半導体産業の成長とEMS

成長の歩みを止めない半導体産業。2017年には史上初めて4000億ドルを越す市場へと成長したことも話題となった。その影響からここ数年は特に、半導体関連装置を生産している製造業各社の動きが活発化している。そうした流れにあわせて、市場を拡大しているのが電子機器の受託生産を行うEMS事業である。

EMSとはelectronics manufacturing serviceの略で、OEMやODMとは異なり、自社製品を持たずにメーカーから受注した電子機器の受託生産を専門に行うサービス。これは「独自性の高い製品や付加価値の高い製品を開発するために、開発にリソースを割きたい」「できるだけコストを抑え、高品質なものを製造したい」といったメーカーの要求を叶えるものであり、工場のIoT化・自動化や、自動運転車の開発、スマートフォンの高度化などの影響で電子機器の製造量が増加している昨今、その引き合いは多い。

そんなEMS事業を今後の収益の柱としていくために注力している企業の1つが、OKIグループだ。そこで今回は、2018年4月よりOKIのEMSグループへと編入したばかりのOKI テクノパワーシステムズに、同社のEMS事業の現状、および今後の戦略についての話を聞いた。

  • OKIテクノパワーシステムズ

    OKIテクノパワーシステムズ 外観。(福島県福島市笹木野)

電源メーカーとして47年 - 「地産地消」で安くて良いものを

OKIテクノパワーシステムズは、産業用カスタム電源の開発・設計、製造、販売を行う、福島県の電源メーカーだ。同社の丹治典久 常務取締役は「1944年、沖電気工業の疎開先として福島工場で航空機無線機の製造を開始したのが始まり。1971年よりスイッチング電源の開発・製造を開始し、そこから電源メーカーとしての歩みが始まった」と語る。

  • OKIテクノパワーシステムズ 佐藤浩 代表取締役社長

    OKIテクノパワーシステムズの佐藤浩 代表取締役社長

  • OKIテクノパワーシステムズ 丹治典久 常務取締役

    丹治典久 常務取締役

同社が取り扱うのは、OKIグループ向けのATM、プリンタ、PBX(電話回線交換機)などといった電源装置。また社外顧客にも、ATM、半導体製造装置、FA用PC、ロボットコントローラ……などといった幅広い業界に向け、ニーズに合わせたカスタム電源装置を提供している。

  • OKIテクノパワーシステムズ 製品事例

    OKIテクノパワーシステムズの製品事例(OKIグループ向け製品)

  • OKI テクノパワーシステムズ

    OKIグループ以外の顧客向けに開発した電源装置事例。最近は半導体装置やFA関連での引き合いが多いという

製造拠点は福島と中国・深センの2か所となる。「地産地消」をキーワードに、海外に工場を持っている顧客(中国、タイ、マレーシアなど)には海外で生産して供給しているのだという。

佐藤浩 代表取締役社長は、「品質は国内も海外も変わらない。国内で”品質が高いものをつくれる”は当たり前。反対に、中国で”安く作れる”のは当たり前。これを、どちらの拠点でも”安くていい物”をつくれるように2つの拠点同士、切磋琢磨し合える関係性でやっている」と説明する。

  • OKIテクノパワーシステムズ 製造拠点

    OKIテクノパワーシステムズの製造拠点。福島を本社とし、中国深セン市にも製造拠点をもつ

  • OKIテクノパワーシステムズ

    国内製造は74%。国内では「中国と同等の価格での生産」、海外では「日本と同等の品質」の実現を目指しているという。ちなみに販売先はすべて日本企業であるとのこと

「OKIグループへの依存」からの脱却を図って

以前、同じくOKIのグループ会社である新潟のOKIプリンティングサーキットを取材した際にも「OKIグループへの販売だけに頼るのではなく、外販に力を入れている」と聞いたが、それはOKIテクノパワーシステムズにおいても同様だそうだ。

「私が社長に就任した当時(2011年)、当社の売り上げの多くを占めていたのは、OKIグループ向け製品とアミューズ機器であった。特段業績が悪かったというわけではなかったが、その2つの販売に依存してしまうと、受注が滞った際にどうすることもできないと思い、外顧客向けへのカスタム電源を販売を伸ばすことを目指して、事業構造の変革を実施した」と佐藤社長は語る。

聞くと外顧客向けへと舵を切った2012年以降、売り上げは年率10% 以上成長しつづけたという。そして2017年時点では、2012年の売り上げと比べ2.5倍にまで拡大させることに成功した。

  • OKIテクノパワーシステムズ

    OKIグループ外の顧客向け電源の伸びと事業構造変革。OKIグループの製品と、アミューズ向け製品の売り上げに依存している体系から脱却を図るため、事業構造改革を行った結果、2018年現在、OKIグループ外での売り上げが全体の約7割ほどにまで成長した

しかし、OKI以外の顧客に向けた販売へと舵を切ってわずか数年で、なぜそこまで売り上げを伸ばすことが出来たのか? その要因となった事業構造改革とはどのようなものなのか? それは、”販売員に限らない”社員全員の「意識改革」を目指して行われたものだった。

次回【社長も生産ラインに配属? 全社員でつくる、「日々進化する工場」】は6月25日に掲載予定です。