できるだけ広角のレンズを揃えたい

エプソンのR-D1xGを手にしての撮影はやはり街歩きが似合う。かなり無理をすればレンジファインダカメラでもスポーツ写真や鉄道写真、あるいは花の接写も撮れないことはないのだが、そういうものは一眼レフカメラに任せ、特徴である小さなレンズと軽量なボディを生かして気軽に片手に持って街角を歩く方ほうが適しているからだ。デジタル一眼レフカメラにもコンパクトなモデルがあるが、やはりどことなく仰々しく感じるのはそのスタイルのためだろう。R-D1xGは外観がフィルムカメラに近く、また、シャッターをチャージするのにレバーで巻き上げる必要があるため、自然に古くからのカメラ愛好家のような雰囲気に浸ることができる。これは電動巻き上げ式のライカM8にはない特徴だ。

R-D1xGの内蔵ファインダ枠が対応していない焦点距離のレンズを使用する場合にはボディ上部のアクセサリシューにビューファインダを装着する。レンズごとにファインダは異なるため、ズームタイプのものを使用しない限りは、レンズと同じ数のファインダを持ち歩くことになる。慣れるとノーファインダで撮ることもできるし、撮影後にクイックプレビューでフレーミングを確認してから撮り直すという割り切りができればファインダがなくても撮影が可能だ

レンジファインダカメラは基本的にズームレンズが使用できないため、持ち歩くレンズの選択がそのまま撮影できる写真と深く関わってくる。しかもバヨネット式のMマウントレンズはデジタル一眼レフカメラと同様に短時間で交換可能だが、ネジ込み式のLマウントレンズはアダプタを使わないとR-D1xGに装着できない上にネジ山を傷めないように慎重に交換する必要があるためそれなりに時間がかかってしまい、撮影素子へのゴミの付着のリスクも考えるとそうそう取り替えるわけにもいかない。また、R-D1xGの内蔵ファインダは視野枠の焦点距離が、28mm、35mm、50mmと決まっており、これ以外のレンズを使用する場合には外付けのビューファインダを装着するか、用意されている視野枠を利用して「これぐらいかな」と勘で撮影しなくてはならない。

LマウントレンズをR-D1xGに装着するにはアダプタが必要だ。例えば、現在でもLマウントレンズを発売しているコシナからは「M-Bayonet ADAPTER RING Type-II」というアダプタが発売されており、35/135mm、50/75mm、28/90mmの3種類が各5,000円で用意されている

前回も説明したが、APS-Cサイズの撮影素子を持つR-D1xGの場合、レンズの焦点距離は35mmフィルム換算で約1.5倍になる。したがって、内蔵フィンダ枠は35mmフィルム換算でいえばそれぞれ42mm、52mm、75mmに相当する。つまり、フィルムの時代の「50mm標準レンズ」は、R-D1xGでは35mmレンズに相当する。逆に28mmや35mm相当の広角レンズが欲しい場合には、18mm、23mmといった超広角のレンズになってしまう。35mmであればライカ伝統の標準的な広角レンズであり、他のレンズメーカーも含めてオールドレンズから現行品まで選択肢は広いが、超広角のライカ製レンズはM8向けの製品として18mmや21mmが発売はされてはいるが、実売で30万円前後から66万円前後もするため、価格面から考えるとコシナのフォクトレンダーやカールツァイスが現実的だ。例えば、フォクトレンダーULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical(ブラック/Lマウント)ならビューファインダ付で10万8,000円、SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Aspherical II(VMマウント)は6万5,000円、カールツァイスDistagon T* 4/18 ZM(ZMマウント)は13万9,000円だ。それでも高価ではあるが、R-D1xGとライカM8しかボディが存在しないライカMマウントの市場規模ではデジタル一眼レフのように手頃な価格の超広角レンズが発売されるのは期待薄といえよう。

ちなみに、外付けのビューファインダは当然ながら画角が異なるため、フィルム用のものはそのまま利用することができない。例えば、一部のフォクトレンダー製品にはビューファインダが付属するものがあるがフィルム用のためR-D1xGでは視野が広すぎるため、1.5倍に換算した焦点距離のものが必要となる。12mmのレンズなら28mmレンズ用、18mmのレンズなら28mmレンズ用のビューファインダを別途購入しなくてはならない。初代R-D1が発売された頃はデジタル用として1.5倍相当のビューファインダがコシナから別売りされていたが、現在はコシナの製品ラインナップから消えており、流通在庫か中古を探すことになるため、新たにR-D1xGを手にした人は若干苦労する可能性がある。しかし、コシナからR-D1用の1.5倍、M8用の1.3倍の換算目盛りつきで15mmから35mmまでをカバーしたズーム式実像式ビューファインダ「15-35mm ZOOM FINDER」が5万5,000円で6月に発売されているので、レンズごとにファインダを付け替えることを考えると少々高価だがこちらを利用するという手もある。

かつてコシナから発売されていた15mmレンズ用のビューファインダとフォクトレンダーSUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Aspherical(Lマウント)に付属しているビューファインダ。R-D1xで使用する場合、画角が狭くなるため「D」の刻印のあるデジタル専用のものが別売りされていた。ライカM8の場合は1.3倍のため焦点距離が異なり使用できないので事実上、R-D1専用だ。SUPER WIDE-HELIAR 15mmはLマウントのタイプとVMマウントのIIというタイプが併売されており、ビューファインダが付属するのはLマウントのタイプだ

北千住を歩く

今回は、フォクトレンダーのCOLOR SKOPAR 21mm F4を装着して北千住へ。北千住は日光街道の宿場町で、戦災に遭ってはいるものの旧街道筋に江戸時代の建物が散在し、また昭和初期の建物、高度経済成長期以前の街並みも残っている。あまり広くない道、こういった街につきものの路地を歩きながらの撮影となると広い画角の確保のために換算で35mmより短いレンズが欲しい。また、大きな建物を撮影するときには必要に応じてさらに短いレンズを使う必要もでてくる。いずれにしても28mmよりも広いレンズではR-D1xGのレンジファインダが使えないため、ビューファインダを付けることになるが、速写ケースの上蓋が使えなくなる以外はそれほど違和感はないだろう。ただ、ビューファインダではピント調整ができないため、レンジファインダで距離を合わせてからビューファインダを覗くか、あるいは目測で合わせることになる。ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Asphericalのように被写界深度が深いためにピント合わせの必要がほとんどなく距離計とも連動しないレンズが発売されているのもレンジファインダカメラの一つの特徴といえよう。

宿場町通りにある有名な団子屋「槍かけ団子」。昭和27年の創業だが、建物自体は明治40年のものという。旧街道沿いとなる、この周辺には旧街道の古い建物が残っている

昭和初期の代表的なオフィス建築を今に残すビルが国道4号から入ったところに残されている。昭和4年竣工の旧千住郵便局電話事務室だ(現在はNTT)。町中の交通量のある道路で後ろに下がれないため21mmでは全景を撮影できず(写真左)フォクトレンダーSUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Asphericalにレンズを交換して撮影(写真右)

往時のテレビドラマ、金八先生にもでてくる荒川の河川敷。晴れているのに暗雲が立ちこめる変な天気だった。雲を強調するため、Photomatixで軽くHDR処理をかけてあるが、処理前の写真でも十分に当日の雰囲気は感じられた

宿場町通り、槍かけ団子の手前にある江戸時代の建築「横山家」。旧街道沿いもほとのんどがビルに建て変わっているが、江戸時代の商家の典型的な出桁造りを今に残す建物も散在する

昭和15年頃の建物といわれる牛乳屋。昭和初期のモダンな建物が現役で利用されている。江戸時代の建物から昭和、平成のものまで気になる建物が散在しているのが古い宿場町を散策する楽しみだ。左の丸塔は牛乳瓶をモチーフにしているのだろうか

昭和4年の建築という破風造りの立派な銭湯。台東区から足立区にかけて残る古い銭湯の中でも随一の大きさと知名度を誇る「大黒湯」。千鳥破風と唐破風の下には大黒様の彫り物もある

北千住駅前のアーケードの途中にある大正ロマンあふれる医院「大橋眼科」。現役で診療中。実際には昭和後期に、大正からの建物を建て直すにあたって都内の旧建築物から集めた資材で建てたものというが、エッセンスをうまく集めてあり、とても懐かしく美しい建物だ