リコーと東芝テックは、2024年第1四半期に、複合機向け共通エンジンの開発および生産を行うJV(ジョイントベンチャー)を設立すると発表した。コロナ禍によるデジタル化の進展や、ぺーパーレス化の促進により、複合機市場の縮小が加速するなかで、新たな事業モデルを模索する動きともいえる。そして、この市場は、日系企業が8割を占める分野。日本の企業の生き残りをかけた新たな挑戦と捉えることもできる。
JVは、リコーが85%、東芝テックが15%を出資する。資本金や社名、人員規模、共通エンジンの生産拠点などは、現時点では未定とした。今後、開発チームを編成することになり、共通エンジンの開発が完了するまでに数年かかると見ている。共通エンジンは、要望があれば他社にも供給していくことになる。
リコー大山社長はJVの成功に自信を見せる
リコー 代表取締役社長執行役員の大山晃氏は、「JVは、複合機を中心としたエッジデバイスの開発と生産を一貫して行う商品開発生産会社になる。競争力がある共通のエンジンを開発することを目指す」とし、「共通エンジンは、リコー製コントローラや東芝テック製コントローラにそれぞれ搭載し、商品はブランドごとに差異化し、リコーブランドと、東芝ブランドとして、別々に展開する。コントローラやアプリケーション、ワークフローの構築の仕方は差別化しながら、それぞれのチャネルを通じて、それぞれの顧客に販売することになる。リコーは中小企業からグローバル大手顧客までのオフィスに強みを持ち、東芝テックは流通業や製造業などの特定業種での強みを持っており、両社が得意とする領域で、さらなる成長を実現することになる。エンジンの競争力が高まれば、プラスαの領域でのビジネスがしやすくなるだろう」と述べた。
また、「これまでにも様々な業界での日の丸連合があったが、コンフリクトを抑えながらやってきた日の丸連合にはうまくいかないケースがあった。今回の共通エンジンの開発、生産においては、コンフリクト(競合)はまったくなく、プラス要素しかないといえる。このJVは、絶対に成功する」と自信をみせた。
また、リコー 代表取締役会長の山下良則氏は、「共通エンジンを使って複合機の台数を増やすのが主旨ではなく、共通エンジンにより、強いエッジデバイスを作り続けることが目的である」と位置づけたほか、東芝テック 代表取締役社長の錦織弘信氏は、「日本のモノづくりを元気にしたい。これは日本全体を元気にすることにつながる。そうした気持ちを持ちながら、グローバルトップのソリューションパートナーを目指し、リコーとのJVを進めたい」と抱負を述べた。
共通エンジンの詳細についての言及はなかったが、リコー コーポレート専務執行役員 リコーデジタルプロダクツビジネスユニットプレジデントの中田克典氏は、「共通エンジンは、省エネであり、熱の発生が低く、フットプリントが小さいものを目指すことになる。欧州をはじめとした環境規制が厳しくなっており、それに向けて、ハードウェアの環境対応を進める上でも、共通エンジンは効果がある」と説明。「これまでにも、リコーから東芝テックに部品を供給してきた経緯があり、技術者同士の親和性もある。複合機の作り方やプロセスも近いものがある」と、共通エンジンの開発をスムーズにスタートできる素地があることを強調した。
共通エンジンは「QCDSE」で競争力の高い商品
JVでは、「QCDSEで競争力の高い商品を提供」、「より強いモノづくり企業として、さらなる供給先の獲得による事業拡大」、「技術・ノウハウの蓄積と共有による新規商材・エッジデバイスの創出」の3点に取り組むという。
「QCDSEで競争力の高い商品を提供」では、QCDSEの頭文字のそれぞれの観点から説明する。
Q:Qualityについては両社が持つ技術を組み合わせたシナジーの創出により、魅力ある商品の開発を進め、C:Costでは A3複合機のシェアで20%超のスケールメリットを生かして、共通エンジンの設計、開発、共同購買、調達によるコスト競争力の強化を図るという。D:Deliveryでは生産拠点の最適活用による安定した製品供給を担保。S;Safetyにおいては製品安全基準ノウハウの融合により、さらなる安全性の向上を目指し、E:Environmentでは共通エンジンのスケールメリットを生かしたリサイクルプロセスの効率化を推進。競争力が高いリサイクル製品を提供することになる。
リコーの山下会長は、「JVは、QCDSEの取り組みにおいて、最高の会社へと育て上げることが最も重要なことだと認識している」と述べた。
2つめの「より強いモノづくり企業として、さらなる供給先の獲得による事業拡大」では、競争力を持った共通エンジンにより、供給先の獲得が可能になるとし、「他社にとっても魅力がある共通エンジンを開発できれば、採用を広げることができる。量の拡大により、一層のコスト競争力の強化、供給量の安定化を図ることができる」(リコーの大山社長)と述べた。
そして、3つめの「技術・ノウハウの蓄積と共有による新規商材・エッジデバイスの創出」では、JVの事業成長によって蓄えたノウハウやリソースを活用して、複写機以外の新規商材の開発に投資するという。
大山社長は、「この3つの取り組みが繰り返し行われることで、モノづくりの強さをスパイラルアップしていくことができる」と述べたほか、「JVが生み出す強いエッジデバイスを活用したリコーらしいデジタルサービスの実現や、 お客様への安心と、安定した高品質なサービスおよび商品提供の実現、環境保全をはじめとする社会課題解決への貢献が可能になる」と語った。
リコーと東芝テック、独自性を活かした展開も
その上で、リコー、東芝テックはそれぞれに独自性を生かした展開を進める。
リコーでは、デジタルサービスの推進に、共通エンジンおよびエッジデバイスなどを活用する。
大山社長は、「リコーは、デジタルサービスの会社への変革を進めている。顧客接点力を生かし、オフィスから現場、社会にサービスの提供領域を広げることを目指しており、そのためには、デジタルサービスを支える独自のエッジデバイスの強みが重要になる。そこにおいて、JVは重要な意味を持つ。強いエッジデバイスと、強いモノづくり力が、リコーのデジタルサービスカンパニーとしてのさらなる飛躍に欠かせない」と語った。
続けて、「グローバルの顧客接点網があり、顧客先に設置している複合機をはじめとしたエッジデバイスを活用することで、新たなデジタルワークフローを作り上げることができる。これがリコーのデジタルサービスの特徴である。ここでは、デジタルとアナログ、サイバーとリアルをシームレスにつなぐためのエッジデバイスが必要になる。リコー独自のエッジデバイス、リコーグループに参画したPFUのスキャナー、JVから提供される複合機や新たなエッジデバイスなどを活用するとともに、その上でサービス提供基盤であるRSI (RICOH Smart Integration)プラットフォームを提供することで、アプリケーションとエッジデバイスをつなぎ、RSIプラットフォームのエコシステムを通じて、顧客に新たなデジタルワークフローによる価値を提供できるようになる」と述べた。
一方、東芝テックでは、協業によって、競争力がある付加価値製品をラインアップし、それを拡充しながら、東芝ブランドの複合機の継続供給を行うことになる。
東芝テックの錦織社長は、「東芝テックが市場から評価されている部分は、差異化することができるユニークなユーザーインタフェースである。音声でコントロールパネルを操作できる使い勝手の高さや、バーコードスキャンとの連携によるソリューション提供などの特徴がある。複合機市場においては、これを継承、発展させていく」と発言。「JVが生み出すエッジデバイスや、競争力あるエッジデバイスを活用しながら、ワークフローや働き方変革といったDX化を促進し、データマネージメントソリューションをより拡大していきたい。バーコードプリンタを活用した工場での在庫管理やSCMとの連携、RFIDと複合機を融合したソリューションの拡大により、オフィスと現場をつなぐ独自のソリューションの提案につなげていく」と述べた。
日本企業が世界市場をリードするために、腹を割って話した
今回のJVは数年前からリコーの山下会長と、東芝テックの錦織社長によって話し合いが進められ、今回の合意に至った。
山下会長は、「過去数10年に渡って、オフィスにおける複合機市場は、日本企業が世界を牽引してきた。A3複合機の世界シェアは80%以上を日本企業が占めている。だが、プリントボリュームは10年ぐらい前から、数%ずつ落ちる状態が続いている。ハードウェアの観点からも見ると強い危機感がある。これは、30年前の半導体業界に似た景色だと個人的には思っている」と前置きし、「錦織社長と、腹を割って、複写機/複合機業界の将来を話しあった結果、今回のJVの組成につながった」と語る。
また、錦織社長は、「5年、10年というスパンで見ると、ハードウェアがさちっていくことは明らかであり、ちょっと業績がよくなってきたから、それでいいという話ではない。将来を見た上での総合的な判断が必要である。研究開発を含めて、一緒になってやることを考えるのは自然な流れであり、ビジネスモデルをどう変えるか。それを山下会長と話し合ってきた。協業の意義や思いは、がっちりと共有してきた」とし、「コロナによって景色がだいぶ変わっている。それは、共通認識として多くの人が持っていることだが、その議論だけに留まらず、本当に覚悟を持って動けるどうかは別の話である。そのためには信頼関係が必要である。そこはいい動きができたと思っている」と語った。
会見のなかで、リコーの山下会長は、「なぜ、日本企業が、世界の複合機市場をリードしてきたのか」と切り出し、その理由について言及した。
山下会長は、「複合機は、これまでの歴史のなかで、目を見張る技術進化を遂げてきた。最初は、単なるコピー機であったが、利便性や生産性向上といった要望に応えるためにアナログ機からデジタル機に進化した。その後、FAXやスキャナー機能を統合し、情報伝達や情報処理を行うオフィスのセンターマシンとして生まれ変わってきた。さらに、伝達する情報量を拡充するためにカラー機への進化を遂げた。その進化のためには、光学画像処理技術に加えて、トナーや感光体などの化成品技術、紙搬送などのメカ技術を擦り合わせることが必要だった。これが、新規参入や追随を困難にし、日本の企業が世界を席巻した理由になっている」と説明した。
さらに、「デジタル機能を生かして、オフィスで働く人たちのパートナーになる機器として、発展を遂げてきたのも複合機の欠かせない進化である。ネットワーク機能を兼ね備えたIoT機器として、身近なワークフローをサポートするアプリケーションを連携させながら進化しており、複合機は、働く人たちにとって、これからもなくてはならないデバイスであることを確信している」とする。
だが、その一方で、「新型コロナウイルスがもたらした働き方の変化やDXの進展により、ペーパーレス化が加速し、プリントボリュームの減少が進んだ。リコーは、2021年度にカンパニー制を導入し、ハードウェアの開発、生産するカンパニーと、ハードウェアを活用したデジタルサービスを提供するカンパニーに分けた。ハードウェアの技術蓄積を見つめなおした上で、徹底的にスリム化した強い事業構造にする努力をしてきた。東芝テックも同じ方向性で取り組んできたといえるだろう。JVは、複合機の開発を含むモノづくり機能を統合することで、国内産業の競争力強化につなげることができる」と自信をみせた。
JVの具体的な姿は、現時点ではまだ見えにくい部分が多い。だが、今回のJVの取り組みは、複合機市場において、日本の企業が、引き続き、世界をリードするための羅針盤といえるものになるのかもしれない。