新型コロナ禍の渦の中に飲み込まれて、最近の業界のホットな話題について暫く傍観を決め込んでいた私であるが、今回は最近のCPUをめぐる動きについて書くことにした。そのきっかけは、最近私がスマホをiPhone SEからiPhone SE(第2世代)に買い替えた事である。

私はコアなAppleファンではないが、なぜかスマホはずっとiPhoneである。初代SEはその抜群のコストパフォーマンスから発表当初から品薄で、私も入荷待ちのリストに入れてもらってようやく入手したが、今回のSE(第2世代)は街の店頭で難なく入手できた。私が従来使っていた初代SEの登場は2016年の3月であるから、丸4年SEを使い続けたことになる。しかしこの4年間でその中身は大きく変わった。SE(第2世代)のメインCPUはApple独自設計のA13で、なんと6コアのSoCである。技術の進歩の加速化には今更ながら驚かされる。ちなみにこのコラムはAMDのRyzen CPU搭載のレノボ製のPCで書いている。

  • iPhone

    私が過去に所有したiPhone達、これに新たにSE2が加わる (筆者撮影)

Apple Siliconの衝撃

Appleはオンラインで開催した「WWDC」で、MacのメインCPUを従来のIntel製からApple独自設計のCPUに順次変えていく計画を発表した。

今は亡きSteve JobsがIntelのコア・アーキテクチャを採用した2005年以来の大英断である。「Apple Silicon」と呼ばれるこの計画はCPUを取り巻く環境の急激な変化を象徴している。iPhoneとMacが同じArmアーキテクチャのCPUを使うことはアプリケーションの開発者にとっては大きな意味があるだろう。発表ではAppleのCEO、Tim CookがiPhoneやiPadのユーザーにとっても同種のアプリをMacと共有できる便利さがあると強調している。コストの低減も可能になるという。

MacのCPUの変遷はMotorola 68000→PowerPC→Intel x86➔Apple Siliconということになり、iPhoneやiPad同様、AppleはメインCPUをArmコアによる独自設計のCPUで垂直統合することをはっきりと宣言したことになる。世界最強のコンシューマーブランドの1つであるAppleがシリコン半導体にそのブランドの冠を与えたことは衝撃的だ。自社開発のブランド化こそしないものの、Google、AmazonやFacebookのような他の巨大企業もAI用半導体の独自開発をますます加速させていて、この動きはますます顕著化している。

「横展開」のAMDと「縦展開」のIntel:対照的なライバル

半導体専業メーカーのAMDとIntelも相次いで大きな発表をした。AMDはTSMCとのタッグで、先端の7nmプロセスを用いたZenアーキテクチャによるCPUの増産をしていて、x86 CPU市場でのシェアを飛躍的に伸ばしている。このAMDの市場での実績はデスクトップ、ノートブックPCに限らずサーバー市場でも伸張していて、同一アーキテクチャによるAMDの水平展開は着実に結果が出ている。

AMDはさらに次世代のZen4アーキテクチャを5nmの先端プロセスで2022年に製造するというロードマップも発表している。2次元の究極の微細加工技術をパートナーのTSMCと進めてゆくAMDの動きはまさに「横展開」の成功例である。AMDはCPUのみならずグラフィック市場でもNVIDIAと市場を2分する存在であるが、こちらでも次世代のRDNA2/3アーキテクチャで宿敵NVIDIAを強力に追い上げる。CPUとGPUの両技術を統合したSoCはすでにPS5やXboxシリーズなどのゲームコンソール市場の標準ともなっている。

対するIntelは対照的な動きを見せる。IntelはCPUの設計と製造の両輪を、あくまで自社で完結させようとする垂直統合型モデルを崩さない。10nmプロセスでの躓きを未だに引きずるIntelは、AtomとCoreという異なるCPUアーキテクチャのコンボデバイス「Lakefield」を発表した。"Foveros"と呼ばれるIntel独自開発による3Dチップのパッケージング技術を使用した最初の戦略製品である。

最近人気の韓国ドラマなどでもさりげなく登場するフォールダブル・ディスプレイを使用した携帯デバイスをターゲットとしているようだが、この市場は今後の成長が期待される。その場合、Intelが対峙する競合はPC市場でのAMDだけでなく、Snapdragonで携帯電話市場を支配するQualcommとなる。携帯機器に必須となるもう1つの重要な要素であるモデム技術の肝を握るQualcommの攻略はそう簡単ではないだろう。Qualcommと5Gモデムの供給でよりを戻したAppleは、CPUではApple Siliconという独自路線を発表しているのでIntelにとっては間接的にハイエンドの競合となる。

あくまでも2次元の「横展開」を極めるAMDに対し、Intelは"垂直統合"と"3Dパッケージング"の技術という点では3次元の「縦展開」であると比喩するのはあながちこじつけではない気がする。Intelがこうした技術の結節点で過去に大きく躍進したのを何度も目撃した私としては「お手並み拝見」という気になる。

  • Intel

    Lakefieldを発表したIntelの本社

すべてに関係するTSMCというファクター

ここまで述べた大きな動きのすべてに関係する重要なファクターがTSMCである。表に出るコンシューマーブランドではないために派手には映らないが、ご存じのように実際に世界の最先端半導体製造の根幹を握っているのは、TSMCの最先端プロセスと追従を許さない製造キャパシティーである。

そのTSMCが最近の株主総会で今まで言及したことがない4nmについてその存在を明らかにしたという報道を目にした。その先の3nmの技術も準備しているという。この最先端技術はApple、AMD、NVIDIA、QualcommなどTSMCのユーザーには大きな味方となるが、Intelにとっては大きな脅威となる。

しかし、そんなTSMCにとっての大きな悩みの種はHuwaweiを挟んで顕著化する米中の貿易摩擦問題である。こちらはさすがにTSMCの優秀な技術陣をもってしても解決できない問題であろう。現代国家における国力の重要な要素である半導体技術で突出した存在のTSMCが台湾企業であるゆえに抱える特有の問題であると言える。

以前の半導体業界の勢力地図の主要因は技術革新と製造キャパであったが、サプライチェーン構造が複雑化する現代では他のファクターも重要な変動要因となる。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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