューションをAmazonが提供することによって、コンテンツを広告主に結び付けられる。

米国のデジタル広告市場で3位を争うようになったとはいえ、まだGoogleやFacebookのトップ2に大きく離された3位である。それでもAmazonが注目されるのは、トップ2を上回る成長ペースに加えて、同社が掲げる「ブランド・セーフ」の効果だ。

ソーシャルメディアを通じたマーケティングは、効果的なターゲティングを期待できる一方で、広告主がマーケティングを完全にコントロールすることが難しい。期待以上の成果があれば、予想外のことも起こり得る。例えば、昨年YouTubeで過激主義者や人種差別をあおるビデオに大手企業の広告が付けられ、ブランドイメージの保護を重んじる企業がYouTubeから相次いで撤退した。Amazonは、そうしたリスクを避けたいブランドにとって、効果的なソリューションになるというのが「ブランド・セーフ」だ。昨今のFacebookへの逆風、フェイクニュースやソーシャルメディアに対する不信感の高まりも、Amazonの成長の追い風になっている。

「全てがうまくかみ合っている」のが、今のAmazonの広告事業の飛躍的な成長に現れている。しかも、ただ伸びているのではない。広告が人々にとって有害と見なされる傾向が強まる中で、「顧客第一主義」の体験を掲げながら、それを実現しているのが、Amazonの大きな可能性になっている。