6月10日、IntelはLakefieldことIntel Core Processors with Intel Hybrid Technology2製品を発表したが、これに先立ち6月はじめに、Comet LakeのDatasheet(正式名称は"10th Generation Intel Core Processor Datasheet")を公開した。正確に言えば、このドキュメントのVolume 2は5月に公開されているが、Volume 1が6月まで公開されなかった(*1)。このVolume 1でComet LakeのPL2の値が判明したので、まずはこれをご紹介したいと思う。

Comet LakeのPL1とPL2

さて、そもそもPL1/PL2/PL3/PL4とは何か? という話から。Photo01はそのDatasheetからの抜粋であるが、ちょっと見難い黄色(というか黄土色)がProcessorの消費電力変動である。PL1(Power Limit 1)が、いわゆるTDPとして理解されている消費電力枠であり、通常はこれを超えない様に調整される。

  • 「Comet Lake」と「Lakefield」について新しく深くわかった事

    Photo01: PsysPLはSoCタイプの製品向けで、サウスブリッジ機能を搭載しない製品はPLとなる。

ただし、熱的にゆとりがある(Tcase:ケース温度とTjunction:トランジスタのジャンクション温度がどちらも上限より低い事が必須)場合、一時的にこれを超えて消費電力を引き上げる事が可能である。これがPL2(Power Limit 2)で、ここにあるように概ね100秒程度のタイマー付きである。勿論タイマーの限界までPL2で駆動出来る訳ではなく、この途中で熱的に上限に達したらPL1に強制的に推移することになる。ただこの強制推移までの時間は、当然ながらどんな冷却機構を使っているかで変わってくるが。

PL3とPL4は、一時的にPL2を超えて消費電力を増やすことを許す仕組みであるが、ただし最大でも10ms以下ということで、絶対的な消費電力としてはそれほど大きくはない。ただこのPL3/PL4が有効になった場合、VRMは当然これに追従しないといけないので、更に設計が難しくなりそうだ。ただ現状Coffee LakeやComet LakeでPL3/PL4が有効になっている製品は無く、なのでPL1とPL2のみを考慮すればよい。

ちなみにPL2の最大許容時間を定めているのがPL1 Tauというパラメータである。これは通常秒単位で設定される。

ということで、まずはCoffee Lake世代の第9世代Coreプロセッサはどんな感じになっているのか、が表1である。PL1はTDPそのままであり、PL2はその25%増で一律になっている。またPL1 TauのRecommendedは28秒(Maxは448秒)になっており、あとはBIOS Settingの奥深いところでこのあたりのパラメータをいじらなければ、基本的には30秒弱でPL2は終了し、あとはPL1で動作することになる。

■表1
Core Count TDP Processor Number PL1(W) PL2(W) PL1 Tau(sec)
8core 127W i9-9900KS 127 127*1.25 28
95W i9-9900K
i7-9700K
95 95*1.25 28
65W i9-9900
i7-9700
65 65*1.25 28
35W i9-9900T
i7-9700T
35 35*1.25 28
6core 95W i5-9600K 95 95*1.25 28
65W i5-9600
i5-9500
i5-9400
65 65*1.25 28
35W i5-9600T
i5-9500T
i5-9400T
35 35*1.25 28
4core 91W i3-9350K 91 91*1.25 28
65W i3-9100 65 65*1.25 28
62W i3-9320
i3-9300
62 62*1.25 28
35W i3-9300T
i3-9100T
35 35*1.25 28

ではComet Lakeこと第10世代Coreプロセッサは? というのが表2である。まず倍率変更可能なKシリーズはPL1 Tauが倍の56秒になっており(最大値は同じく448秒)、しかも最大250Wである。ちょっと目を疑ったが、要するに倍だ。もっとも倍率だけで言えば、TDP 35Wの筈のCore i9-10900TなどPL2が123Wで、PL1の3.5倍もの消費電力を許容する。TDP 125Wの製品はそれなりに消費電力が大きい事をユーザーが理解しているからいいが、TDP 65Wの製品ですら、なんと200Wを超えるPL2が設定されている。Comet Lakeの性能アップは、このPL2の設定がその根源にある事が良くわかる。

■表2
Core Count TDP Processor Number PL1(W) PL2(W) PL1 Tau(sec)
10core 125W i9-10900K 125 250 56
65W i9-10900 65 224 28
35W i9-10900T 35 123 28
8core 125W i7-10700K 125 229 56
65W i7-10700 65 224 28
35W i7-10700T 35 92 28
6core 125W i5-10600K 125 182 56
65W i5-10600
i5-10500
i5-10400
65 134 28
35W i5-10600T
i5-10500T
i5-10400T
35 92 28
4core 65W i3-10320
i3-10300
i3-10100
65 90 28
35W i3-10300T
i3-10100T
35 55 28

以前のComet Lakeのベンチマーク記事の中で、TMPGEnc Video Mastering Works 7の消費電力変動のグラフが判りやすいかと思うが、Core i7-10700Kが一番PL1/PL2モデルに近い動きをしている。最初の60秒位までは224.8Wほど消費電力が増加しており、その後は141.8Wに落ちている。Core i9-10900Kはコア数が多い分、少し早めに温度が上がりすぎてしまったためか、40秒ほどでPL1に戻っているが、そこまでの間は平均で230Wちょいまで消費電力が増えており、ほぼPL2のLimitに当たっている感じである。なるほど、Coffee LakeのCore i9-9900Kと全く傾向が異なる訳である。

Comet LakeでPL1 Tauを56秒に増やした理由であるが、ベンチマーク対策が無かったとは言えない。例えばCineBench R20、All CPUの場合はスタートから終了まで1分かからない。ここでPL1 Tauが28秒だと、ベンチマークが完了する前にPL1に落ちてしまうが、56秒ならPL2のまま完走する。あるいは3DMarkのPhysicsやCPU Benchも同じで、大体1分程度だから、PL1 Tauが56秒あれば全部は無理にしても大半をカバーできることになる。

ご存じの様に今年はCOMPUTEXが中止になってしまった。その代わりに、Onlineの形でキーパーソンによるメッセージが公開されたが、IntelのBob Swan CEOは自身のメッセージの中で、"We should see this moment as an opportunity to shift our approach from the benchmark industry to the benefits and impacts of the technology we create"(Photo02)と述べている。「そろそろベンチマークの性能で判断するのではなく、性能がもたらすベネフィットで判断すべきだ」という事だそうだが、Comet LakeのPL1がこのメッセージに反するものでなければよいのだが。

  • Photo02: 動画の4分40秒あたりから。

余談であるが、この250WものPL2を支えるため、IccMAX(プロセッサコアへの最大供給電流)は250Aに達している。なるほどLGA1200のマザーボードがいずれもゴツイVRMを搭載する筈であり、LGA1150のままでは供給電流が足りないから、Socketを変更しないと問題が起きても不思議ではない(Coffee Lake世代のIccMAXは193A)。50Aも流す電流が増えるとなれば、それはLandを増やしてVccとGNDを強化したくなる訳で、LGA1200に変更するのも無理ないところである。

(*1) 実は他にSpecification Updateも6月に公開されている筈なのだが、現時点ではアクセス不能である。