パナソニックグループは、「サステナビリティデータブック2024」を、2024年8月30日に発行した。同社が打ち出した2024年度の環境目標に対して、前倒しで進展している項目が複数あることが示された一方、CO2削減量の算定対象製品を拡大したことで、計画に大きく未達となる指標もあった。また、「削減貢献量」の標準化や可視化に向けた取り組みを引き続き推進していることも強調した。
パナソニックグループでは、グループ全体でのサステナビリティ経営を推進、強化するために、2024年4月に、サステナビリティ経営強化プロジェクトをスタート。4人の専任者のほか、サステナビリティに関連する組織と位置づけられる品質・環境本部、ソーシャルサステナビリティ部、経理・財務・IR部門、コーポレート法務部、グローバル調達本部、経営企画グループの責任者クラスが兼務で参加。さらに、楠見雄規グループCEOが委員長を務めるサステナビリティ経営委員会と連携しながら、サステナビリティ経営に関する方針や戦略の策定、外部への情報発信、外部機関との情報交換などを行っている。
サステナビリティデータブックもその活動のひとつで、サステナビリティ関連発信の中核媒体として、全体戦略やESGの各要素までを網羅しているという。
パナソニック ホールディングス 経営戦略部門サステナビリティ経営担当兼サステナビリティ経営強化プロジェクトリーダー 上席主幹の奥長秀介氏は、「今年のサステナビリティデータブックでは、最新情報へのアップデートとともに、全体戦略および環境戦略について、見直しと拡充を行っている。地球環境をはじめとする社会課題に対して正面から向き合い、その解決に取り組み、持続可能な社会への貢献を果たし、結果として持続的な企業価値の向上を図るという基本姿勢を改めて明示した。また、ステークホルダーの関心ごとに応えられるように内容の見直しを行った。各マテリアリティのKPIの記載を拡充している点も新たな内容といえる」と述べている。
製品戦略にも及ぶ長期環境ビジョン
パナソニックグループでは、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げ、自社でのCO2排出量削減に加え、社会におけるCO2削減貢献量の拡大を目指した事業活動に取り組んでいる。
その実現に向けた環境行動計画と位置づけているのが、「GIP(グリーンインパクトプラン)2024」である。GIP 2024は、2024年度を最終年度とする3カ年の計画で、「OWN IMPACT」として、2024年度までに、自社バリューチェーンでのCO2削減量を1634万トン、「CONTRIBUTION IMPACT」として、社会へのCO2削減貢献量で3830万トンを目指す。なかでも、OWN IMPACTでは、スコープ1および2で、CO2ゼロ工場を37工場に拡大。スコープ3では顧客の製品使用におけるCO2削減量として1608万トンを想定している。また、資源/CE(サーキュラエコノミー)への取り組みでは、工場廃棄物のリサイクル率で99%以上、2024年度までの3年間での再生樹脂の使用量を9万トン、CE型事業モデルおよび製品では13事業での対応を目指している。
「サステナビリティデータブック2024」は、2023年度までのGIP 2024の進捗をまとめており、その成果についても説明した。
OWN IMPACTは、スコープ1および2で、CO2ゼロ工場が計画を上回る44工場となり、全体で60万トンのCO2削減を達成したという。乾電池の生産を行う大阪府貝塚市の二色の浜工場では屋上全面に太陽光パネルを設置し、約2MWを発電。PPA契約により年間約1000トンのCO2削減を実現し、CO2排出量実質ゼロを達成している。新エネ大賞の最高位である経済産業大臣賞を受賞した。今後は、純水素燃料電池や蓄電システムを導入する予定だ。
このように、パナソニックグループでは、省エネと再エネの導入を積極化しており、2027年度には86工場、2030年度には全工場を、CO2ゼロ工場にする計画を打ち出している。
だが、スコープ3では、1901万トンの排出増というマイナスの結果になった。これは、2023年に、新たに可視化ができた製品やサービスを対象に追加したことで、算定範囲を拡大し、総量が増加したことが原因だ。具体的には、サイネージや溶接機などを追加している。2022年度にも冷凍機、ショーケース、ヒートポンプ給湯暖房機、送風機、吸収式冷凍機を新たな対象に加えている。これらを除いた当初の対象範囲で比較すると1208万トンの削減となっている。「社会への責務として、算定の精緻化を継続しており、随時見直しを図っていく。今後も、一部の中間材などが新たな対象になったり、新たに創出した商品やサービスが加わったりする可能性がある」とした。
また、資源/CEでは、2023年度実績で工場廃棄物のリサイクル率が99.3%、CE型事業モデルおよび製品が13事業となり、2024年度目標を前倒しで達成。しかし、再生樹脂の使用量は2年間合計で2万9600トンとなり、進捗率は33%に留まっている。2024年度での挽回を目指すという。
CE型事業としては、洗濯機や冷蔵庫やテレビなどのリファービッシュ事業を新たに開始した。「Panasonic Factory Refresh」と呼ぶ同サービスは、サブスクリプションサービスの契約終了後の製品や、初期不良品、店頭展示の戻り品などを対象に、製造拠点やサービス拠点で再生し、1年間のメーカー保証を付けて、同社のECサイト「Panasonic Store Plus」を通じて販売。購入方法としてサブスクリプションも選択できる。
そのほか、コードレススティック掃除機に再生樹脂を採用し、製品全体の40%にまで高めた商品があるほか、タイでは、電池回収リサイクルプロジェクトを開始し、セブン-イレブンの店舗を通じて使用済み乾電池を回収して、乾電池から取り出した鉄のリサイクルを開始しているという。
CO2削減は重要指標、電機の技術で貢献
一方、パナソニックグループでは、「CO2削減貢献量」を重要な指標のひとつに位置づけており、これを広く認知させるための活動を行っている。
パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部環境経営推進部長の園田圭一郎氏は、「脱炭素社会の実現に向けて、パナソニックグループでは、リスクへの対応と機会への対応の両面に注目している。『リスク』では、様々な取り仕組みを通じた自社バリューチェーンでのCO2排出量削減により、ネガティブな影響を緩和することに取り組んでいる。ここでは、国際的基準であるGHGプロトコルが広く活用されている。一方、『機会』は、製品やサービスを通じた社会全体脱炭素化への取り組みを指し、企業活動を通じて、環境に対してポジティブな影響を拡大することになる。ここではエネルギー効率が高い製品の開発、再生可能エネルギーの導入促進などが該当する。だが、これを推し量るための削減貢献量という概念は存在するが、統一された基準がなく、社会的認知も低い」と指摘する。
削減貢献量とは、製品やサービスを導入しなかった場合と導入した場合の差分や、導入しなければ発生していたCO2排出を回避した際の差分を算出するものだ。また、削減貢献量はCO2排出量削減とは異なるものであり、削減貢献量はCO2排出量を相殺するものではないと定義。まったく別の指標に位置づけている。
たとえば、EV向けのバッテリーを生産した場合、需要の増大にあわせて生産量が増加すれば、結果としてCO2排出量は増加することになる。だが、これによって、EVが普及すれば、EVが導入されずにガソリン車ばかりの状況と比較して、CO2の排出は大きく削減できる。単純にいえば、この差分を削減貢献量として算出することになる。
パナソニックグループでは、2023年度には、CO2削減貢献量が3697万トンに達したと算定している。2020年度の2347万トンから大幅に増加しているが、太陽光発電システム、店舗用コントローラなど、多くのソリューション導入と、算定の精緻化が進展してことで可視化できる範囲が増加。対象製品が2020年度の28製品から、2023年度は56製品に増加したことも影響している。2024年度には3830万トンの削減貢献量を見込んでいる。
パナソニックグループでは、削減貢献量を、「電化」、「置き換え」、「ソリューション」、「その他」の4つの貢献タイプに分類している。
電化は、車載用円筒形リチウムイオン電池、ヒートポンプ式給湯暖房 (A2W)、電動アシスト自転車、ヒートポンプ式 給湯(エコキュート)が対象となり、これら4事業で、2023年度は1480万トンの削減貢献量があった。
「置き換え」では、従来製品と同じ効能を持ちながら、省エネ性能を向上した製品の普及による貢献となり、家庭用エアコンやLED照明、冷蔵庫や洗濯乾燥機、液晶テレビ、ドイヤーなどの製品が対象になる。38事業で1072万トンの削減貢献量となった。
「ソリューション」では、熱交換気システムや天井扇、HEMS、、照明の制御、店舗コントローラが対象となり、住宅の熱ロスの減少、空間のエネルギー効率の向上、機器の監視制御などでの貢献があると算定。5事業で227万トンの削減貢献量に達している。
「その他」では、太陽光発電システム、燃料電池、創蓄連携システムなど9事業が対象で、919万トンの削減貢献量となっている。真空断熱ガラスによる断熱効果や、宅配ボックスによる再配達の削減による貢献なども含まれる。
パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部環境経営推進部長の園田圭一郎氏は、「削減貢献量が、企業活動を適切に評価するモノサシとして認知されることで、脱炭素社会の実現を加速することを目指している。同じ思いを持つ企業や金融機関などとともに、グローバルな削減貢献量の意義を広めることに注力している」という。
2023年度は、G7での札幌大臣会合や広島首脳会合での議論、東京GXウイークへの参加、ドバイで開催したCOP28のJapan Pavilionでの訴求といったように、各種国際イベントを通じて、削減貢献量の認知活動を推進。さらに、IEC(国際電気標準会議)、経産省GXリーグなどを通じた国際標準化にも取り組み、ガイダンスやルールの作成に関わってきた。具体的には、製品分野ごとの削減貢献量の算定ルール標準化に向けた開示に取り組み、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)やGXリーグのガイダンスに準拠かる形で、6つの事業領域における代表事例を「サステナビリティデータブック2024」で自主開示。また、電気電子分野のルール化に向けて、IECと国際規格化を推進しているという。「IECでは、早ければ2024年度にも規格化される可能性がある。削減貢献量を、業界基準としての透明性を高めながら、信頼性のある情報を提供していきたい」(パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部長の楠本正治氏)とした。
この1年の成果として、「金融機関が発行する金融レポートで、企業を評価する指標として、削減貢献量の概念が多く使われ始めている」(パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部環境経営推進部長の園田圭一郎氏)と指摘。また、G7広島首脳会合では、脱炭素ソリューションを通じ他の事業者の排出削減に貢献するイノベーションを促すための民間事業者の取り組みを奨励および促進することが、成果文書に明記されたことも示した。