ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、障がいがあるゲームプレイヤーでも、長時間にわたって、快適にゲームをプレイすることができるコントローラーキット「Accessコントローラー」を、2023年12月6日から世界同時に発売する。価格は1万2980円。対象の国内販売店で予約が可能になっている。

  • プレステ「Accessコントローラー」が超えようとしたゲームの限界

    Accessコントローラー

SIEでは、あらゆるPlayStationユーザーが、ゲームを楽しみ、喜びや感動を共有できることを目指し、コンソールやゲームタイトル、周辺機器のアクセシビリティを高めることに力を注いでいる。今回の「Accessコントローラー」は、その取り組みのひとつであり、ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部2課の堀越朝氏は、「アクセシブルなゲーム体験に向けて、革新的な前進ができるコントローラーになる」と自信をみせる。SIEの「Accessコントローラー」の取り組みを追った。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部の若井宏美部長は、「PlayStationは、『Play Has No Limits(遊びの限界を超える)』というのミッションのもと、より多くのプレイヤーが、制約なく、ゲーム体験を楽しめるように様々な取り組みを行っている。ゲームで遊ぶことに至るまでの制約をすべて無くし、長く、快適にゲームをプレイできるという考え方をベースに、改善や機能の追加を行っている」と切り出す。

これは、アクセシビリティに対するSIEの基本姿勢にもつながっており、同時に、アクセシビリティをPlayStationのDNAに組み込む考えも示している。

現在、SIEは、アクセシビリティに対して、コンソール、ゲームタイトル、周辺機器の3つの観点から取り組んでいる。

ひとつめのPS5のコンソールでは、ソフトウェアアップデートを通じて、ズーム機能や音声読み上げ機能などを搭載。最新のアップデートでは、2つのDualSenseワイヤレスコントローラーを1人のユーザーにアサインできるアシストコントローラー対応を可能にした。これにより、2個のコントローラーを同時に使い、1個のコントローラーで操作しているようなプレイができ、障がい者の操作方法の選択にも幅を持たせることができるようになったという。

  • PS5とDualSenseワイヤレスコントローラー、Accessコントローラー

2つめのゲームタイトルでは、ファーストパーティーであるPlayStation Studiosにおいて、視覚、聴覚、運動障がいのあるゲーマーをサポートするアクセシビリティ機能をゲームタイトルに採用。「The Last of Us Part II」では、全盲のプレイヤーでも遊ぶことができる設計になっている。また、サードパーティーからも、アクセシビリティに配慮したタイトルを制作するケースが増えているという。

今回のAccessコントローラーは、3つめの周辺機器からのアクセシビリティへの取り組みとなる。「コントローラーは、キャラクターやゲームカメラの移動、取るべき行動を表現するものになる。ゲーム機におけるアクセシビリティへの挑戦として、最も重要なものになる」と、ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部2課の堀越朝氏は位置づける。

SIEでは、5年前から、「Project Leonardo」の名称で、Accessコントローラーの開発に着手してきた。

「障がいがあるプレイヤーは、ゲームをプレイすることに意欲的であったが、標準的なゲームコントローラーを、身体に無理がある形で操作していることが多かった。コントローラーが、プレイヤーの身体に負担を強いるのではなく、コントローラーそのものがプレイヤーの身体的ニーズに適用するようにすべきだと考えた」(堀越氏)とする。

プロジェクトチームでは、まず国勢調査や医療データをもとに、最も多い障がいの状態を特定し、それを解決するアプローチからスタートした。

「だが、このアプローチには効果がないことがわかった」と堀越氏は振り返る。

「障がいは人それぞれであり、まったく同じ状況のプレイヤーがいないこと、障がいによっては時間の経過とともに回復したり、悪化したりといったように常に変化することもわかった。そこで、社外の専門コンサルタントや、障がいがあるゲーマーを支援する慈善団体との連携により、特定の障がいに焦点を当てるのではなく、障がい者にとって、既存のコントローラーで快適にプレイできない課題はなにかという点にフォーカスした」という。

SIEの若井部長も、「Project Leonardoは、PlayStationにとっては、新たなチャレンジであり、これまでの経験や考え方がそのまま当てはまらないだろうと考えた。そこで、アイデアの検証を行うPoCに時間をかけたり、ユーザビリティテストを数多く実施したり、有識者のフィードバックを大切にして、開発に取り組むことにした」と語る。

企画の構想段階から、世界中の専門家や障がい者コミュニティと連携し、聞き取り調査やユーザーテストを繰り返すとともに、ゲーム開発者の意見も取り入れ、開発を進めていった。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部1課の池ノ谷優一郎氏は、「コミュニティや専門家の意見がなければ、Accessコントローラーは完成しなかった」と断言する。

このとき、プロジェクトチームが辿り着いたのは、3つの基本原則だった。

ひとつめは、コントローラーを持たずにプレイできるという点だ。健常者は、コントローラーを手に持ってプレイすることが当たり前だと思っているが、手の筋力が弱い人など、障がい者にとっては、それが普通ではないことに気がついたという。

2つめは、ボタンを正確に押せるようにすることだ。障がい者にとっては、DualSenseワイヤレスコントローラーのボタンが小さかったり、配置が密集していたり、あるいはボタンが上面と前面に配置されていること自体も、操作がしにくいとの指摘があったという。

3つめは、操作に重要なスティックを効果的に使えるようにすることである。

DualSenseワイヤレスコントローラーでは、スティックの高さや幅、向き、位置が固定されているが、障がい者にとっては、それが操作性を損ねることにつながっていたという。

Accessコントローラーは、平らな場所に設置できるように設計しており、操作の際に手に握る必要はない。そして、机の上や車椅子のトレイ、AMPSマウントにも固定できるように設計しており、場所を選ばずに配置できる点も特徴だ

また、ボタンを一面に配置し、プレイヤーが自分の好みにカスタマイズできるように、様々な形状のボタンやスティックを用意した。2つ分のボタンをひとつのボタンにするワイドフラットボタンキャップ、中央にせり出した形状により、手の小さなプレイヤーでも使いやすくしたオーバーハングボタンキャップ、コントローラーの奥側に付けた際には押す操作ができ、手前側に付けた場合には引く操作で入力ができるカーブボタンキャップのほか、ピローボタンキャップ、フラットボタンキャップ、ボールスティックキャップと、様々な形状を用意しており、力を使わずにボタンキャップの交換ができるように配慮している。

さらに、スティックの位置の自由度を高め、距離、向き、高さを変えることができ、スティックのキャップも取り外して、交換できるようにした。ここでは、360度のどの向きからもスティックが使用できるように設計している。

  • 様々な形状のボタンがある

  • 用途に応じて様々なボタンを付け替えることができる

  • (左から)標準スティックキャップ、ドームスティックキャップ、本体のボールスティックキャップ

  • 奥にあるのがカーブボタンキャップ

  • ひじなどを使って操作ができる

また、同社の調査では、障がい者の約60%のプレイヤーが2個のDualSenseワイヤレスコントローラーを使用することを好んでいることがわかったことから、複数のコントローラーを、ひとつの仮想コントローラーとして利用できる機能も用意。さらに、1台のDualSenceワイヤレスコントローラーに加えて、2台のAccessコントローラーを同時接続できるようにした。

  • 複数のAccessコントローラーを用いて操作する人もいる

加えて、4つの3.5mm AUX端子を搭載しており、サードバーティーが発売しているフットペダルや外部ボタン、アナログスティックなども接続できる。すでに公式のAccessコントローラーアクセサリーキットとして、Logitechが「Logitech G Adaptive Gaming Kit」を用意。大型ボタンや小型ボタン、ライトタッチボタン、可変トリガーコントロールを同梱しているという。

  • 4つの3.5mm AUX端子を搭載している

Accessコントローラーの外形寸法は、幅が141mm、高さ39mm、奥行き191mmとなっており、重量は約322gだ。

「設置して利用するということから、軽量化については、それほど重視しなかった。だが、サイズについては、多くのユーザーからのフィードバックをもとに、手の大きさやカスタマイズのしやすさなどに配慮したものを考えた。また、どこに置いても使いやすく、一面にボタンが配置できるように、円形にすることを早い段階から考えていた」(SIEの池ノ谷氏)という。

また、「Accessコントローラーは、特徴的な形状と、高いカスタマイズ性を持っているものの、一般的なコントローラーに慣れるのと同様に、1~2週間で、操作方法を熟知できるようになっている」(堀越氏)という。

なお、Accessコントローラーは、そのデザインが評価され、2023年度グッドデザイン賞において、グッドデザイン金賞 (経済産業大臣賞) を受賞している。

Accessコントローラーは、システムソフトウェアを利用することで、コントローラー上の10個のボタンに、簡単に機能を割り当てることができるようになっている。

ここでは、複数のボタンに同じ機能を持たせたり、2つの操作を1つのボタンに割り当てたり、スティックを無効化し、スティックによる誤入力がないようにすることも可能だ。そのほか、長押し設定により、ボタンを長押しする必要がなくなったり、状況に合わせて、スティック感度を変更したりできる。たとえば、R2ボタンを押し続けなくても、自動車のアクセルを踏み続けるといったゲーム操作が可能になったり、顔や腕でスティックを操作しなければならない場合にも、それらの操作に最適な感度に変更したりできる。

  • ボタンの割り当ても簡単に行える

なお、プレイヤーは、Accessコントローラープロファイルを作成し、最大30個まで、PS5 コンソール上で保存できる。また、Accessコントローラーには3つのプロファイルを登録でき、AccessコントローラーのPROFILEボタンですぐに切り替えが可能だ。

  • AccessコントローラーのPROFILEボタンで設定の切り替えが可能

SIEのこだわりは、パッケージにも及んでいる。

SIEの池ノ谷氏は、「Accessコントローラーのパッケージの設計で最も大切にしたのは、片手で開けられるという点。輪っかの形状をしたタグを随所に取り付け、それを引っ張れば開封できるように設計した。ゲームをプレイするだけでなく、箱を開けて、取り出して、使えるようにセットするところにもアクセシビリティに配慮した。そこまでを含めて商品である」と語る。

開けた後も、本体や付属のボタン、ケーブルなどを取り出しやすく配置。そこにも独自の配慮を施した。ここまでアクセシビリティにこだわったパッケージはSIEとしては初めてのことだ。

また、発売にあわせて、コントローラー上のQRコードを読み取ると、製品の追加チュートリアルを提供するサポートページにリンクしており、操作方法などを確認できるようにしている。

  • パッケージは片手で開けられる設計となっている

障がいを持つ人は、世界的に見ても非常に多い。そし、誰もが障がい者になる可能性がある。

2023年版厚生労働白書によると、国内における身体障がい者は約436万人に達するという。そのうち、肢体不自由者は約190万人を占める。

一般社団法人日本支援技術協会 理事 事務局長/テクノツール 大阪営業所所長の田代洋章氏は、「事故や病気のほか、加齢により身体や認知機能が低下し、誰にでも障がいを感じる状況が訪れる。アクセシブルなモノづくりやサービスの構築は、ユニバーサルな社会づくりにつながり、同時にすべての人が生活しやすくするための取り組みになる」と指摘する。

日本支援技術協会も、今回のAccessコントローラーの開発において、多くのフィードバックを行った障がい者コミュニティのひとつだ。

田代事務局長は、「障がいは、身体的な不自由などを指すのではなく、個人の特性と、環境の相互作用によって生じる動的な状態と定義されている。日本語しか話せない人が、他の言語の国に出かけると、それはコミュニケーション障がいとなる。コロナ禍で外出禁止となった際には、身体機能に課題があり、歩くことができずに外出できない人と同じ環境を多くの人が体験したといえる。これらの課題をテクノロジーやオンラインを活用することで、障がいを感じることが少なくなる。また、デジタルを活用できる人とできない人との間には、デジタルデバイドが発生しており、誰もが気軽にデジタルの恩恵を受けられるようにすることも大切である」と語る。

その上で、「Accessコントローラーは片手で開封でき、その作業をはじめた時点から、これまではあきらめていたことができるようになるのではないかという未来への期待が膨らむ。身体から離れた適切な位置にセットできることから、身体の動きに制限がある人の姿勢や動きにあわせることができる良さがある。ボタン形状も変更できるので最適なものを選択できる。Accessコントローラーによって、ゲームをプレイするスキルがあがれば、それを生かして、教育を受けたりや職業訓練でも利用できるようになるのではないか」と期待する。

脊髄性筋萎縮症の当事者であるテクノツール 広報担当の干場慎也氏は、実際にAccessコントローラーを利用してゲームをプレイしたという。「カーブボタンキャップにより、身体に無理がなく、ボタンを押すことができるようになった。また、アーケードゲームのコントローラーのようなボールスティックキャップにより、少ない力で大きな動きができるようになったり、レースゲームでも細かい操作ができるようになったりした。Accessコントローラーの登場により、身体的な制約があるゲームプレイヤーがいることが認識され、アクセシビリティに配慮したゲームが増えるきっかけになることを期待している。また、ゲーム大会では公認コントローラーでの参加が条件になっている場合が多く、Accessコントローラーが大会の公認コントローラーに指定されれば、参加できなかった人たちも大会に参加しやすくなる」とコメントした。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー症であるePARAの畠山駿也氏もAccessコントローラーを事前に使用したゲーマーの一人だ。「Accessコントローラーを接続するだけで説明が始まり、セッティングそのものがゲーム体験のようであった。ボタンの取り外しも簡単に行える。力が弱いために押せなかったボタンも、カーブボタンキャップの出っ張りにひっかけて引っ張れば入力できることにも気がついた。多くの人がゲームを楽しむきっかけが生まれ、PS5でゲームをプレイする障がい者が増えることにつながりそうだ。新しいゲームにも挑戦してみようと思うことができたり、身体的な制限がある人が、eスポーツに参加しやすくなったりすることを期待している。イベントなどを通じてAccessコントローラーの認知を高めたい」と語った。

  • (前列左から)ePARAの畠山駿也氏、テクノツール 広報担当の干場慎也氏、(後列左から)ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部2課の堀越朝氏、ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部1課の池ノ谷優一郎氏、一般社団法人日本支援技術協会 理事 事務局長/テクノツール 大阪営業所所長の田代洋章氏

だが、Accessコントローラーへの挑戦はこれで終わりではない。

「Accessコントローラーは、様々なアクセシビリティニーズに対応するよう設計されているが、障がいがあるすべての人や個人に対応できるわけではない。今後も継続的な改良を加えていきたい」と、SIEの堀越氏は意気込む。

そして、「Accessコントローラーを試用した障がい者から、できなかったゲームがプレイできるようになったという言葉をもらえたことが、とてもうれしかった。Accessコントローラーによって、ゲームができなかった人にも、ゲームを体験してもらうことができる。これが、私たちが目指す世界である。ユーザーそれぞれのニーズにあわせ、カスタマイズしやすく、より遊びやすく、より多くの人たちがゲームを楽しめるようにし、多くの人に喜んでもらいたい」と続ける。

障がいがある人は、社会において制約を受けてしまうことが多いのが現状だ。だからこそ、障がいがある人が、同じ世界観を体験できるゲームのなかでは、制約を取り払いたいという思いが、SIEにはある。そして、ゲームをきっかけに、障がい者の新たな挑戦につながることにも期待している。

Accessコントローラーは、そうした思いを具現化する第一歩になる。