パナソニックは、滋賀県草津市の実証施設「H2 KIBOU FIELD」において、パナソニック エレクトリックワークス社の純水素型燃料電池と、パナソニック空質空調社の、吸収式冷凍機(空調機)の熱連携による新たな実証実験を開始した。

H2 KIBOU FIELDは、世界初のRE100(Renewable Energy 100%)ソリューション実証サイトとして、2022年から運用を開始。太陽電池と蓄電池、純水素型燃料電池をEMS(エネルギーマネジメントシステム)による最適制御を行う「3電池連携」により、天候変動や需要変化に追随した形で最適なエネルギー供給を実現。草津拠点内の燃料電池工場で使用する電力を再生可能エネルギーで賄うことを目指している。過去2年間で900件の見学があったという。

  • パナソニック、水素で工場電力を賄う新たな実証実験 - 純水素型燃料電池の"熱"活用

    滋賀県草津市の実証施設「H2 KIBOU FIELD」に設置された機器

今回の実証実験では、エネルギーと空調の領域における2つの同社環境配慮型製品を、独自技術によって連携。単独の事業や製品だけでは実現できない社会的な価値を創出し、脱炭素社会への貢献を目指すのが狙いだという。コージェネレーション(熱電併給)によるエネルギー効率向上や、既設空調の消費電力の低減を図れるという。

具体的には、純水素型燃料電池の発電時に発生する熱を、吸収式冷凍機の熱源として活用。吸収式冷凍機から出てくる冷水を利活用することになる。

  • 右側が純水素型燃料電池、左側が吸収式冷凍機

H2 KIBOU FIELD内では、出湯温度の改良を施した5kWの純水素型燃料電池10台を用いるとともに、新たに開発した低温廃熱利用型吸収式冷凍機を1台設置。施設内の管理棟における冷暖房に利用する実証実験を行う。

実証実験を通じて、燃料電池のコージェネレーションによるエネルギー効率の向上と、冷暖房設備としての消費電力低減を図り、熱連携ソリューションの市場性や有効性についても検証する。

まずは1年間を通じて、四季の変化に対応した稼働実績を確認。省エネ効果は年間で50%減を目指すという。

純水素型燃料電池は、水素と大気中の酸素を取り込み、電気化学反応を起こすことで、電気と熱を生成する。一方、吸収式冷凍機は、熱を利用して熱交換を行い、冷水を作ることができる。この2つを組み合わせることで、新たな用途提案ができるのだが、これまでの製品では、純水素型燃料電池から回収できる熱が最高60℃であるのに対して、吸収式冷凍機に必要な熱源は最低80℃であり、20℃の乖離があり、純水素型燃料電池が発電時に発生する熱を、吸収式冷凍機の熱源として活用することが困難だった。

  • 純水素型燃料電池

  • 吸収式冷凍機

新たな取り組みでは、純水素型燃料電池と吸収式冷凍機双方で温度差を10℃ずつ歩み寄る改良を施し、70℃の熱で、燃料電池と空調機をつなぐ新たな連携を可能にした。純水素型燃料電池では、10℃引き上げた70℃の温水を吸収式冷凍機に入水。吸収式冷凍機で熱交換により作られた冷水を、業務エアコンの室外機に送り、管理棟の室内機に冷たい空気を送ることなる。

純水素型燃料電池は、水素と空気中の酸素を、発電部であるスタックに供給し、電気化学反応で電気と熱を発生。電気は工場で利用する一方で、熱は熱交換システムにより、温水として取り出すことができる。

パナソニック エレクトリックワークス社電材&くらしエネルギー事業部環境エネルギーBU 燃料電池・水素SBU 燃料電池技術部部長の龍井洋氏は、「燃料電池に供給する水素と空気は、耐久性を高めるために相対湿度100%で供給する必要がある。だが、高温化すると湿度は65%まで落ちてしまう。加湿の構成を見直すことで、100%の湿度で空気を供給できるようにした。また、新たに開発したメソポーラスカーボン(MPC)触媒を採用することで、従来比2倍の活性が可能となり、触媒のポテンシャルを向上させることで、耐久性を高めた」という。

  • パナソニック エレクトリックワークス社電材&くらしエネルギー事業部環境エネルギーBU 燃料電池・水素SBU 燃料電池技術部部長の龍井洋氏

さらに、「燃料電池から排出するお湯の温度をあげると、熱回収効率が減少するが、70℃に引き上げることで減少する部分を、熱回収構造の刷新によって改善した。従来は、空気が加湿器を介してスタックに供給されて、熱が機器の外に排出される仕組みだったが、回収した熱を使って、機器の外に出す水を加熱。エネルギー効率を向上し、10℃の上昇を実現した」としている。

一方、吸収式冷凍機では、打ち水と同じ原理で、水が蒸発する際に熱を奪う特性を利用。打ち水効果を連続的に発生させるために、吸収液が水蒸気を吸収し、連続的な冷水の生成を可能にしている。だが、吸収液は水蒸気を吸収すると徐々な薄まり、吸収力が弱まるという特性がある。もとの濃度に戻すために熱を使うことになるが、今回は、この部分を純水素型燃料電池の熱を使用することになる。

パナソニック 空質空調社設備ソリューションズ事業部設備ソリューションズ開発センター吸収式開発部部長の田村朋一郎氏は、「吸収液が入ったタンクのなかに伝熱管が配置され、温水が流れて、吸収液を加熱濃縮するが、この仕組みでは、吸収液の温度は原理的に55℃までに到達しない。今回の技術では、伝熱管の上段から下段に向けて滴下する方式を採用。吸収液の温度が徐々に上昇し、最下段では70℃の温水と熱交換することで、より高温に加熱濃縮ができるようになり、この部分で5℃の低減効果を実現した」という。

  • パナソニック 空質空調社設備ソリューションズ事業部設備ソリューションズ開発センター吸収式開発部部長の田村朋一郎氏

また、「従来は、濃縮と吸収が同一の空間で行われており、圧力は冷水の出口温度の飽和温度になっていた。吸収は圧力が高いほど促進される。今回の技術では空間を2つにわけて、段階的に蒸発吸収ができるようにした。下部空間が19℃の飽和圧力になり、3℃上昇。吸収促進に貢献している。温水温度に直すと5℃の効果がある」とした。

この2つの技術によって、10℃の低温化を実現しているという。

さらに、吸収式冷凍機で生成した冷水を、セントラル空調に活用するのではなく、個別の業務エアコンに使用するという点も、今回の実証実験の特徴のひとつとなっている。

  • 管理棟におけるエアコンに利用する

16℃で供給される冷水を使用することで、室外機の温度を大幅に低減。夏場の定格条件では効率化が3倍、年間では2倍の効率向上を見込んでいるという。個別の業務エアコンへの供給では、配管の仕組みによって、温度があがってしまうことが想定されるが、こうした課題にも対応する。

この結果、熱利用の新たな形が実現し、水素を利用したエネルギーの効率化を達成。燃料電池単体でのエネルギー効率は56%に留まっていたが、燃料電池の温水も利用することで、エネルギー効率を95%に引き上げることを目指すという。

パナソニック グローバル環境事業開発センター水素事業企画室主幹の山田剛氏は、「パソナニックグループが目指す分散電源による姿を実現するために、まずはRE化を皮切りに、ビルや施設などの産業向けのRE化、地域全体のRE化へと広げ、人や社会、地球を健やかにすることになる。このビジョンを具現化する取り組みのひとつがH2 KIBOU FIELDとなる」とし、「純水素燃料電池を利用する意義のひとつに、コージェネレーションがあり、ここへの関心が高まっている。熱を有効活用することで、顧客価値を向上したいと考えている。今回は70℃を接続点としたが、実証実験を進めるなかで、アップデートすべき点を探っていく。燃料電池の温水を冷房に利用するだけでなく、工場に点在する低温廃熱を集めて冷房に利用できるほか、燃料電池の温水を直接利用することで、機械洗浄や食品低温殺菌にも活用できると見ている」とした。

  • パナソニック グローバル環境事業開発センター水素事業企画室主幹の山田剛氏