NTTは、2027年度を最終年度とする新たな中期経営計画「New value creation Sustainability 2027 powered by IOWN」を発表した。

  • NTT 代表取締役社長 社長執行役員の島田明氏。2027年度への新たな中期経営計画を発表した

    NTT 代表取締役社長 社長執行役員の島田明氏。2027年度への新たな中期経営計画を発表した

2027年度にEBITDAで約4兆円を目指すほか、今後5年間で成長分野に約8兆円の投資を計画。「新たな価値の創造とグローバルサステナブル社会を支えるNTTへ」、「お客さま体験(CX)の高度化」、「従業員体験(EX)の高度化」の3つの領域において、9つのテーマに取り組む。また、IOWNの事業拡大に向けて、光電融合デバイスの製造会社設立を2023年6月に設立するほか、2023年度のIOWNの研究開発費用として約1,000億円を投資。今後も継続的に資金を投下して、IOWNの実用化を加速する姿勢も示した。

  • EBITDAを主要指標とし、これを約4兆円に引き上げることを目指す

  • 成長分野には約8兆円の投資を計画

NTT 代表取締役社長 社長執行役員の島田明氏は、「これまでに大規模再編を行ってきたが、新中期経営計画のなかでは、現時点では大規模再編は頭のなかにはない。環境変化にあわせて必要があれば考えていく。まずは、いまの組織体制から生み出す新たな成長を引き出していきたい」とした。

新中期経営計画では、2020年度の財務目標として、全社EBITDAを20%増加。そのドライバーとなる成長分野ではEBITDAを40%増加させるとともに、2025年度の海外営業利益率10%の達成を打ち出した。既存分野では、2027年度までにEBITDAで10%増とするほか、資本効率性の向上に向けてROICで9%を目指す。また、サステナビリティ関連指標として、女性新任管理者登用率を毎年30%以上とするほか、2040年度のカーボンニュートラルおよびネットゼロを目指すこと、現在、57%の従業員エンゲージメント率のさらなる改善に取り組む。

さらに、新中期経営計画の基本的な考え方として、「NTTは挑戦し続けます。新たな価値創造と地球のサステナビリティのために」を掲げ、成長分野に対しては、5年間合計で約8兆円を投資する。これは、2022年度実績の50%増となるもので、年間1兆5,000億円規模を想定している。既存分野への投資を含めると5年間合計で12兆円となる。

また、2027年度に向けて成長のためのキャッシュ創出力を増大することを目指し、これまで横ばいだったEBITDAは拡大する経営目標を打ち出し、2022年度実績で3兆3,000億円から20%増となる4兆円を目指す。

  • 成長分野への投資は5年間合計で約8兆円で、これは従来比で50%増の規模。既存分野も含めたトータルでの投資規模は約12兆円にものぼる

  • EBITDAは20%増の約4兆円。成長分野に限れば40%増の目標となる

3つの取り組みの柱のうち、ひとつめの「新たな価値の創造とグローバルサステナブル社会を支えるNTTへ」では、「IOWNによる新たな価値創造(構想から実現へ)」、「データ・ドリブンによる新たな価値創造」、「循環型社会の実現」、「事業基盤のさらなる強靭化」の4点に取り組む。

  • 取り組みの3つの柱。「新たな価値の創造とグローバルサステナブル社会を支えるNTTへ」、「お客さま体験(CX)の高度化」、「従業員体験(EX)の高度化」

「IOWNによる新たな価値創造(構想から実現へ)」では、2023年6月に、NTTイノベーティブデバイスを設立することを発表した。新会社は、NTTエレクトロニクスを統合。NTTの100%子会社として、300億円の出資金でスタートし、順次増資を行う。売上規模は約2,000億円を想定している。

NTTの島田社長は、「AIの活用拡大に伴う消費電力増大への解決策として、低消費電力を実現する光電融合デバイスの早期事業化に向けて、光電融合デバイスの製造会社を設立する。量産時の生産体制については、今後検討していくことになる」としたほか、「2025年にサービスを予定しているIOWN2.0では、ボード接続用デバイスを投入することになる。そこに向けて、光電融合デバイスを出荷できる準備を整えたい。また、2029年度にはIOWN3.0によるチップ間向けデバイスの出荷を予定しており、そこに向けてしっかりと歩んでいきたい。ここでは生産設備などにおいて、より多くの投資が必要になるかもしれない。現時点では、2030年前後の半導体業界の地図は想像がつかないため、量産体制については、走りながら考えていく。IOWN 4.0による光半導体の実現に向けて一歩ずつ努力したい。IOWNの進捗は順調である」などと述べた。

また、6Gを含むIOWNの研究開発全体で、2023年度に約1,000億円を投資。その後も継続的に投資を行い、Super White Boxと呼ぶサーバーや、Digital Twin Computingなどの実用化を加速させる。

  • IOWNによる新たな価値創造(構想から実現へ)

「データ・ドリブンによる新たな価値創造」では、パーソナルビジネスなどの成長分野への投資を積極化。今後5年間で1兆円以上の投資を行う。「個人のお客様を中心としたパーソナルビジネスの強化に向けて、NTTドコモのスマートライフ事業の強化を図る。金融、ヘルスケア、メディカルなどの各分野でのサービスの拡充および高度化に取り組むとともに、これらのサービスを通じて獲得した各種データを分析することで、よりパーソナライズした最適なサービスの提供ができる」とした。

  • データ・ドリブンによる新たな価値創造(ドコモ・スマートライフ事業の強化)

さらに、AIやロボットの活用などによる社会、産業のDX/データ利活用の強化も進める。デジタルビジネスなどに、今後5年間で3兆円以上を投資する計画だ。「企業などに対してAI、ロボット、IOWN、デジタルツイン、セキュリティなどの技術を活用したソリューションサービスやプラットフォームサービスをグローバルで展開し、生活や社会を支える産業の変革を進める」と述べた。

  • データ・ドリブンによる新たな価値創造(AI・ロボットの活用)

また、データセンターの拡張および高度化も推進。今後5年間で、1兆5,000億円以上を投資し、データセンターの容量を、現在の1100MWから倍増させる。また、2023年度までにカーボニュートラルの実現を目指す。「世界第3位となるNTTグループのデータセンター基盤を、さらに拡張するとともに、IOWN技術の導入による高度化を進める」とした。

  • データ・ドリブンによる新たな価値創造(データセンターの拡張・高度化)

「循環型社会の実現」においては、今後5年間で約1兆円を投資。「グリーンエネルギーとICTの組み合わせにより実現するグリーンソリューションを推進する。また、再生可能エネルギーの発電事業を拡大するとともに、蓄電池やEMSなどを利用した地産地消型による最適化、効率化した電力の安定供給を実現する」としている。

循環型ビジネスの創造にも取り組む方針を示し、島田社長は、「再生可能エネルギーに加えて、様々な産業間で廃棄物の再利用を進め、資源を循環させることで持続可能な社会を実現する。IOWN、5G、IoT、AI、ロボットの活用により、一次産業の効率化、付加価値化を進め、産業振興や地域創生に貢献する」と述べた。

  • 循環型社会の実現に、今後5年間で約1兆円を投資

さらに、2040年度に向けた環境エネルギービジョンである「NTT Green Innovation toward 2040」においては、Scope1、2に加えて、Scope3への拡大を目指す方針を示した。サプライヤーとのさらなる連携強化や、顧客の脱炭素への貢献を通じて、ネットゼロの実現を目指す。

  • 2040年度に向けた環境エネルギービジョンである「NTT Green Innovation toward 2040」において、Scope3への拡大を目指す方針

「事業基盤のさらなる強靭化」では、2025年度までに1,600億円規模の投資により、強靭なネットワークおよびシステムを構築する。

NTT東西では、2023年4月3日に通信障害が発生。「これまでの通信故障の反省や教訓を生かし、大規模故障やサイバー攻撃などの発生を踏まえた強靭なネットワークやシステムを実現し、社会インフラを強化する。また、激甚化する自然災害等への対策を強化する」と語った。

  • 「事業基盤のさらなる強靭化」では、2025年度までに1,600億円を投資

2つめの柱となる「お客さま体験(CX)の高度化」と、3つめの「従業員体験(EX)の高度化」は、ひとつめの柱を支える施策と位置づける。

「お客さま体験(CX)の高度化」では、「研究開発とマーケティングの融合」に取り組む。持株会社において、研究開発推進機能とマーケティング機能、アライアンス機能を融合。マーケティング機能を含めたR&D組織として、研究開発マーケティング本部を新設する。同本部には研究企画部門を移管。マーケティング部門とアライアンス部門を同本部内に新設する。新ビジネス推進室は廃止する。「プロダクトアウト型の研究開発の強化に加え、グローバルでのパートナーとの共創により、研究開発からプロダクト提供までを行うとともに、様々なパートナーとのアライアンスを推進する」という。

  • 「研究開発とマーケティングの融合」の取り組み

また、「CXを重視したサービスの強化」にも取り組み、ここでは、「お客様体験ファースト」を掲げ、マーケットインによる顧客満足と事業成長を同時に実現することを目指す。「あらゆるステークホルダーをお客様やパートナーとして捉え、お客様体験ファーストを推進する。カスタマージャーニーに寄り添いながら、アジャイルでサービスを常に改善およびアップデートすることで、お客様の期待を超える新たな体験や感動を提供し、選ばれ続けるNTTグループを目指す」と述べた。

  • 「CXを重視したサービスの強化」の取り組み

「従業員体験(EX)の高度化」では、3つのテーマに取り組む。

「オープンで革新的な企業文化への改革」では、「お客様重視を基本に、オープン、コラボレーション、トライ&エラーを重視する文化を浸透させるとともに、ダイバーシティ&インクルージョンを引き続き強化する」と述べ、「自律的なキャリア形成への支援強化」においては、社員の自律的なキャリア形成を支援し、事業の成長を支える人的投資を拡大する。2023年4月には専門性を軸にした新たな人事制度を導入し、18の専門分野の研修メニューを用意し、社外資格の取得を支援。社員のキャリアデザインをサポートするキャリアコンサルティング機能の充実を図る。そして、「全世界の従業員の家族を含めたサポートプログラムの強化・充実」では、従業員が在職中に死亡した場合に、子女の大学卒業までの教育費の一部をサポートする制度を拡充する。

  • お客様重視を基本に、オープン、コラボレーション、トライ&エラーを重視する文化を浸透させるとともに、ダイバーシティ&インクルージョンを引き続き強化する

一方、NTT普通株式1株につき、25株に分割することも発表した。島田社長は、「投資単位を大幅に引き下げ、当社株式に投資しやすい環境を実現し、NTTグループの持続的な成長に共感してもらえる投資家層を幅広い世代に拡大したい。とくに、若い人たちに投資をしてもらいたい。2024年1月から新NISAが開始されることも視野に入れている」と説明。また、「小学生の投資教育として株式を購入する例があるが、AmazonやGoogleの投資単位は1万3,000円程度であり、米国株が中心になっている。NTTは40万円が最小単位になるため購入しにくい。25分割すると1万6,000円程度になり、AmazonやGoogleと同等になる」などと語った。現在、NTTの個人株主の約8割を60歳以上が占めているという。

  • 25分割はさすがに衝撃的だったが、新NISA対策ということなら納得か

なお、NTTグループの生成AIの取り組みについても言及。島田社長は、「NTTは、COTOHAのブランドで、AIに関するサービスを提供。また、金融や保険などの特定分野に特化したAIを提供している。軽量で、高性能であるという評価を得ている。言語処理だけでなく、画像処理や音声処理を含めたサービスとなっており、これをブラッシュアップしていく過程において、研究所では大規模言語モデルにも取り組んでいる。また、海外においては、ChatGPTをサービスとして提供している。国内ではトライアルの段階だが、マイクロソフトのAzureに実装されている生成AIサービスをお客様のソリューションのなかに組み込んでいくことは十分ある」とする一方、「いま話題になっている大規模言語モデルは、電力消費が大きい。GPT-3は、パラメータが1,750億もあり、8GPUを使用している。言語モデルを小型化したり、カスタマイズ性能を向上させたりしたいと考えており、音声や映像、画像といったマルチモーダルに対応したものを市場に出していきたい。2023年度内には、法人向けに、小型軽量で、効率性の高い言語モデルを出していきたいと考えている」などと述べた。