ダイキン工業が発表した2022年度連結業績は、売上高が前年比28.1%増の3兆9,815億円、営業利益は19.2%増の3,770億円、経常利益は11.8%増の3,662億円、当期純利益は18.4%増の2,577億円となった。

2022年度は、為替のポジティブ影響などを反映し、通期見通しを3回に渡って上方修正。今回発表した通期業績は、2月公表値を上回る実績となり、売上高、営業利益ともに、過去最高業績を更新する力強い内容となった。

  • 事業環境の悪化を実力で覆す過去最高業績、ダイキンの強みは企業文化と実行力

    ダイキン工業が発表した2022年度連結業績

ダイキン工業の十河政則社長兼CEOが、「為替影響を除く実力値でも増収増益を達成した」と語るように、為替影響を除く実質ベースでは、売上高は前年比17%増、営業利益は8%増を達成。「為替に頼る経営はしない」と言い続けてきた十河社長兼CEOの言葉を裏づける結果となった。

営業利益に対して、上海ロックダウンでマイナス180億円、原材料物流費でマイナス1,550億円の影響があったが、拡販で577億円、売価で1,720億円、コストダウンで480億円のプラス効果を生み、マイナス要因をしっかりと打ち返した。

  • 営業利益に対する増減分析

「上海ロックダウンや、原材料および物流費の高騰、インフレの昂進、景気減速など、事業環境が想定以上に悪化したが、期初に定めた重点8テーマ+1テーマの実行に徹底して取り組んできたこと、変化する状況に対しても、先手で、柔軟に手を打つことで、成果を上積みし、マイナス影響を大きく打ち返すことができた」と総括した。さらに、「事業環境が厳しいなかでも成果をあげることができたのは、これまでに培ってきた強みを最大限に発揮できたからである。次々とスピーディに施策を打ち立て、その実行に徹底して取り組んだ。実行力は、ダイキン工業独自の企業文化、組織風土によるものである。フラット&スピードを重視し、経営陣と現場の第一線との距離が近く、一体感のある組織運営を行ってきた。事業環境の変化に関する情報が現場からただちにあがり、経営トップがスピーディに判断していることや、経営トップの課題認識を組織全体でタイムリーに共有することで、現場での戦略実行や変化に対する自律的な対応力が育まれてきた。課題に向き合い、経営トップから現場までが一体となって、実行重視で取り組んできた1年間であった」と振り返った。

空調・冷凍機事業が過去最高の業績、米国で初の売上1兆円超え

部門別業績では、空調・冷凍機事業の売上高が前年比28%増の3兆6,298億円、営業利益が15%増の3,245億円となった。空調・冷凍機事業として、売上高、営業利益ともに過去最高の業績となった。

  • 2022年度の部門別業績

  • 地域別売上高の推移

空調・冷凍機事業の地域別業績では、日本の売上高が前年比6%増の5,530億円。国内住宅用市場では、製品供給不足や物価高騰による消費マインドの悪化が見られたが、給気と排気の切り替え換気ができる「うるさらX」などの差別化商品の販売を強化したことにより、省エネ性や空気質ニーズの高まりを捉えて販売を拡大して、22.5%のシェアを獲得。首位を維持したという。国内業務用市場は、設備投資の持ち直しが見られるなか、VRVやSKYにおいて、特殊な加工をせずに、簡単に配管を接続できる部品を採用するなど、施工性を向上した新商品を投入。さらに、全熱交換器やUVストリーマユニットなどの換気除菌商材を組み合わせたシステム提案により、売上高が拡大したという。

  • 日本の空調事業について

米州の売上高は前年比前年比50%増の1兆3,346億円、地域別売上高では初めて1兆円を突破した。長引くインフレや金利上昇による需要の停滞、部品不足による供給逼迫、労働者不足などの厳しい事業環境のなか、安定供給に努めたことで、販売は堅調に推移。Daikin Comfort Technologies North America(DNA=旧Goodman)では、住宅用ユニタリー分野において、インバータ搭載商品である「FIT」の販売を拡大。独立卸の買収効果やVRVの住宅向け販売が好調であり、現地通貨ベースの売上高は前年比25%増と前年実績を大きく上回り、営業利益率は9.0%に達したという。また、アプライドは、学校、病院、工場などの市場別ソリューション提案の強化によって、販売を拡大したという。販売会社やシステムインテグレータの買収により、サービスソリューション事業の強化に向けて基盤構築を進めた成果もあがっているという。

  • 米州の空調事業について

中国の売上高は前年比1%増の4,301億円。2022年4~5月には、上海でのロックダウンで生産、物流が停止し、製品供給が滞り、販売が減少したが、ロックダウンが解除された6月以降は、いち早く生産および物流がフル稼働し、上期は前年並の売上高を確保。下期に入り、感染対策による厳しい行動制限があったことと、12月にゼロコロナ政策の急転換により、感染者が急増したことで販売活動が停滞したが、2月以降は市場再開にあわせて積極的な販売活動を展開したことで、下期の販売は前年を上回ったという。さらに、行動制限で顧客訪問などの活動が限られるなか、同社独自の専売店である「プロショップ」において、ライブコマースやカスタマーセンターを活用したオンライン販売を強化。住宅用マルチエアコンを中心に販売確保に努めたり、コストダウンを図ったりといった取り組みにより、高収益を維持したという。

  • 中国の空調事業について

欧州の売上高は前年比27%増の6,574億円。ウクライナ情勢の影響を受け、エネルギーコストや物流費が高騰。厳しい事業環境が継続したが、生産、販売、供給部門の連携強化、各販売会社での営業力強化に取り組んだ。住宅用は、イタリアやスペインで販売を伸ばしたほか、下期以降は、ドイツやフランスでのカーボンニュートラルに対する意識の高まりを背景に、省エネ性に優れた暖房商品として、ルームエアコンの購入が増加。ヒートポンプ暖房・給湯機器は、各国での販売網強化や、人員の増強、商品ラインアップの拡充、サービスの強化を進めたことで、フランス、イタリア、ドイツを中心に販売台数が拡大。前年比53%増と大幅に伸ばすことができたという。

  • 欧州・中近東・アフリカの空調事業について

アジア、オアセニアの売上高は37%増の5,433億円。コロナ禍での行動制限が緩和され、需要が回復するなか、業務用の販売が堅調に推移。販売網の拡充や、独自のオンラインツールを活用した販売活動の強化のほか、各工場からの製品の安定供給に取り組んだことで、インドやマレーシアを中心に、販売を大きく伸ばした。とくに、インドでは、経済成長を背景に拡大している需要を取り込み、大きく販売を伸ばした。現地通貨ベースでは売上高が前年比41%増になったという。

  • アジア・オセアニアの空調事業について

化学事業の売上高は前年比24%増の2,634億円、営業利益は66%増の454億円。ここでも売上高、営業利益とも過去最高を更新した。半導体や自動車市場の好調な需要を捉え、ガス、樹脂・ゴム、化成品などのすべての商品群で販売を拡大。売価向上の効果もあったという。

その他事業は、売上高が前年比30%増の884億円、営業利益は8%増の72億円となった。

2024年に創業100周年の節目、初の売上高4兆円突破を計画

一方、2023年度(2023年4月~2024年3月)の連結業績見通しは、売上高が前年比3.0%増の4兆1,000億円、営業利益は6.1%増の4,000億円、経常利益は3.8%増の3,800億円、当期純利益は2.4%増の2,640億円とした。同社初となる売上高4兆円突破、営業利益4,000億円台を目指すことになる。為替影響を除く実質ベースでは、売上高は8%増、営業利益は14%増になる。

  • 2023年度の連結業績見通し

ダイキン工業の十河社長兼CEOは、「世界的な景気回復の遅れで事業環境の厳しさが増すが、前年度の過去最高業績につなげた実行力をバネにして、もう一段、スピードを上げた施策の展開と、成果を創出。営業利益4,000億円を必達し、さらなる業績拡大も視野に入れ、挑戦していくことになる」とした。また、「カーボンニュートラルの実現に向けた動きの加速や、インドなどの新興国市場の成長は、ダイキン工業にとって、大きなチャンスでもある。重点テーマの実行を通じて培ってきた強みをさらに磨き、将来に向けた成長投資を加速しながら、経営体質の強化を進め、2023年度からのFUSION25後半3カ年計画のスタートダッシュにつなげる。さらに、2024年は、創業100周年にあたる。厳しい経営環境のなかでも、過去最高業績を更新し、節目の年を迎えたい」と意気込みをみせた。

2023年度の営業利益4,000億円の見通しについては、原材料物流費はマイナス320億円、為替はマイナス300億円、固定費などでマイナス970億円の影響があると見込む一方で、拡販で670億円、売価で650億円、コストダウンで500億円のプラス効果を見込む。

  • 2023年度の営業利益に対する増減分析予想

部門別業績では、空調事業の売上高が前年比3%増の3兆7,320億円、営業利益が7%増の3,470億円。そのうち、日本の売上高が前年比7%増の5,900億円、米州は3%増の1兆3,800億円、欧州は5%増の6,900億円、中国は2%減の4,200億円、アジアは4%増の4,300億円を見込んでいる。

化学事業の売上高は前年比5%増の2,755億円、営業利益は1%増の460億円。その他事業は、売上高が前年比5%増の925億円、営業利益は3%減の70億円とした。

  • 2023年度の部門別業績見通し

創業100周年の節目の年に、過去最高業績を目指すダイキン工業は、2023年度にどんな施策を打ち出すのだろうか。

その基本方針について、十河社長兼CEOは、「環境変化をチャンスとした『事業拡大およびシェアアップ』と、『収益力の強化』の2つの観点から、全社で取り組む重点テーマを定めた」とし、「将来に向けた成長投資を加速し、需要増に対する生産能力拡大に向けて、2024年度末までに、ポーランド、メキシコ、インドネシア、中国・恵州、インドに、5つの新工場を立ち上げ、製品供給とコスト競争力強化につなげる」と述べた。

2023年度に取り組む全社重点テーマとしてあげたのが、「シェアアップを実現する販売力強化」、「ソリューション事業の収益拡大」、「FUSION25重点テーマの推進」、「強靭なサプライチェーンの構築」、「戦略的売価施策」、「グローバルでのコストダウン」、「プロセスイノベーションによる固定費の削減」、「買収会社、設備投資の成果創出」、「グループ会社の収益力の抜本的強化」の9つである。

「シェアアップを実現する販売力強化」では、「上海ロックダウンによる部品調達の影響を受けるなかでも供給を継続し、各地域での販売拡大とシェア向上につなげることができた。この成果をもとに、2023年度は、市場顧客に密着した提案力強化、販売店やサービス店の強化、デジタルを活用した販売革新を、各地域で加速していく」と語る。とくに中国においては、ゼロコロナ政策解除後の感染拡大が落ち着く前から、積極的にオンラインを活用した販売活動に注力。2023年3月には前年同月比11%増にまで回復していることを示しながら、「今後はオフラインの販売が鍵になる。ニューライフステーションを増設し、中国全体でショールームを活用したライブコマースの強化にも取り組む。また、データを活用したリニューアル需要の獲得にも取り組み、オンラインとオフラインを融合した販売に注力する」と述べた。

「ソリューション事業の収益拡大」では、各地域での販売網強化を継続するのに加えて、ソリューション人材およびソリューション技術の強化を図る。とくに、グローバルで需要が堅調なデータセンター向けソリューションを加速させるほか、エネルギー高騰や人手不足に対応した差別性のある提案を強化し、事業拡大を図る。

「FUSION25重点テーマの推進」では、「北米空調事業拡大」、「ヒートポンプ暖房事業拡大」、「インドの一大拠点化」の3点から説明した。

「北米空調事業拡大」では、金利上昇による需要減速リスクがあるものの、カーボンニュートラルを背景にしたインバータやヒートポンプへの関心の高まり、環境規制の強化などの動きを捉えて、これらがダイキン工業が得意とする環境プレミアム商品による販売拡大のチャンスにつながるとし、ディーラー網の整備、販売店サポートの充実により、住宅用FITや業務用VRVの販売拡大に取り組むという。また、アプライドでは、買収したレップやシステムインテグレータのノウハウを活用して、サービスソリューション事業を拡大。メキシコ新工場を活用したコスト競争力の強化にも取り組むという。

「ヒートポンプ暖房事業拡大」では、欧州を中心とした旺盛な需要に対して、ヒートポンプ暖房で2000年代から先行してきたノウハウの活用、現地生産および現地開発機能を活用する。「ベルギー、チェコ、ドイツの既存工場の増強に加えて、2024年度にはポーランドの新工場を稼働。ベルギーには暖房専門の研究開発拠点を新設し、実験棟は2023年度に完成させる」などとした。

「インドの一大拠点化」については、インドでの中間所得層の増加、電力網の整備により、空調事業は大幅な成長が見込まれており、建設を進めているインド新工場の稼働により、生産能力を倍増させるだけでなく、スケールメリットを生かした高いコスト競争力を実現。インド国内での販売拡大に加え、グローバルへの製品供給も視野に入れているという。「インドでのエアコン普及率は10%程度であり、一気に急拡大する可能性がある。また、インドでは毎年150万人以上の新卒のIT人材が輩出されている。こうした豊富な人材リソースを活用し、生産、研究開発、部品供給をグローバルで担う一大拠点にしていきたいと考え、具体的な検討を進めているところだ。これまでは地産地消を原則としてきたが、ボリュームゾーンでのコスト競争力を考えた場合、グローバルで500万台規模の出荷が想定できる特定機種をインドで生産するといったことも視野に入れている」と述べた。

4つめの「強靭なサプライチェーンの構築」では、各地域での調達や生産の最寄り化に加えて、調達と生産のダブルエンジン体制とバックアップ体制を構築して、供給力を強化。物流の効率化も進める。「グローバルでの需要拡大の加速にあわせて、パワー半導体や磁石、電磁鋼板しといった戦略的重点部品を明確化し、安定して調達するための体制づくりを行っている」とした。

また、「現在、空調機器では、汎用領域の半導体を使用しているが、今後、EV化の流れが本格化すると、そちらに優先的にもって行かれる可能性がある。さらなる省エネ化を図るためにインバータの高性能化に必要なのがパワー半導体である。自分たちでパワー半導体の開発をしていくことを考えており、すでに約20人の体制を敷いている。パワー半導体に独自の設計をどう盛り込むかが重要であり、そこでは凸版印刷などの企業との提携もある。次世代の高機能インバータ向けのパワー半導体を独自設計し、いち早く展開することで、半導体を押さえていくことができる」などと述べた。

「グローバルでのコストダウン」では、「過去2年間は、売価上昇と販売数量増根コストダウンによってマイナス影響をカバーしてきたが、2023年度はグローバル横串でコストダウンテーマを共有し、実行することで、過去最大となる500億円規模のコストダウンに挑戦する」と語った。銅からアルミなどへの材料の置き換え、基幹部品の標準化、開発や調達、製造に加えて、サプライヤーも参加する四位一体でのコストダウン活動、内外作の最適化を推進。さらに、グローバルで展開しているベースモデルの原価を総点検し、原価構造を洗い直し、設計からの見直しを含めてコストダウンにつなげていくという。「現在、住宅用エアコンの80%が日本で開発したベースモデルを活用しているが、部品の集約、小型化、仕様の共有化を進めることで高付加価値機種からボリュームゾーンのすべてで収益力を高める。世界で同時に立ち上げていく新工場においても、組立ラインの自動化、省人化、生産性向上に取り組み、コストダウンにつなげる」と述べた。

さらに、「買収会社、設備投資の成果創出」では、2022年度には約2,500億円の設備投資を行ったのに対して、2023年度には約3,150億円の投資を計画。新工場では、2024年7月に稼働するヒートポンプ暖房生産のポーランド工場で400億円を投資。2024年4月に稼働予定としているDNA向けFITの生産を行うメキシコ工場で250億円、2024年12月に稼働するルームエアコンの生産を行うインドネシア工場に250億円を投資する。また、2024年10月に中国・恵州にルームエアコンの生産を行う第3工場を稼働させ、250億円を投資。インドでは、ルームエフコンと圧縮機を生産する第3工場を2023年8月に稼働させ、300億円を投資する。

  • 設備投資と研究開発費の見通し

新たな投資を積極化しながら、徹底したコストダウンとサプライチェーンの強化といった体質改善にも取り組むダイキン工業。そして、なによりも、それを実行する力が、成長の原動力になっている。

ダイキン工業は、創業100周年の節目を迎えようとするなかで、より力強い成長戦略を描くことになる。