パナソニック くらしアプライアンス社は、ドラム洗濯乾燥機を製造している静岡県袋井市のパナソニック静岡工場を報道関係者に公開した。
1973年6月に、日本初の全自動洗濯機専門工場として操業を開始した同工場は、ちょうど50周年の節目を迎えている。これまでに、世界初となるヒートポンプ式乾燥、洗剤自動投入などの新技術を搭載した洗濯乾燥機を生産。現在は、ドラム式洗濯乾燥機を中心に、縦型洗濯乾燥機、衣類乾燥機の生産も行っており、2022年6月には、ドラム式洗濯乾燥機の専用新ラインを設置した。そして、パナソニックが取り組んでいる新販売スキームやSCM改革の戦略的拠点としての役割も担っている。
実は、パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOが静岡工場を訪れたのは、この2年間で3回。他の生産拠点にはないほど足しげく訪れており、その点からも静岡工場が戦略拠点となっていることが裏づけられる。静岡工場の取り組みと、洗濯乾燥機の最新生産ラインを見てみる。
パナソニック静岡工場は、東海道新幹線の掛川駅から車で約20分の場所にあり、東京ドーム1.5個分にあたる6万8,500平方メートルの敷地を持つ洗濯乾燥機の専門工場だ。
社会変化を先取りした「全自動洗濯機」、その専門工場としてスタート
パナソニック静岡工場が操業を開始した1973年6月は、2槽式洗濯機の販売が全盛期の時代だった。そうしたなか、女性の社会進出などの社会変化を先取りした商品として開発したのが全自動洗濯機であり、その専門工場としてスタートしたのが静岡工場であった。
静岡工場で生産された第1号洗濯機は「全自動うず潮」であり、最新鋭の機械化、自動化を採用した工場と位置づけられ、その後も最先端の商品を作り続けてきた。2003年には業界初となるななめドラム洗濯乾燥機の生産を開始。2015年には新コンセプトのドラム式洗濯機「Cuble」を生産。2017年には業界初の洗剤自動投入IoT搭載ドラム式洗濯乾燥機を生産している。2022年には国内ドラム式洗濯乾燥機の累計生産が500万台に到達。現在、ドラム式洗濯乾燥機は日産2,250台、縦型洗濯乾燥機は日産300台の体制となっている。
創業者の松下幸之助氏は、1968年に「過疎地解消のために、人目減少の地城に新工場を展開する」という方針を打ち出し、全国各地に工場建設を推進。静岡工場もその一環として建設されたものであり、静岡県および袋井市からの誘致とともに、モノづくりが盛んであり、東海道の中心に位置する遠州という土地柄を理由に静岡工場を建設した。
パナソニック くらしアプライアンス社 常務 ランドリー・クリーナー事業部の藤本勝事業部長は、「遠州には『やらまいか』という気質がある。これは、『やらないか』という進取の精神のことであり、その言葉を裏づけるように、静岡工場は、数々の『初』を生み出してきた」と語る。
パナソニックでは、洗濯機乾燥機の生産拠点として、中国・杭州や台湾、インド、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ブラジルなど、世界9拠点で展開しているが、静岡工場はグローバルマザー工場としての役割を担っている。また、海外生産拠点のなかには、自動化などにおいて先進的な取り組みを行っているケースもあり、それらのノウハウを静岡工場に取り入れるといったことも行われている。
パナソニック静岡工場は、1号棟から5号棟までの生産棟と、部品受入棟、厚生棟のほか、品質の作り込みなどを行うQRA棟で構成されている。
静岡工場の最大の特徴は、主要部材をつくる源泉工程から、組み立て、検査までを行う一貫生産体制を敷いている点にある。
プレス部品や樹脂部品などの主要部品を内製化することによって、部品レベルでの品質のバラつきを低減し、より高品位なモノづくりを実現しているという。
「洗濯機で求められているのは、水漏れを防止しながら、洗濯槽を安定して回転させるということ。静岡工場では、材料の金属板を正確な円形に加工し、少しのズレもなく、円の中心に回転軸を配置するといった高いモノづくり力を備えている。50年にわたって培ってきた『匠の技』が、静岡工場の競争力のベースになっている」(パナソニックの藤本事業部長)と自信をみせる。
デジタル化や環境対応にも取り組む静岡工場の現在
静岡工場の様子をみてみよう。
1号棟と2号棟の1階は源泉工程となっており、主に金属加工を行っている。
ここでは、600トンから80トンまでの8台のプレス機を設置。ドラム洗濯乾燥機では20部品、縦型洗濯機で7部品、衣類乾燥機で19部品の合計46部品を内製化している。
ドラム部分は、1枚のステンレス鋼から作り上げることになるが、正確な円形とずれがない精密なプレスが必要になるため、これまでのデータを用いて、圧力、温度、油量などを細かく制御したプレスを行っており、ここにも長年の経験が生かされているという。
4号棟と5号棟も源泉工程となり、こちらでは、台枠や脱水受けカバー、外観部品、バックフィルターなどの樹脂成形を行っている。
1,000トンから1,300トンまでの6台の大型成型機を稼働させており、ドラム洗濯乾燥機では28部品、縦型洗濯機では7部品の合計35部品を内製化。特定の部品を生産する成型機と、フレキシブルに様々な部品を生産する成型機を組み合わせることで、柔軟な生体体制を実現しているという。
また、洗濯容量の増加にあわせて、樹脂量が増加するため、生産現場では、冷却時間が増加するという課題が生まれていたが、金型の改善などにより、冷却効率を高めることに成功。容量が12kgの洗濯乾燥機の脱水受けの成形でも、かつては90秒だったものを67秒にまで短縮し、2023年度中には64秒を目指しているという。
なお、2号棟の2階は、乾燥機の組立工程となっている。
洗濯乾燥機の組立を行っているのが3号棟である。
1号棟および2号棟で生産された板金部品、4号棟および5号棟で生産された樹脂部品、ステンレス部品、部品受入棟に保管されている外部から調達した部品などを供給。組立、検査、梱包までを行う。
3号棟1階はドラム式洗濯乾燥機の生産ラインが2本、2階には縦型洗濯乾燥機の生産ラインが1本。そして、新設したドラム式洗濯乾燥機の生産ラインが稼働している。
3号棟2階に設置された新生産ラインは、Cラインと呼ばれ2022年6月から稼働している。
パナソニックの藤本事業部長は、「パナソニックの洗濯機事業においては、ドラム洗濯乾燥機の構成比が2023年度には23%を見込んでいるが、2024年度にはこれを25%に引き上げ、4台に1台を占めることになる。新ラインは、直近の急増するドラム洗濯乾燥機需要への対応、今後の需要伸長を見据えて増設したものである」と位置づけた。
従来の生産ラインは、ドラム加工やサブユニットの組立は別工程で行われ、組立工程の流れにあわせて部品を供給していた。だが、新たな生産ラインでは、一本の直線ラインとし、ドラム加工およびドラム組立工程もインライン化。本体組立工程や検査工程、梱包工程までを直結させている。また、これに伴い、サブユニット工程の組立も同期し、すべての作業を1個流しに対応できるように改良。工程全体を一本の直線ラインとしたことで、ライン長を短縮し、生産リードタイムの短縮にもつながり、静岡工場の生産能力を従来の1.5倍に増強することができた。
ドラム加工ラインでは、独自のエキスパンド加工機を導入。内型を12分割にしており、中央部分が膨らむように独自のドラム加工を行っているという。また、洗濯槽にさざなみ文様の加工を施すさざなみ加工機のほか、フレンジ加工機、シーマ加工機などにより、ドラムを完成させていく。
ドラム組立ラインでは、締め付け機を利用しているほか、ドラム計測装置により品質を確保。ダンパーの取り付け作業も行う。
「人手で行っていたドラム加工の工程は、新設したCラインでは自動化し、品質や精度を高めている。加工はモノを固定し、治具を動かした方が、精度が安定する。そうした考え方のもとで加工工程を進化させている」(パナソニック静岡工場の植田秀彦工場長)という。
さらに、組立ラインでは、前面側の作業と後面側の作業が同時に行えるように作業者を生産ラインの両側に配置しており、それぞれに最適な高さで作業ができるように、コンベアで搬送する高さを持ち上げているのも特徴だ。
また、組立作業の最初では、本体を仰向けにして作業を行った方が効率的であるといった現場の意見を反映した作り方を採用。組立の後半では、完成に近づくに連れて洗濯乾燥機の重量が20kgにも達するため、移動を容易にするアシスト装置を用いた作業も行っている。
外観部品などを取り付けると、検査ラインへと移動する。
検査ラインでは、生産したすべての洗濯乾燥機に、水を注入し、防水性をチェックしているほか、製品出荷検査室では、洗濯機の中に重りを入れて負荷をかけながら高速回転させるといった検査を全量で実施。さらに、300台に3台といったように、ロット単位での抜き取り検査も実施しており、ここでは実際の使用環境をもとにした各種検査が行われる。仮に不具合が発見された場合には、ロット全体を対象にした対応が行われる。
製品出荷検査では、電気検査や外観検査も全量を対象に実施。その後、1階に送られ、付属部品などを組みあわせて梱包作業を行い、全国に出荷されることになる。
現在、Cラインでは、日産600台の生産体制となっているが、各種部品やユニット供給の自動化などの物流改革により、今後も生産力の増強や効率化を図ることになるという。
「設計部門との連携により、ユニットの改善、部品搬送の効率化などを進めたい」(パナソニック静岡工場の植田工場長)としている。
また、静岡工場が環境に配慮した工場であることも強調した。
パナソニックグループでは、中長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」(PGI)において、2030年にCO2排出量ゼロを打ち出しているが、静岡工場でも同じ目標を掲げ、生産効率向上によるエネルギー削減のほか、工場の屋根を遮熱塗装して、空調負荷を削減したり、2025年には容量500kWhの太陽光発電設備を導入し、再生可能エネルギーの活用を広げたりする計画だ。
さらに、静岡工場で生産する商品には、品質を担保した上で再生樹脂材料の活用を拡大したり、梱包材の使用量削減を促進したりといった取り組みを推進。これまで以上に、環境対応型工場へとシフトを図る姿勢をみせた。
一方、静岡工場では、デジタル化への取り組みにも余念がない。
早い段階から最先端の生産システムを導入し、部品の検収から保管、組立工程への搬送をコンピュータで管理。搬送業務の低減に加えて、生産機種の切り替え時におけるロス削減などの成果を生んできた。現在は、RFタグを用いて、リアルタイムで部品管理やデータ管理、分析を行うほか、生産工程の様々な情報をデータとして集積、分析することで、工程で不具合が発生した際には、15分単位で要因を瞬時に特定し、生産工程にフィードバック。15分後には改善が行われるようになっているという。
また、組立工程のDX化などにより、顧客の需要に応じてフレキシブルに生産して供給するモノづくりへと進化。パナソニックグループにおけるモノづくり改革のパイロット工場にも位置づけられている。
「生産技術や製造現場でDXを担当する部門を作り、DXを推進している。それ以外の部門との協調も進めており、今後もDXに関連する人員を増強していく」(パナソニックの藤本事業部長)という。
とくに新設したCラインでは、パナソニックプロダクションエンジニアリングが開発した製造DXソリューションを導入。先に触れた15分単位での生産進捗管理や、ネットワークカメラを用いた映像データの分析による工程別作業タクト管理などの人稼働管理のほか、品質管理や設備稼働管理を行っている。たとえば、作業者のタクトタイムを管理することで、作業サイクルタイムの異常を常時確認でき、ライン管理者に通知したり、遅れが発生している作業の内容を、映像をもとに分析したり、それによって、カイゼン活動を迅速に行ったりといったことを可能にしている。
商品価値や技術価値を最適化する「新販売スキーム」を推進
パナソニックは、新販売スキームと呼ばれる仕組みを導入している。
パナソニックが、販売店の在庫リスクについて責任を持ち、販売店は売れ残った商品を返品できるようにする一方、パナソニックが販売価格を指定。対象商品は、店頭では値引き販売は行えない。そのため、消費者はどの店舗に行っても同一の価格で購入できる。
販売店では、値崩れを過度に心配することなく、安心して販売ができ、商品が売れ残るリスクも無くなる。仕入原価を切った在庫処分は不要となるメリットもある。
2020年度からスタートしたこの仕組みは、すでに、くらしアプライアンス社が扱う白物家電の約3割を占め、静岡工場で生産している洗濯乾燥機も含まれている。
「新販売スキームによって、商品価値や技術価値を、お客様に届けることができるようになった。ドラム洗濯乾燥機の販売金額のうち、8割が新販売スキームによる販売となっている」という。
そして、もうひとつ見逃せないのが、流通と連携した実需連動SCM(Supply Chain Management)の構築において、静岡工場が先行的に取り組みを行ってきた点だ。
静岡工場では、販売店が必要な時に、必要なタイミングで商品を届ける体制を実現。これは、新販売スキームの定着とも連動する取り組みとなっている。
2022年度に特定の量販店と、静岡工場で生産しているドラム式洗濯乾燥機を用いて、試験運用を開始。販売店の実需とパナソニックの生産計画を連動させ、効率的な生産と在庫の最適化、迅速な商品補充を可能にしている。
これにより、販売コストの最適化や、在庫およびキャッシュフローの改善、短いリードタイムでの商品補充を実現することで、販売機会損失の極小化、在庫回転率の向上につなげることができたという。
実際、ドラム式洗濯乾燥機の即納率は従来の78%から94%へと向上。在庫日数は3分の1削減するという成果が出ている。
「いまは、上流の設計、調達の部分の改善を進めている。30日間のリードタイムを持つ部品の納期をいかに短縮できるのか、在庫する場所を変えることで工数改善を進めることができるのか、部品の共通化をどれぐらい進めるのか、生産の段取り替えの時間を短縮するための設計をどうすべきかといったように、ボトルネックとなっている部分を見つけ出し、課題解決に取り組んでいる」と、さらなる改善を進めているところだ。
これらの成果は、静岡工場で生産している縦型洗濯乾燥機にも拡大するほか、冷蔵庫やエアコン、シェーバー、ドライヤー、炊飯器、電子レンジにも広げ、それらを生産する工場にも展開。実需連動SCMを本格稼働させるフェーズに入ることになる。
静岡工場では、「最高品質の製品づくりと高効率なモノづくりの達成」、「人材育成と人間性豊かな職場づくり」、「地域社会に愛され親しまれる工場運営」を方針に掲げている。
パナソニックの藤本事業部長は、「長く、安心して使い続けていただくための商品を、静岡工場で生産することで、日本の皆さんのくらしに寄り添い、喜んでもらえる商品を届けていきたい」と抱負を述べる。
今年、50周年の節目を迎えた静岡工場は、記念のロゴマークを制定。社員からアイデアを募集し、若手社員によって決定。年間を通じて使用していくことになる。
国内生産の強みを生かした静岡工場は、パナソニックの家電事業の変革においても重要な役割を果たしながら、多様化する生活をサポートする最新鋭の洗濯乾燥機の生産に力を注ぐことは、これからも変わらない。