パナソニック ホールディングス技術部門マニュファクチュアリングイノベーション本部と、パナソニック デザイン本部は、2023年10月14日~22日、京都市東山区の両足院において、技術者とデザイナーがサーキュラーエコノミーを考えるイベント「→使い続ける展」を開催する。
名称の「→」の部分には、今回のテーマである「使い続ける」ことが、「使い捨て」からの変化であるとの意味を込めており、メーカーも、ユーザーも、使い捨て文化から使い続ける文化に発想を変えるきっかけとする展示会であることを示したという。
パナソニック デザイン本部トランスフォーメーションデザインセンターの山本達郎氏は、「デザイナーと技術者が考えたモデルを、社内外を含む、様々なお客様に見て、感じて、一緒に考えるきっかけにしたい。循環型社会は、メーカーだけでは成しえない。共感や批判をもらいながら、社会共創を目指したい」と、今回の展示会の狙いを語った。
展示会では、3つのプロトタイプを展示することになる。いずれもパナソニック デザイン本部が考案したものであり、商品化を前提としたものではない。
ひとつめは、剃り味抜群がずっと続く「Custom Shaver」だ。
自分にぴったりの刃を選択でき、半年に1回、新しい刃やバッテリーが届く。その際に回収した刃やバッテリーは、工場で再生されてピカピカにし、再利用されるという循環を実現する。
2つめは、まるごと買い替えなくていいスティッククリーナーの「Modular Cleaner」である。壊れた部分や欲しいアタッチメントだけを購入し、付け替えることができる仕組みとしている。掃除機の基本となるモーターと電池をベースにして、組み合わせてによって、様々なタスクがこなせるような使い勝手を提案するという。
3つめは、ライフステージによって、必要なときだけ借りる小型洗濯機の「Subscription Washer」だ。配管不要で、自分で組み立てて、生活空間に簡単に設置できる洗濯機であり、一人暮らしでの簡単に利用だけでなく、必要な時だけ借りるという使い方を同時に提案する。子供が生まれたときに、少量の洗濯物をこまめに洗いたい、あるいは一時的に寝室に近い場所に洗濯機を設置したいという場合に、一時的に利用できる。不要になったら返却し、返却された製品は、パナソニックが責任をもって洗浄、検査、組み立て直しを行い、再びサブスクリプションモデルで提供することになる。
さらに、家電がグループチャットになる「Chat Appliance」も提案した。
複数の家電とスマホがつながり、日常的なおしゃべりや、それぞれの運転状況を知らせたり、修理や点検が必要になれば、それを家電がつぶやくという仕組みだ。故障すると画面に番号などが表示され、それを説明書で確認して、故障内容を確認するのではなく、家電が「最近調子が悪いんだけど」とつぶやくことで、親近感を持って長く使ってもらえるようになることを期待しているという。
また、すでに製品化している取り組みとして、プラスチックに代わるサステナブル素材であるセルロースエコマテリアルである「kinari(キナリ)」も展示する。
パナソニックの山本氏は、「今回の展示会を開催する背景には、社会、企業、人の3つの視点がある」と説明する。
社会の視点では、自然の回復力や生産力を上回るスピードで地球の資源が消費される一方、資源の循環率が低く、資源の大部分が再利用されずに廃棄されていることを指摘。企業の視点では、パナソニックグループが、モノと電気を使って事業を行う会社であり、資源についても取り組むべき課題であると認識している点を示した。そして、人の視点では、気に入ったものだけを購入し、一生修理しながら使い続けたいという声があるなど、環境に貢献する動きがあるものの、新たに購入した方が安いという状況にあることを示しながら、「展示会を通じて、使い捨てのリニア型から、使い続けるサーキュラ型にパラダイムシフトすることや、最初から分解しやすい機構設計やトータルデザインを行うこと、循環型が自分のライフスタイルに良いという価値観や文化の醸成につなげたい」とする。
今回の展示会は、京都市東山区の両足院で開催することになるが、その理由として、パナソニックの山本氏は、「京都は、神社仏閣が多く、サーキュラーエコノミーを考えるには最適な場所であること、伝統文化と革新が融合する場所であること、パナソニックのデザイン拠点が京都にあることが理由。また、日本国内のお寺の数は、コンビニエンスストアの数よりも多く、心を見つめなおす暮らしの拠点でもある。自然と共生しながら、循環型のくらしを体現できる場でもあることから決めた」とした。
両足院は、京都の伝統産業と、パナソニックが、新たな家電デザインを研究するための共創プロジェクト「Kyoto KADEN Lab」をスタートした際に、メンバーが座禅を組んだ場所でもあるという。
なお、「→使い続ける展」の入場は無料だが、完全事前予約制となっている。見学時間は約30分を想定しており、1日あたり上限100人となっている。申し込みは専用サイトから行える。
パナニックグループでは、2022年4月に、グループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT(PGI)」を発表し、2030年までに自社事業に伴うCO2排出量を実質ゼロにするほか、2050年に向けて、現時点の全世界のCO2排出総量である約330億トンの約1%にあたる3億トン以上の削減貢献インパクトを創出する活動に取り組んでいる。
その取り組みのひとつに掲げているのが、サーキュラーエコノミー(CE)型事業の創出である。
2024年までに、工場廃棄物のリサイクル率99%、再生樹脂の使用量を3カ年で9万トン、CE型事業モデルで13事業の創出を目指しており、「CE型事業モデルでは2022年度実績で10事業にまで拡大している。さらに、この取り組みを力強く拡大していきたいと考えている」という。
2022年度だけで、ローソンと中国におけるコンビニ店舗設備のリファービッシュ事業モデルを創出したほか、賃貸住宅向け家電製品のサブスクリプションおよびリフォーム事業、工場排出物を新製品の部材に活用し、パートナー企業が商品化および販売する工場廃材の活用、単三および単四乾電池の包装を脱プラスチック化し、紙パッケージを採用する4つのCE型事業モデルをスタートしている。
パナソニックグループでは、CEの姿として、「3 Loop Diagram」を打ち出している。
周囲を大きく囲むループを、大気や水、森林などの自然の大きな循環を「NATURE LOOP」とし、そのなかに「MANUFACTURING LOOP」と「SERVICE LOOP」の2つのループが存在するという構図で示している。
MANUFACTURING LOOPは、メーカーがNATURE LOOPから原料を採取し、設計および製造することで製品化。これを販売し、使用済みの製品を引き取ってリサイクルするという循環を示す。また、SERVICE LOOPは、リペアやリファービッシュ、シェアリングなどにより、ユーザーに長く使い続けてもらうための循環を指す。パナソニックグループがこれまで取り組んできたのはMANUFACTURING LOOPであったが、ここにSERVICE LOOPを組み合わせることで、地球環境にも貢献でき、人も豊かな暮らしができると定義する。
さらに、この3つのLOOPを、解像度をあげた形でも示してみせた。
MANUFACTURING LOOPでは、「サステナブルな素材開発」、「修理やリサイクルを前提とした製品設計」、「高効率な素材リサイクル」、「製品の整備やリファービッシュ」、SERVICE LOOPでは「製品パスポートとデータベース」、「シェアリングプラットフォーム」、「PaaSを活用した製品のサービス化」、「モニタリングと修理、メンテナンス」を示し、MANUFACTURING LOOPとSERVICE LOOPが重なる部分には、「セルフリペアおよびアップデート」、「トレードインと回収スキーム」を置き、全10項目で構成する。
「3 Loop Diagram では、Panasonic R&D、Panasonic Factory、Panasonic Digital Platform、Panasonic Service Hub、顧客(Customer)の5つの場を起点に、10の取り組みを行っていくことになる。このループをうまく回すためには、お客様に共感してもらう必要があり、そのための仕掛けをデザインする必要がある。また、これらのループを鉄道が脱線することなく動き続けるようにしなくてはならない。リサイクル素材はいいものだという認識を定着させたり、自分で修理することが楽しいという気持ちになってもらったり、あるいは、生活シーンが変化するなかで、サブスクリプションによって利用することが自分に合っていると思ってもらうこと、トレードイン(下取り)が簡単に、お得にできることを認知してもらうことなど、顧客にとってのメリットや価値を創出することが大切である。CEの世界が素敵であると感じてもらい、行動変容につなげることができるようにするのが、パナソニックグループの役割である」と述べた。