パナソニックグループが、2021年10月に、カンパニー制を廃止し、実質的に事業会社制に移行してから、ちょうど2年を経過した。パナソニックで白物家電事業を担当するくらしアプライアンス社の松下理一社長は、「この2年間の最も大きな変化は、責任と権限が現場にかなり委譲され、スピードがあがった点にある。また、ドラム式洗濯乾燥機に代表されるように、市場ニーズを捉え、圧倒的な機能を持った商品を投入することができた。開発、生産に迅速な投資ができたことによって生まれたものであり、事業会社化したことで、磨きをかけることができた商品」と位置づけた。一方で、パナソニックくらしアプライアンス社は、2年以上に渡り指定価格制度による新販売スキームを推進し、それが着実に成果につながってきた。くらしアプライアンス社の取り組みを追ってみた。

  • 「市場の理解深まった」パナソニック白物家電、新体制から2年のモノづくりに手応え

    パナソニック 副社長執行役員 くらしアプライアンス社社長の松下理一氏

パナソニックグループは、2022年4月から、パナソニックホールディングスによる持ち株会社と、7つの事業会社で構成。事業会社による自主責任経営を主軸とすることから、持ち株会社制とは呼ばずに、事業会社制と呼んできた。この体制が正式にスタートする半年前の2021年10月には、従来のカンパニー制を廃止し、事業会社制を視野に入れた体制へと移行。それから2年を経過したことになる。

そのなかで、パナソニックの商号を受け継いだパナソニック株式会社では、白物家電事業を行うくらしアプライアンス社のほか、空質空調社、コールドチェーンソリューションズ社、エレクトリックワークス社、中国・北東アジア社の5つの社内分社を設け、家庭から店舗、オフィス、街に至るまで、あらゆるくらし空間を対象にした商品、サービスを提供している。

くらしアプライアンス社の松下理一社長は、この2年間を振り返り、事業会社化したことで、多くの責任と権限が現場に委譲。経営のスピードが向上したことに触れながら、「事業現場の責任が重くなったものの、市場との対話が事業レベルで行えるようになった。経営の透明性があがり、市場からの理解が深まった」と自己評価する。

そして、「従来は、本社のなかで投資の優先順位が決められ、その点で、白物家電事業はキャッシュカウの状態にあった。だが、事業会社制に移行したことで、それぞれの事業会社でディシジョンができ、自らのキャッシュで投資ができるようになった。くらしアプライアンス社においても、かなり大きな部分まで裁量を得ることができている」とする。

その一例にあげたのが、ドラム式洗濯乾燥機の生産を行う静岡県袋井市の静岡工場における新規生産ラインの稼働である。国内におけるドラム式洗濯乾燥機の需要拡大にあわせて新設したもので、SCM変革を組み合わせたIT投資も強化。これを、事業会社の判断で投資を進めたという。

松下社長は、「ドラム式洗濯乾燥機は、いまのパナソニックの姿を代表する商品だといえる。市場ニーズを捉え、圧倒的な機能を持った商品だと自負している」と前置きし、「開発、生産に迅速な投資ができたことによって生まれたものであり、事業会社化したことで、磨きをかけることができた商品だ」と位置づける。

  • 市場ニーズを捉え、圧倒的な機能を搭載したと自己評価するドラム式洗濯乾燥機

ここでは、スペック表に表示される機能だけでなく、長年に渡って搭載してきたヒートポンプによる乾燥機能の安定性や、日本の家屋のように柔らかい床に設置する際の配慮、IoTで見える化したデータを活用した商品企画の実行やサービスの提供、信頼性の高いモノづくりの進化などをあげる。

そして、「今後は、ドラム式洗濯乾燥機の成果をほかの商品にも展開していくことになる」と語る。ここでも、事業会社による迅速な投資判断が進められることになりそうだ。

現在、パナソニックが取り組んでいるのが、新販売スキームである。これは指定価格制度とも呼ばれ、パナソニックが販売価格を指定。対象商品は、販売店主導での値引き販売は行えないというものだ。そのため、消費者はどの店舗に行っても同一の価格で購入できる。メーカーが販売価格を指定することは、独占禁止法に抵触するが、新販売スキームでは、パナソニックが販売店の在庫リスクについて責任を持ち、販売店は売れ残った商品を返品できるようにしているため、これに抵触しない。

  • 新販売スキームの取り組み

2023年10月2日からは、日立グローバルライフソリューションズが、パナソニックに続いて、指定価格制度を導入したところだ。

松下社長は、「パナソニックは、業界の大きな流れとして、新販売スキームの先陣を切った。流通形態や販売形態が多様化するなかで、商品の価値を理解してもらい、購入してもらうという考え方が広がってきたことを実感している」と、日立GLSの追随を歓迎する。

その上で、「これまでの手法では、新製品を発売しても、その後の価格コントロールが効かないため、必要以上の値下がりが起きてしまっていた。その結果、本来の商品価値に見合う以上の価格設定を行い、そこから値段を落としていくケースが見られた。これでは、価格の信頼性がなくなり、商品の値下がり幅も大きくなる。新販売スキームは、お客様に対して、価格信頼性をしっかりと構築することが大切である」と位置づける。

また、価格を維持するために、毎年1回の新製品を投入してきたサイクルを見直すことにもつながるという。

「下落した価格を戻すために、お客様が望んでいないような機能を付加して、モデルナンバーを変えて、毎年のように新製品を出していた。だが、毎年、新製品を開発するとなると、エンジニアリングのリソースが取られてしまい、本来、お客様の価値を考えて新製品を作らなくてはいけないのに、それができなくなっていた。これは、お客様にとっても幸せなことではない。2年間のサイクルの間に、お客様を調査し、新たな価値を生み出し、商品力を強化し、正しい価値を、値ごろ感のある商品として投入する形に変えていきたい。これが一部の製品で回り始めている」と手応えを示す。

また、これまでは、万人受けすることを目指したり、毎年新製品を投入するために余計な機能を搭載することで、多機能化が進む結果となっていたが、今後は、機能を絞り込んだり、ターゲットを絞り込んだモノづくりも可能になると語る。

これまでのモノづくりを「足し算」とすれば、パナソニックが目指す新たなモノづくりの姿のひとつが「引き算」のモノづくりになるという。

「100個も、200個も機能をつけて、そのなかで使われているのは、せいぜい10個ぐらいというのが現実である。他社よりもたくさんの機能を搭載すれば、高く売れるはずという考え方では、お客様からは喜ばれない。引き算のモノづくりを突き詰めていくと、商品は磨かれていくことになる。だが、引き算をして、最後に残った価値は、お客様を動かすものでないと売れない。パナソニックは、そこに挑戦していくことになる」とする。

すでに引き算のモノづくりによる商品が販売されているという。

一人暮らし向きのパーソナル食洗機「SOLOTA」や、自動計量IH炊飯器「SR-AX1-W」がそれにあたるという。

「引き算の商品なので、すべてのユーザーに刺さるものではないが、ターゲットには刺さる。そして、機能を絞ることで、デザインの自由度が出てくる。アップルのような世界を作ることができる」

だが、こうも語る。

「引き算のモノづくりや、新販売スキームによる提案だと、商品の価値が、お客様に本当に刺さっているのか、刺さっていないのかがわかりやすい。差別化できていない商品は苦戦する。これは現実的である」と、引き算のモノづくりの難しさに気を引き締める。

  • パーソナル食洗機「SOLOTA」(左)

  • 自動計量IH炊飯器「SR-AX1-W」

一方で、新販売スキームについては、試行錯誤を繰り返してきた2年間であったことも明かす。課題となっていたのは、市場の変化に迅速に追随できなかったことだ。

指定価格制度という名前の通り、販売価格はメーカーが決める。となると、当然のことながら、なにもしなければ、値段が変わらないままということになる。

指定価格制度は、価格がずっと変わらないというものではなく、すべての店で指定された価格で販売されることを指す。つまり、市場動向の変化にあわせて、販売価格も変化することになるのだ。

「市場に在庫が増えたり、競合メーカーが在庫処分を行ったりすると、これまでは、その状況にあわせて、販売店が自主的に販売価格を変えてきた。だが、指定価格制度では、市場の変化を捉えて、メーカーが価格を指定し直さなくてはならない。市場環境の変化が激しいときにも、それに遅れることなく、反応しなくてはならない。当初は、そこに時間がかかり、価格改定のスピード感で苦しんだ。そこで、製造と販売の連携を強化し、市場価格の動きを捉え、製造部門と販売部門が即決し、すぐに実行することができるようにした。新販売スキームの成功には、商品強化とともに、スピード感を持った価格決定の両輪が重要である」とする。

パナソニックでは、流通在庫の数をすべて把握しており、指定価格制度の対象商品は、作りすぎることがない状況を生むことに成功しているという。とくに、先に触れたドラム式洗濯乾燥機では、静岡工場との連動により、流通在庫が半減し、リードタイムを短縮。即納率は約95%に達しているという。「日本に工場があることが新販売スキームの効果につながっている。流通在庫を理解して、高い次元でコントロールし、販売店の経営にも貢献できるアプローチが可能になっている。双方のキャッシュフローが健全になっている成果もあがっている」と語る。

パナソニックでは、新販売スキームによる販売比率が、すでに国内白物家電の約3割に達している。先行したドラム式洗濯乾燥機では、販売金額の約8割が指定価格による販売だ。2024年度には、白物家電全体で5割にまで引き上げる計画だ。

「新販売スキームの浸透にあわせて、支持される商品については、新製品の投入を2年サイクルにしていきたい。十分に可能であるという手応えがある」と自信をみせる。

さらに、くらしアプライアンス社では、新たなモノづくりをスタートしている。

これは、マイクロエンタープライズ制度(ME制)と呼ぶ仕組みであり、2021年10月からスタートしている。

職能横断で社員が参加し、商品企画から収益までの責任を持つプロジェクトチームを編成。現在、9カテゴリー11プロジェクトで稼働している。まだ市場には、投入されていない段階だ。

松下社長は、「ME制でつくる商品は、厳しい審査を行いながらプロジェクトを進めている。商品のなかに顧客価値が十分織り込めているのか、革新性があるのか、サステナビリティの観点ではどうか、そして、短い開発リードタイムを実現できているのか。開発プロセスそのものも重視している」という。

そして、「2023年度中には、ME制から生まれる最初の商品をいくつかお披露目できる。また、2024年度には残りの商品が出てくることになる。商品カテゴリーは多岐に渡り、一部の商品は、日本市場以外で展開することになる」とし、「びっくりするようなものも仕込んでいる。ぜひ期待をしてほしい」と強気の姿勢をみせる。

ME制で登場する新たな商品が、事業会社制におけるくらしアプライアンス社の変化を象徴するものになることを期待したい。

  • 商品陣容強化の取り組み

くらしアプライアンス社では、「商品力の強化」、「流通改革」とともに、「コスト・オペレーション改革」を重要な取り組みに掲げている。

ここでは、グローバル標準部品の採用のほか、製品設計のプラットフォーム化およびモジュール化を推進し、2022年度実績で約100億円のコスト削減効果を実現。2023年度には150億円のコスト削減規模にまでを拡大する考えだ。

この点に関して、松下社長は、「コストダウン目標を上回る刈り取りができている」と手応えを示す。

  • 原価力強化の取り組み

コスト・オペレーション改革においては、BCP(事業継続計画)を視野に入れた見直しも強力に進めている。

「もともとパナソニックには、使用する部品の品質に関して、独自に設定した高い基準があった。また、技術部門の強い思いもあり、独自部品が多いという特徴もあった。だが、独自の部品を使うことでプラスになる部分はあるものの、調達先が1社に限られることで価格面での交渉ができず、コストが高くなるという課題が生まれる。また、コロナ禍において、BCPの問題が多発したことも課題となってきた。実際、2022年前半には上海ロックダウンなどの影響もあり、独自の部品が多いために部品が調達できず、生産の遅れにつながり、市場に商品を供給できない状況に陥った。そこで、品質を守りながらも、グローバル部品を使いこなすことに挑戦している。基準を変え、設計を変えなくてはならないが、標準部品のいいところを生かし、コスト競争力の強化につなげたい」とする。

グローバルの標準部品を採用することで、3社承認、2社購買という調達体制を敷き、BCPに対応できるようにしていく考えだ。

「パナソニックは、中国でも家電事業が強く、この経験を生かしていける。グローバル部品の調達もそのひとつになる。中国で培った強みと、日本で磨き上げたモノづくりのいいところ取りで、家電事業の体質を強化していく」と述べた。

パナソニックは、2023年10月2日から、家電事業を統合した新たな拠点として、パナソニック目黒ビルを、本格的に稼働させた。

  • パナソニック目黒ビル

「製造、販売、企画の機能を一体化させ、東京でしっかりと情報のアンテナを張り、先を見据えた商品づくりができる拠点になる。縦割りの文化をなくし、組織の壁を超えて、自由に入り混じることができる職場環境の整備と、新たな働き方の創造を両輪とした拠点になる」と位置づける。

20代から30代前半の13人の若手社員で構成するプロジェクトチームが「つながる」をテーマに、「パナソニックらしさがあふれている職場」を目指して、オフィスづくりをリード。家電事業の発信基地としての役割を持たせた。

  • 多様な働き方ができる環境を用意しているパナソニック目黒ビル

  • しばWORKは自由に対話ができるエリアだ

  • 4階から7階は階段を使って行き来ができる構造にしている

  • 22階はTsudou-baとして出張者も自由に使える

「これまでの家電は、炊飯器、電子レンジといったように縦割りで商品を作っていたが、そのカテゴリーが20年後も、そのまま残っているとは考えにくい。入り混じることで、新たなコンセプトの調理家電が生まれ、機能を広げていくことができる。すでに、異なる部署の人たちが集まり、そこから、いろいろな意見がではじめている。なかには、新たな発想が生まれ、事業化につながりそうなものもでてきている。いま求められている家電のモノづくりのやり方は、縦の枠を壊して、横に連携し、お客様のくらしに寄り添いながら、どんな価値を提供できるかという点である。これまでにない発想の商品、サービスを生み出したい」と意気込む。

さらに、リユース市場を前提としたモノづくりや、サービスを強く意識した提案にも力を注ぐ考えを示す。

「業界全体として、買い替えのサイクルは長くなるだろう。だからこそ、品質や信頼性、省エネ性能をしっかりと提案していく必要がある。また、テスラのように、ソフトウェアによって、機能をアップデートすることで、購入から4年を経過しても、新製品のように買い替えることなく使ってもらえるといった提案も必要だろう。そこに新たな価値を提供したい」とする。

また、サービスの面では、家電と食材のサブスクサービスである「foodable」や、先進家電が付属したリノベーション賃貸「noiful」をすでに開始しているが、将来的には、こうしたハードウェア以外での収益モデルの構築も重要になると位置づけている。

「今後は、メーカー保証によるリファービッシュ品に対する関心も高まるだろう。メーカーがお客様と直接接点を持つD2Cのほか、パナソニックの強みである地域販売店との連携、修理・部品サービス部門の活用がますます重要になってくる」

こうした取り組みも、くらしアプライアンス社の新たな挑戦のひとつになる。事業会社制で実質的に2年を経過したが、その成果を発揮されるのはむしろこれからである。